ヒトはイカにして滅んだのか?
柴谷けん
「このマンガがすごい!」が、新人漫画家を募集する「このマンガがすごい!大賞」で、2012年に『小さなおじさんと、不機嫌な花子さん』で優秀賞を獲得。
『第七女子会彷徨』のつばな先生にも推薦を受ける、期待の俊英による初連載作品の単行本です。
恐らく世間的にはそれ程まだ注目度は高くないと思われますが、今後も注目し続けたいと思わせる光る物を、今作でも感じさせてくれました。
人類が滅びた、数万年後の地球。
そこで反映していたのはイカリアンと呼ばれる種族。
そんなイカリアンの考古学者達が、人間が滅びてしまった原因を探究する……
という名目で、現代の様々な文化や風俗を皮肉るという『拝啓、旧人類様。』(1巻75点 2巻70点)のような作品です。
なかなか表紙にインパクトがありますが、中身は人間を中心に端然と描かれます。
草食系男子による砂漠化。
女子会という名の空気汚染。
容姿という名の格差社会。
未来イカ達の様々な曲解に笑える一方で、ある側面では核心を突いており、背筋に薄ら寒さを感じる部分も。
又、今作の素晴らしい所は、前二冊の単行本にも見られたような構成力。
ギャグのような内容でありながらも、一話一話の脚本にも趣向が凝らされています。
特に最終話の「冷静と情熱とイカのあいだ」などは、テーマも含めて唸らされ、好きなお話です。
加えて、作品全体を通しても連作短編として面白く読ませる工夫がなされています。
こういうタイプが好きな人には、とても高評価を受けるのではないでしょうか。
そして、その手腕が顕著に出ているのが、巻末に収録された短編の「アベンジャーズ・イン・電車」。
電車の一車両という密室を舞台に描かれる、秀逸なこの短編だけでも読む価値は十分にあります。
蛇足として極個人的な話ですが、柴谷先生の黒髪の描き方、黒髪ロングストレートの栗原先生やザクロちゃんはもとより、えっちゃん達も好きです。
とても読み易く、幅広い層が楽しめる作品。
後は、セリフ回しや言葉選びにもっと気を遣って、そこでも楽しませてくれたら更に素晴らしい物になりそうです。
一風変わった作品、演出で魅せる巧みな作品が好きな方にオススメです。
つばな先生、石黒先生、吉富先生辺りが好きな人も、触れてみる価値があると思います。
今後も追って行きます。
70点。