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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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『無職強制収容所』レビューを書きました

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無職は人権すらないゴミなのか?『無職強制収容所』
http://honz.jp/articles/-/43221


レビューを書きました。本当はガンの特効薬として騒がれているニボルマブの登場による医療費高騰の未来における社会保障・セーフティネットの在り方、そこから敷衍したスイスのベーシックインカムの議論や、「働かざる者食うべからず」の元となった「テサロニケ信徒への手紙二」などへの言及もあったのですが、長いということでバッサリカットになりました。

ともあれ、1巻を最後まで読むと早く続きを読みたくなること請け合いの漫画です。

さよならジュリエッタのレビューを書きました

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SF×百合×巨女×残酷『さよならジュリエッタ』のドライヴ感がたまらない!
http://honz.jp/articles/-/43195

この作品、本当に面白いのでお薦めです。
2016年の新人賞を決めるなら、まずベスト10入りは堅い新星の煌めき。
心の底から売れてほしい、打ち切られてしまわないで欲しいと思います。

浄土るる「鬼」について

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https://shincomi.shogakukan.co.jp/winner/


今、世間で非常に大きな話題になっている、第84回小学館新人マンガ大賞。


その中心となり賛否両論が噴出しているのが作品が、17歳にして青年部門の佳作に選ばれた浄土るるさんの「鬼」。


https://shincomi.shogakukan.co.jp/viewer/84/04/402/


審査員の中でも、太田垣康男さんは

「読者に向かって『この世界はクソだ』と伝えて溜飲を下げているとしたら、その作者の心情を私は否定する」

と云い、一方で浅野いにおさんは

「最高でした」「この規格外の才能の芽が摘まれませんように」

と絶賛している。


私の周囲でも賛否は真っ二つに分かれていた。


このセンスや露悪的な部分も含めて心に引っ掻き傷を残す読み味を大いに評価する意見もあれば、

「全くもって評価出来ない。漫画は日記でも無ければ憂さ晴らしの場でもない。読者がいてその人達に何を与えるかが存在意義。ただのネタにしか見えない。“で?”って感じ」

「これは創作というよりは吐露。プロの仕事の類では無い」

「漫画家を志す者としてこれを才能と呼びたくない」

といった厳しい意見も見られた。


私はこの激しい賛否両論で溢れかえりながらも、日に日に爆発的に人口に膾炙していく本作のバズり方を見て、初めて『バトル・ロワイアル』が世に出された時のことを思い出した。『バトル・ロワイアル』もまた「圧倒的に面白い」「天才」「現代社会の的確なメタファー」という賛辞の一方で「最低最悪の小説」「文章表現が稚拙」「こんな物をエンターテインメントと呼んではいけない」と存在自体を強く否定する声もあった。


私は「鬼」も『バトル・ロワイアル』と同じく、このような賛否両論があって然るべき作品であると思う。


その上で、個人的にはこの作品に対して大きく「賛」に寄っている。


そもそもとしてマンガを始めとする創作、表現はとても自由なものだ。特定の個人や人種を差別したり誹謗中傷したりといったものであるならば話は別だが、不条理をただ不条理として救いもなく描く作品も世の中にあって良いと思っている。むしろメジャーマンガで描かれる希望や愛を薄っぺらく薄ら寒いものだと感じ、鬱屈や絶望感の方にこそ共感したり救いを覚えたりする人間もいる。「鬼」はそういった人にとっては代え難い傑作に値することもあるだろう。


画力は乏しくとも読む人の感情を刺激する私的な体験を綴ったエッセイ的マンガが数多く出るようになった現在において、出版社がこういった才能を掬い取る意義も大いにあると考える。


「鬼」を細かく読んでいくと、まず始まりの1ページ目がとても秀逸であると思った。


1コマ目は

「私の名前は江田子豆。5年4組の人気者なんだ♪」

という明るいモノローグ、そしてそれに合わせた戯けたポージングを取った主人公から始まる。


2コマ目はそれを受けて人物も背景も小学生が自由帳に描く落書きのようなタッチで

「運動とおしゃべりが大好きな、普通の女の子だよ。」と続く。ここまでだけ読んだら、可愛い絵柄とポップなテンションのギャグマンガを想像しそうなものだ。


しかし、3コマ目になると状況は一転し、一気に激しく突き落として来る。♪の語尾は変わらないものの、父親は既におらず母子家庭であるという事実の明示。そして、その母親がたった1コマで絶望的に終わっている毒親であると伝えくる、子豆が頭から酒をかけられている描写。その奥で姉と同じように虚ろな目で中空を見る妹からもこの家庭の惨状が伝わってくる。


