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されど罪人は竜と踊る 12
浅井 ラボ, 宮城
人はよき母であり、良き父であり、良き兄弟であり、良き友人であり
なお、なんの矛盾もなく、楽しんで他人の親や子、兄弟、友人を殺せる。
既巻紹介 10巻85点 11巻85点 0.5巻80点
個人的に、現代で最も好きな小説『され竜』。この小説がどういうものでどういう魅力があるのかについては、こちらの記事でふんだんに語っております。
大都市エリダナで攻性咒式士として活躍するガユスとギギナのコンビを中心とした物語。
剣と魔法でゴブリンや竜を倒す、そんな王道ファンタジー的側面もあります。
が、この世界の魔法に当たる「咒式」という存在は、科学に則り高度に体系化されたものとなっています。
例えば、最も頻出する攻撃咒式「爆炸吼(アイニ)」であれば、「
TNT(トリニトロトルエン)爆薬を作り出し雷汞、アジ化鉛を起爆薬にして炸裂させ秒速二千メルトルから六千メルトルの爆風で対象物を破壊する。金属片の混入具合によって威力を調節可能」といった具合に、全ての咒式は科学的な現象として説明されます。
ファンタジーでありながらも科学的に複雑な設定をされ、立体映像を映し出す携帯端末が一般化しているなど近未来SF的でもある独自の世界観。
更に、主人公やヒロイン始め基本的に性格破綻者しかいないアクの強いキャラクター達。
全員が一筋縄では行かない性格で、そんなキャラ達が織りなす勧善懲悪とは最も程遠いストーリー。
正義と悪の戦いではなく、それぞれの正義の衝突。
哲学的・社会学的な味があり、お世辞にも後味が良いとは言えません。
ライトノベルに分類されているとは思えないエロ・グロ描写も相俟って、鬱小説の名をほしいままにしている作品です。ある意味で、人間が非常に人間らしい物語とも言えます。
物語の構成自体にもミステリ的な仕掛けが施してあり、急転・逆転していく展開を楽しめます。
クセが強すぎるので余りにも人を選びますが、選ばれた人間は病み付き間違いなしの物語。
11巻は去年の5月でほぼ1年ぶりの続きなので、本当に楽しみにしておりました。
2010年の7月発売の9巻から始まった使徒編。
『され竜』の中でも最長の長編連載となりましたが、3年9ヶ月を経て遂に完結!
最終巻にして、第一部ラストと銘打たれたこの12巻。
表紙を捲ったら、まさかの結婚報告。
浅井ラボ先生、御結婚おめでとうございます!
しかし、本編は1頁目から完全に映像化出来ない血みどろの展開です(笑)
11巻はグロ控えめと思ってたら、この有様ですよ!
剣と刀と槍と斧と鎚と鎌と暗器と、炎と爆発と雷撃と鉄塊と氷槍と光線と毒と金剛石と音波と核融合と精神汚染と重力と数列と存在確率と、人と超人と獣と蟲と怪物と異形と巨人と竜と、あらゆる物理・超物理現象と存在が入り乱れるこの唯一無二の超級バトルを是非とも動画で観たいのですが……『境界線上のホライゾン』のバトルも、描写は物凄く困難だったでしょうが、見事に映像化されていたので、『され竜』もその気になればきっと素晴らしい物が出来ると信じているのですが……
エログロ面で到底ライトノベルとは思えないような領域をひた走っているので、OVAでもないと無理であろうというのが辛い所です。
それでも、私はいつか観られる事を嘱望して止みません。
それ程までに、『され竜』のスピード感抜群の戦闘は魅力的です。
特に、群像劇色が強い様々な勢力が錯綜するこの「使徒編」、クライマックスとそこに向けた戦闘は実に味わい深い面白さでした。
そして、怒涛の展開も相変わらず。
本当に楽しく読ませて頂きました。
次はまたいつになるか解りませんが、続きを心待ちにします。
85点。
以下、ネタバレ雑感。
まず、お気に入りの節。
奴隷と王様と、貧者と金持ちと、英雄と悪漢と
役割に甘んじる限り、誰もが運命の下僕に変わりはしない。
退屈は人を死なせる。
死なないために、人は退屈を殺そうと一生を費やす。
一方で、楽しみだけを望むと、人はいくらでも残酷になる。
この世の血と惨劇の最前列に立って楽しむ。
ずーっとずっと、竜と踊りつづける。
