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死役所 1巻

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死役所 1巻
あずみきし

新潮社バンチコミックス

お客様は仏様です

公式サイトで1話の試し読みができます。

最近、『天間荘の三姉妹 スカイハイ』(紹介記事)や『あわいの庭師』(紹介記事)など、現世と死後の世界の間の世界を描いた物語をよく読み、紹介している気がします。
今作も、そんな作品の一つです。
ただ、他の作品と違って死者が未練を解消するというよりは、この世の不条理を噛み締めるような内容になっているのが特徴です。

読んだ後「うぁぁ……」という気分になります。
が、それが醍醐味の作品。



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あの世とこの世の境に存在する「死役所」。
そこにはあらゆる死者が訪れ、それぞれの死因に応じて「自殺課」「癌死課」など所定の場所で手続きを行い、天国や地獄、あるいはそのどちらでもない然るべき場所へと導かれて行く――

そんな死役所で働く「他殺課」の役人・シ村を中心に、死役所を訪れる死者たちを描いた、1~2話完結型の連作短編です。

「成仏許可申請書を提出して頂かないと成仏できない」
「条例で定められておりますので」
など、死という事象に対してお役所仕事感がしっかり出ている所が滑稽で面白いです。
シ村の飄々としたキャラクターが、また役人然としていて合っています。


ただ、話の内容はダークで暗澹とした心境に陥ります。


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いじめや虐待などにより死んで死役所を訪れた子供たちも登場。
実に後味の悪い話が多いです。
第四条では苛烈な虐待を受けながらも母親を信奉する子どもの心理が巧みに描かれ、それに対する最後のシ村のセリフなどは非常に強烈。

ただ、この後味の悪さはそのまま現代社会が抱える不条理と直結しています。
『ウシジマくん』などに近い、リアルなノワールです。


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極め付けであるのは、5話。
普段は大人しいものの、些細なことでキレる青年。
働くのがバカバカしくなり、死刑囚として安穏と暮らすために小学生を殺害する計画を練る――

近年、実際に刑務所に入る為に犯罪を犯す人が増えているといいます。
ワーキングプアでいるよりも、刑務所にいる方が余程人間的な生活ができるのだとしたら、その選択を咎めるのは倫理的には可能であっても、根本的に抑止するのは困難です。
巻き込まれる方はたまったものではないのですが……

本当に、この世の中ではこんな愚かで浅はかな思惑に巻き込まれて最愛の存在を奪われてしまうような、とんでもない理不尽が起こり得ます。
それに遭うか遭わないかは、自分の注意や警戒で減じられる部分もあれど、その多くを偶然性に依拠しているのが現実です。
実際に、こういった不条理で家族や恋人を喪った人は読むのが辛い話かもしれません。

今の世界に厳然と存在する悲哀や憤激、社会の暗部がしかと書き留められた作品と言えるでしょう。


お話自体は短編ですが、シ村や死役所を巡る大きな物語も背後にありそうで。
冤罪で死刑になった人の扱いや、将来もし死刑制度が無くなったら死役所の在り方も変わるのかな~、などと詮無きことを考えました。

後書きで、「自分の作品には感情移入しないタイプ」と書いていたのがちょっとびっくりでした。
逆に、そうでもないとこういう作品は辛過ぎて描けない気もしますが……。


後味の悪いお話が好きな方、ブラックやノワールといったジャンルに惹かれる方にお薦めです。


70点。

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