主人公の奥底に渦巻くどす黒く深い絶望感は4コマ目の虚ろな目によって更に増幅されている。


見事な起承転結であり、たった1ページで主人公が深い深い絶望の淵に陥っていることが如実に表現されている。


2ページ目で「生まれてきてごめんなさいと3回言え」という母親の惨い命令に従う様を、セリフごと途中でぶった切りチャイムの鳴る教室の描写へと移る演出も巧い。小気味良いテンポを生み出しつつ母親から行われている虐待を敢えて断片的に見せることによって、読者自身でその後に続いて行われるであろう惨状を想像させられ印象がより強烈なものとなっている。


マンガにしろ他の表現媒体にしろ掴みが重要であるということはよく云われるが、そういう意味ではこの「鬼」の掴みは素晴らしい。丁度「物語においては世界設定の謎よりも登場人物の持つ謎の方が重要で先を読ませたくする」という意見も最近論じられていたが、この後に子豆がどんな過酷な運命を辿るのか、母親との関係はどうなるのか、たった2ページでその謎に引き込まれていく。


浅野いにおさんの講評の通り、技術的には確かに稚拙だ。背景はパースに則ったコマとそうでないコマが混在している。断ち切りとそうでないページの差異も場当たり的に感じ、効果的に使われているとは言い難い。


しかしながら、そうした拙さ・不安定さもまた本作においては絵柄のゆるかわいさとも相まって演出効果として作用しているように感じた。


随所に普通ではない夢の世界のような現実と乖離した描写がなされる。「クソガキ小学校」や「死ね小学校」といった異色のネーミング、特異な建物の形状、ポンポコの「保健室」と書かれた服……すべてが不安定さをもたらしてくる。


19ページ目の3,4コマ目がコピーのように見えて地味にそうではない(画面右端だけ描き分けられ、右端の少年の頭部がフキダシで消される形になっている)所にも違和感を与えられる。


こうしたあらゆるぎごちなさが、意図的である部分もそうでない部分も混濁となって味として昇華されている。


妹の感情表現も秀逸だ。

「22ページ目で『みいちゃん、幼稚園楽しかった?』と子豆に訊かれた妹が顰めっ面で黙って答えず、24ページ目で泣き出したのはなぜか。100文字以内で答えなさい」

というのは国語の問題として成り立つと思う。セリフに頼らず、キャラの動きのみで複雑な感情を表すことに成功している24ページ目は見事だ。


母親の所作に関しても、すぐに手を出す所や気分の良い時に鼻歌を歌うところなどが知らず知らずの内に子豆の中にも受け継がれているようにも感じられ、毒親であっても親子であるという無常の事実を突きつけられる。


こんな家庭環境で育ちながらも優しさを失わなかった子豆のその優しさがようやく報われそうになる(前夜の子豆が一番かわいいと思う)ものの、それが一瞬で踏み躙られるラストは業田良家さんが指摘するように余りにも辛く胸を締め付けられる。しかし、現実にはこういった局面もいくらでも存在する。露悪的に過ぎるという意見もあろうが、これはこれで物語としてあって良いラストだと思う。


最後に改めて表紙に戻ってみると、「鬼」の文字の下にいるのは主人公の子豆ではなく死んだ目をしたぽんぽこであることに、そしてその意味に気付かされる。


正に鬼ごっこの鬼のように、人は誰しもが一瞬で鬼へと変わる可能性を秘めている。しかし、鬼となったポンポコとて決して幸せになった訳ではない。自分がイジめられないための消極的な選択としてイジめる側に回ったに過ぎない。


