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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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ナナのリテラシー1巻

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昨日から、私もキュレーターとして参加させて頂いている、マンガHONZが公式にスタートしました!
「とにかく面白い漫画」「あまり知られていないけれど、しっかり紹介すれば必ず誰かに手に取って貰えるであろう漫画」を、平日は毎日一作品ずつ取り上げて行きます。
早速、昨日は堀江貴文さんが『重版出来』を、今日は佐渡島庸平さんが『風雲児たち』を紹介。

私も大好きな作品をもっと広く読んで貰えるべく、気合を入れて書いて行きます!


さて、今回紹介する漫画は、そんな今後の漫画業界を語る上でも欠かす事の出来ないであろう一冊。



ナナのリテラシー 1巻Kindle版
鈴木みそ

電子書籍は
大きな出版社は救いませんが
作家を救います


『銭』や『マスゴミ』、『限界集落温泉』など、現代社会の様々な構造の裏側を暴いてみせる秀逸な作品を数多く著す、鈴木みそ先生の最新作。

今回の作品では、そんな鈴木みそ先生が自身を半ばノンフィクション的に登場させながら、マンガを含む電子書籍、そしてそれを取り巻く出版界の今と未来を描きます。
ある意味、Kindle版で読むのに最も相応しい作品と言えるかもしれません。


主人公の女子高生・許斐七海が一週間の職場体験で赴いたコンサルタント会社プロテクトで出会う、変人だが天才の社長・山田仁五郎。

返本率が上がり、年々先細る出版社。
他方で、業界構造にも苛まれながら低迷する一人のベテラン漫画家・鈴木みそ吉。
それぞれが生き残る為の道筋を、仁五郎は示していく――




「電子書籍が出版社を救う可能性はほぼない」
そして、「それ以上に出版社に未来はない」と言い切る仁五郎。

竹熊健太郎先生は、「出版業界はバブル期に向こう30年分の利益を先駆けて上げてしまった」と指摘します。
かつてのように週刊少年ジャンプが600万部売れる時代は、最早夢物語。

売上は減りながらも、出版される品数は年々増加しており、マンガだけで年間12000冊が出版される現状。
その「刷らないと死んじゃう病」のカラクリについても、作中で丁寧に説明されます。

小売書店は潰れ、売り場面積も縮小傾向にある中で、発行点数は増えているので、新刊台に置かれないまま消えていく新刊も増える一方。


そんな苦境に立たされた鈴木みそ吉先生に仁五郎が提案するのは、クラウドファンディングと電子書籍。

ただ、自前での電子データ作成や管理、そして契約書なしで付き合ってきた出版社から、自作品の権利を得る交渉などなど……
そこには、未知・未経験の大海が広がっています。



新しいことに絶えずチャレンジしなさい
その先に希望がある


しかし、七海の父から教わった信条による力強い提言により、鈴木みそ吉先生は独立の為の戦いを始めていく――

この言葉はグッと来ましたね。
出版社も、漫画家個人も、そしてそれ以外の多くの人も、激動期にある今、旧来のシステムに縋り付いたままではなく、パラダイムシフトと行動が要請されるのでしょう。




実際にKindleで本を出すために、作家がやらねばならない事の行程が事細かに描かれます。
EPUB作成に当たっての解像度やデータサイズ、フォント関係やAndroid端末での勝手の違いなど、細かな無数の苦労。
多少はフィクションも混じりながらですが、同業者にとっては大変に貴重な先駆的資料であるでしょう。




一方で、出版社に対して、仁五郎は編集者のエージェント化を提言。
従来はどうしても出版社側に立たざるを得ない編集者の立場を脱し、あくまで作家側に立って仕事をするエージェント。
これは正しく、『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』などのヒット作の担当編集を務めながら、エージェント会社コルクの代表として独立し、マンガHONZの編集長も務める佐渡島庸平さんのような存在ですね。

そんな佐渡島さんへのインタビューは、出版の10年先・20年先を見据えた読み物としても非常に面白いので、一読をお薦めします。


漫画や出版に関わる方は、まず読んでおいて損のない内容です。
そうでない方も、業界の裏事情を知れる一風変わった仕事漫画として、普段読んでいる漫画のメカニズム解説書として、面白く読めるでしょう。
広くお薦めです。

2巻では、現在スマホやソーシャル・ブラウザゲームに席巻されてこちらも厳しい状況にあるゲーム業界のお話になるようで、こちらも楽しみです。


75点。

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