「ねえ、秒速5センチなんだって」
「え、何?」
「桜の花の落ちるスピード。秒速5センチメートル」
先週観てきた「言の葉の庭」(記事)の時にも書きましたが、新海誠監督の作品で唯一観ていなかった「秒速5センチメートル」。
しかし、世間的には一番有名で評価されている感もある代表作。
ずっと観ておかねば、と思い漸く観ることが叶いました。
親の都合で転校が多い主人公・遠野貴樹と、同じような家庭の事情を持つ女の子・篠原明里の関係性を主軸に描いた物語。
一時間と短い中で更に「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の全三章に分かれ、小学校・中学校・高校・社会人と成長して行く中での物語を描いて行きます。
「桜花抄」は、貴樹と明里の出会いから、明里が栃木に引っ越して疎遠になってしまった件、その後、貴樹が鹿児島に引っ越してしまう事が決まったため、最後に一度だけでも会おうと貴樹が明里に会いに行こうとするも、雪で電車が往生してしまうというお話。
このお話は、普遍的な遠距離恋愛モノとして、少女漫画的で共感を得やすいと思います。
駅舎の中でのお弁当を食べるシーンが微笑まし過ぎて、末永く爆発して下さいという。
貴樹の部屋にあるスーパーファミコンが時代を感じさせました。
メールなどなく、家の電話だけでやりとりしていた頃。
あの頃の待ち合わせってこうだったよなあ、と感慨に耽ります。
簡単に繋がれないからこその物もあった、古き良き時代ですね。
高崎線経由で小山に向かうルートは都民としては馴染み深いもので、緻密に描かれた新宿駅に今でも感嘆します。
小田急線豪徳寺駅なども凄いですね。
「コスモナウト」は種子島に引っ越した貴樹に一目惚れした澄田花苗の視点で描かれるお話。
種子島が舞台の学園モノ、という事で「ロボティクス・ノーツ」を想起する訳ですが、世間的にはこちらが先ですよね。
都会から来た、他の男の子とは全く違う何かを感じさせる貴樹に憧れを抱くのは解ります。
成長した貴樹はイケメン過ぎて、2章以降は凄くタイプです(笑)
しかし、やはり新海誠監督作品といえば宇宙への憧憬。
種子島という事で、勿論描かれるJAXA。
貴樹と明里が見つめる先、美しい映像で描かれるその遥かなる想いには、否が応でも高まります。
花苗役の方の縁起が良かったと思います。
そして、表題の三章目「秒速5センチメートル」。
大人になった貴樹と明里を描いたお話。
嗚呼……映像はこんなにも幻想的で美しいのに、ストーリーの何と現実的な事か。
あの踏切のシーンも勿論そうですが、コンビニで科学雑誌を読むシーンなども堪りません。
しかし、この切なさや苦味もまた新海監督らしいですね。
その後の貴樹はどうなったのか。
最早それは物語たりうる資格すら失った、余りにも平凡な末路でしょうか。
この作品が刺さるか刺さらないかは、男性か女性か、そして自分の体験に重なる所があるかないかで大きく変わるという話がありますが、正にその通りだと思います。
私がどう感じたかを語れば、過去の経験を吐露するに等しくなるのでここでは内緒にしておきましょう(笑)
しかし、一つ言える事。
公開当時に観て、そして年月が経ってからもう一度観たかったですね。
映像美に関しては言う事がないくらい素晴らしいです。
桜、雪、空、海、リアルな街並みや電車……
絵を観ているだけでも十分楽しめてしまう作品だと思います。
音楽も負けずにドラマチック。
ただ、EDの歌は歌詞に「桜木町」とあったのに違和感がありました。
作品に即した地名だったら良かったのですが。
観て、それが賛にしろ否にしろ、何かしらはもの想う人が多いのではないでしょうか。
十分に名作と言われる価値のある作品だと思いました。
75点。
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秒速5センチメートル
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