魔法少女・オブ・ジ・エンド 1巻
佐藤健太郎
まじかるー
「魔法少女まどか☆マギカ」によって、従来の魔法少女の概念が覆された昨今。
「極黒のブリュンヒルデ」など、従来の可愛く明るいイメージから掛け離れた新時代の魔法少女モノが様々に産み出されています。
その系譜に当たるこの「魔法少女・オブ・ジ・エンド」は、ブラックでグロテスクな「魔法少女パニックホラー」とでも言うべき作品。
表紙やタイトルから多大なインパクトがあります。
主人公は平凡な日常を送る高校生1年生の児上貴衣(こがみきい)。
しかし、その平穏は"魔法少女"によって一瞬にして崩れる事になる――
「まじかるー」と嘯きながら行われる正体不明の魔法少女達による大量虐殺劇。
第一話から衝撃的な展開が待ち受けています。
「アイアムアヒーロー」や「ハカイジュウ」の厄災の原因が魔法少女になったような感じです。
そういったタイプの作品、「GANTZ」や「神さまの言うとおり」等が好きな方にはお薦めです。
逆に血やグロテスクな物が苦手な方にはお薦めしません。
ポイントは、主人公の幼馴染である福本つくねとの関係性でしょうか。
冒頭で、貴衣はつくねが虐められている姿を目撃しつつ、見なかったフリを決め込みます。
この二人が今後どのようになって行くのか。
そして、この魔法少女達は一体何なのか。
展開次第ではかなり良い作品になれる存在だと思うので、普通のパニックホラーとの差異を示して行って欲しいです。
今後に期待します。
70点。
空が灰色だから 4巻
阿部共実
1日100兆善よ
10代女子を中心に上手くいかない日常を描く心がざわつく連作短編集。
めでたく「このマンガがすごい!2013オトコ編」で19位、そして昨日の「俺マン2012」でも5位と、世間的にもかなりの評価を受けて来ました。
もう、今回も全話ネタバレ感想を書き殴りたい位の勢いで、心がザワザワしました。
第38話では、あの3人組が再登場。
たった15歳の扶養家族のお前がなんで世の中甘くないってわかるんだよ!
世の中もしかしたら甘いかもしれないだろー!!
と強弁するネガティブな少女、自称ネガティバーな璃瑚奈の屁理屈が面白いです。
ネガティバーという語感も良いですね。
40話の子達も久しぶり。
普段お喋りでうるさいと認識されている子が陰で背負っている想い。
50・51Pの見開きのモノローグの重さが良いですね。
第44話は、そのタイトルと扉絵に感じる独特のセンスがまずキてますが、
途中の夢の世界の描写が圧巻。
夢を夢らしく描いている部分の不気味さが気持ち良さに変わる謎の感覚に見舞われます。
このページの言語感覚も常軌を逸していて素敵です。
オチも好きですね。
第41話「長い黒髪の乙女の長い話」では、黒髪ロングストレートの子がショートに切るというあらすじで重苦に悶えました。
「なんでこの物語は異常に髪フェチが多いんだ!」
というメタセリフが好きです。
第42話の「漏らしたくない」は、昨今の漫画界でのお漏らしブームを漏らさず描き切った作品。
村沢さんの我慢に、日本中(の一部の変態)が熱い涙を流します。
カバー裏も必見。
39話は胸が熱くなり、
43話はラスト一コマが好き。
45話は構成の妙を感じ、
46話は可愛いく面白いです。
毎話読み味が変わるので、どう転ぶか解らないスリルが常にあるのが良いですね。
今後も楽しみです。
歪みや狂気の入り混じった日常モノを繙きたい方へ。
75点。
大好きが虫はタダシくんの―阿部共実作品集
阿部共実
タイトルからして不安定さを醸し出す、上記「空灰」4巻と同時発売となった阿部共実先生の短篇集。
基本的に、「空灰」と同じテンションで安心して不安定さを楽しめる内容となっています。
先ず、この巻の半分を占める「ドラゴンスワロウ」。
主人公・朝倉たつみは、バッテリーを組む先輩・水野燕に憧れを抱いていた――
100年に一度の天才ソフトボールプレイヤー(但しソフトボールの歴史は90年)や、309HR881打点などと初っ端からツッコミどころ満載。
よく見るとスコアボードも2163-0とかになってますし。
他のメンバーも相当打ってるじゃあないですか!
寸前までバッテリーを組んでいたのに、人殺しの目をしていると言われるたつみ。
そんな二人が送る、微百合日常系ときどき大気圏外かっ飛び物語。
「好きな人の顔と胴がちぎれたら人はどっちを愛するんだろうか」と、唐突にエキセントリックな暴投をしてくる燕先輩。
抜けてたりスネたり、とても魅力的です。
数々の電波を受信したかのような言い回しの妙は流石。
かと思えば不意打ち的に、普通に良いシーンもあるので困ります(褒め言葉)。
「破壊症候群」は、物質の急所が視える少女が人類の危機を救うヒロイックアクション。
アクションなのに絵柄によって余り動きを感じない、それでも面白い不思議な読み心地。
冒頭カラーページの作品は、上手にカラーである事を利用した遊び心を感じられました。
初期作品の「デタジル人間カラメ」では、未だ画力も安定しておらず、ヒロインがほぼ横顔しか出て来ないにも関わらず演出的な技術は変わらない物があって楽しめます。
表題作の「上手くいかなさ」描写は、まさに真骨頂と言っても良いのではないでしょうか。
共感出来る人にとっては他に無く心の襞にフィットする作品であると思います。
「空灰」から入るもよし、この短篇集から入るもよし。
アンバランスなアンビバレンスの阿部ワールドに入門してみませんか。
75点。