唯一、僅かに救いとなる要素が残されているとすればこのクラスの担任はいじめに加担したり見て見ぬフリをするタイプではないことだろうか。この後、教室に入ってくる担任はきっと子豆の身を案じてはくれるだろう。周囲に自分を傷つける敵しかいないのと完全に味方がいない状況ではないというのは大きな差だ。とはいえ、それで完全に子豆が救われる訳でもない。


画力自体は決して高いとは言えない。しかし、このマンガは不思議と読み易い。フキダシの配置や過不足のない言葉選びによる文章量の適切さ、それによって支えられているネーム力はかなりのセンスを感じた。


私は浄土るるさんが今後もマンガを描き続けることを心から応援したいし、こういった路線を突き詰めるにせよ全く違う方向へ進むにせよ次の作品もぜひ読んでみたい。



余談だが、浄土るるさんの作品以外にも大賞の赤井千歳さんの「Ms.NOBOTAN」や、青年部門入選の岩田ユキさんの「悪者のすべて」など面白い作品があるのでぜひ読んで頂きたい。


https://shincomi.shogakukan.co.jp/winner/

咲-Saki-205局[進化] 感想・考察

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前回の咲-Saki-記事から悠久の時を経てしまいましたが、今回については書いておかねばなりますまい。
 
ありがとう、咲-Saki-……
 
ありがとうございます、小林立先生……
 
世界が、美しい輝きに満ちています……
 
現在「ガンガン読もうぜスクエニ夏祭り!!」というセールが開催されており、前々号までのヤングガンガンのバックナンバーもその対象商品で99円で買えるようになっています。
 
 
単行本19巻から今回で4話目ですので、最新号と合わせて4冊を買えば今まで単行本派だった方も最新話に追いつける他、新スピンオフの『染谷まこの雀荘メシ』も読めますのでこの機会にいかがでしょうか。
 
 
 
 
以下はネタバレとなりますので、未読の方はご注意下さいませ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
優希の天和で始まった、波乱の決勝戦先鋒戦。
連続和了からの九連を決めた照は勿論のこと、出自の秘密の一旦が垣間見えた辻垣内さんも流石でこの面子相手に果敢に間合いを見切って立ち向かって来ています。
 
役満や三倍満がバンバン飛び出し、前半で3万点以上稼いだ玄さんがなぜか-7万点近いというおかし過ぎる状況。
 
咲-Saki-シリーズの半荘ごとの獲得素点で比較した時に、この対局は群を抜くのではないかと思われる魔境です。流石は決勝戦と言うべきなのでしょう。
 
親番が回ってきた時に、「この親で稼いでおきたい」というのは咲-Saki-シリーズにおいて死亡フラグのような気がしてならず、玄さんからまたこのモノローグが発された時は「ああっ!」と思ってしまいました。
実際に、親でそれに類することを発言した人の平均的な成績のまとめはどなたかに託します。
 
阿知賀としては伏龍となってその真の爪牙を顕にする時を眈々と待ち構えている忍耐の時が続きました。
 
しかし、しかしです。
 
ヒーローにピンチはつきもの。
必ず玄さんの真の逆襲が始まる時は来る。
そう、宇宙の誰よりも信じてここまで何年も応援し続けて来ました。
 
玄さんを育んだ吉野の幽邃の地。
憧ちゃんの実家の吉水神社で。
吉野山の中心である金峯山寺で。
八大龍王を祀った龍泉寺で。
龍王院のある脳天大神で。
吉野中の龍に所縁のある寺社仏閣できっと誰よりも多く玄さんの龍の復活と更なる進化による活躍を祈願し、応援して来ました。
 
 
そして、時は満ちました。
 
好機到来。
 
阿知賀編最高のシーンを思い出さずにはいられない、誰もが驚く玄さんがかけたリーチ。
 
そして、松実露子さんの姿……!
 