ただ、前回に引き続き今回も哲学成分はちょっと少なめでそこは残念でした。
いやぁ
、カジフチにアンヘリオにブラージェモにロレンゾにヒルデ、そしてガユス・ギギナ・メッケンクラート・レンデン・デリューヒンの同盟、イーギー・ジャベイラ組が入り交じっての群像バトルは燃えました。数百頁にも及ぶバトルは圧巻。
キヒーアの治癒能力がチートに過ぎますが。
極大咒式のぶつかり合いも良いですが、ホン・ロンを低位咒式で撹乱するような小賢しい部分も好きです。
二十九章冒頭の「戦争確率論」は、実在の本に書いてあった理論だと浅井ラボ先生自身が呟いておられたような。
前半半分で、大方決着してしまったので、残り半分は何だろう、ミルメオンやワーリャスフが登場するのかな、とワクワクしていたら……
まあ、バモーゾの師匠でもあるアンヘリオがああも簡単に退場する訳もないですよね。
処刑直前のパートはミステリ的な面白味もあって良かったです。
パンハイマに関しても、相手がザッハドとはいえあんなにあっさり死ぬ筈はない、死ぬにしても何かしら保険を打たなければあの場にわざわざ行っていはいないと信じていたので、逆に安心しました。
しかし、ペトレリカの全てのすらもパンハイマの演技だったというのはビックリですが。
ジオルグの仇であると推測されるパンハイマを法で裁こうとした時、ガユスはともかくギギナも次善として納得していたのはちょっと意外でしたが。
何が何でもこの手で八つ裂きにする位の意気込みでありそうだったので。
実際、ジオルグの死の真相はどうなんでしょうね。
絶対に単純なものではないとは思いますが。
しかし、ロレンゾに鍛えられて踏破者として育つガユス・ギギナも見たかったですね。
ハーライルも散々苦労しながら何も報われておらず、可哀想です。
ラルゴンキンのウソには普通に騙されました(笑)
ゴートレックとノエスの件は、され竜っぽく現代社会の問題が捨象されていて良かったですね。
ガユスが最後まで説得で解決しようとする部分の主人公の面目躍如感。
ウゥグ・ロンナの門はまさかの袋女。
さながらクトゥルフのような、この世ならざる異界の顕現にワクワクしました。
そんな異常な異端を日常として傍らに視ていたザッハド。
常人の理を超えているのも納得です。
そして、ザッハドは人類全体の脅威である「運命の時」に備えていた、と。
殺人王が人類の救済のために奔走しており、そんな彼を殺そうと必死だった主人公たちという構図がいつもながら絶望的で素晴らしいですね。
更に、そんなザッハドも実は一冊の書であったと。
その上で、アインフュンフかと思わせた棺の正体は何とユラヴィカ。
屠竜刀ゾリューデが出て来た時からもしやと想いましたが、まさかの復活。
またユラギギが見れるのは嬉しい限りです。
ちゃんとチェデックの名前が出て来るのも。
しかし、十二冊分の力を得たユラヴィカとか反則に過ぎます。
キヒーアとホン・ロンとアダマチウス・スとハーコンだけでも大抵の咒式士には勝てるでしょうし。
そして、ヨーカーンはそれ以上ですか。
ヨーカーンの目指す所も気になります。
とりあえず世界は二周目のようですが。
そして、性別は無意味ですけどヨーカーンが男なのか女なのかも地味に気になります。
どっちでも好きですけど。
最後のガユスとジヴの成婚という展開は、痛みを伴いながらもこれまでにない幸福感に満ちたEDで、逆に吃驚しました。
浅井ラボ先生ご自身のご結婚と、どれ程までに関わっているのか知りたいです。
宮城産の挿絵で敢えて顔を描かないという演出が良かったですね。
今回は性描写がなかったので、最後できっと来るだろうことは疑っていませんでした。
ユーゴックの仇として刺されるという最後の展開も、実にこの世の因果応報を感じさせて重畳です。
主人公の行いだからといって簡単に正当化されず、恨みを発露させられるのが本当に素晴らしいですね。
人類の敵や、エリダナ地下迷宮、公爵級のアイオーンや108帝、伝説の竜達などなど、まだまだ気になる部分は一杯ありますが、今後はどこまで描かれるでしょうか。
クエロと和解する日も訪れるのでしょうか。
そして、ヒルデに再登場はあるのか(笑)
今後も楽しみでなりません。
出来るだけ早く発売するよう、奥様の賦活に期待します。