ただでさえ、読む前にすんなりとは読めず心身の準備をして整えてから1ページ1ページを、1コマ1コマを丹念に根金際堪能し尽くすようにゆっくりゆっくり味わっているのですが、ここで完全に涙腺が決壊して1時間ほど泣き腫らしました。
 
そして、大事件が起きました。
 
龍を使役するドラゴンロードとなった玄さんは、「照にドラを掴ませて」ロン和了をしました。
 
言うまでもなく「すべてのドラは玄に集まる」。
これが崩れるのはドラを切った後だけでした。
 
宮永照たちを相手にしてすら、点数では負けていてもその支配は一切揺るがず弘世様をして「化け物だな」と言わしめたほど。
 
そんな玄さんのドラが、恐らくドラ切りはしていないであろうにも関わらず一時的にとはいえ他者に渡ったという天変地異。ただし、結果的にそれは玄さんの下に帰って来ているので大局的に見ればドラ支配の一部として見るのが自然でしょう。
 
まだ最初の一回なので断定はできませんが、「ドラ待ちでテンパイした際、他家がリーチをしていれば一発でそのドラを掴ませてロン和了することができる」といった能力であるなら非常に強力です。
 
相手が面前の場合はドラが送られても切らないでいらば良いだけになってしまうので、豊音の能力と同じように相手のリーチ時限定になってしまうとは思いますが、もしそうであるならば相手は無闇にリーチを掛けることができなくなります。ただでさえドラ無しでの手作りで点数が制限されてしまう中、更にリーチまで封じられては相手としてはたまったものではありません。
 
そして、そもそもリーチを掛けなければ安全という訳ではなく、玄さん自身が普通にドラツモ和了することもままあるでしょう。
 
とは言え、ロンという言葉は中国語の龍。
阿知賀編のあの和了共々、ここぞという時にはロン和了をするのがある意味玄さんには相応しいのかもしれません。
 
 
 
こちらは、今年の3月15日に玄さんのお誕生日を吉野山でお祝いしに行った際に見えた雲です。
 
あまりに似ていませんか。
今号、遂に真価を発揮し始めた龍に。
 
 
 
そして、こちらも
 
今年2月に吉野山で見た、大きな吉兆とされる二重虹です(画像だと上の2本目の虹が不鮮明ですが、肉眼でははっきりとよく見えました)。
 
虹はそれ自体が龍の変化した姿であると言われることもあります。
 
私が今年に入って吉野山で見た計3頭の龍。
 
それが、まさか咲-Saki-本編でこのような形で見られることになるとは……震えが止まりませんでした。
世界は予想を超えてくる。
 
 
ちなみに一般的に上り龍は若い龍、下り龍は天界である程度の年月を過ごし願いを叶える力を持つ如意宝珠(いわゆるドラゴンボールの元ネタ)を手にした熟練の龍が地上に降臨する姿と言われています。今回描かれた龍が何かしら珠を持っている様子は確認できませんでしたが、成長した玄さんが使役するには相応しいと言えます。
 
 
奈良県吉野山から大峯山はその土地自体が龍に喩えられる地で、竜の目や竜の口といった霊地が存在します。
 
また穏乃の能力発動エフェクトのモチーフとなっている蔵王権現様は龍の姿で顕現したとされており、吉野山のランドマークである金峯山寺蔵王堂に祀られている秘仏の着物にも龍があしらわれています。
 
吉野山で生まれ育った玄さんに大いなる龍の力が宿っていることは、決して荒唐無稽なことではありません。
 
 
ここで、今一度過去に宮永照の連荘が止まった時の事を思い返してみたいと思います。
 
 
まず、阿知賀編8局[最強]にて行われたのは前半戦南一局3本場。
 
煌による怜の差し込みの誘発。それにより、怜も他のプレイヤーと協力すればまだ照を止められることに気付かされます。
 
 
その後、阿知賀編9局その名も[連荘]にて行われたのは
 
 
 
前回の止めを受けて、照の6連続和了後に怜が連携を意識しつつダブルを用いながら煌が4副露して宮永照の手番を飛ばし続けての、怜のツモ。
 
そして、最後は言うまでもなく阿知賀編12局[逆襲]の、咲-Saki-シリーズでも最高の闘牌の一つである玄さんの決意のドラ切りからの怜がリーチ後の照に和了牌を掴ませてのロン和了。
 
阿知賀編ではこの3回でした。
 
ついでに、原作のこのシーンでも止められている様子は確認できません。
 
 
そして、本編の咲-Saki-201局[連携]では、全国屈指の猛者たちがこのように語っていました。
 
 
全国二位校のエースを超えたスーパーエースの怜は、阿知賀編の時に引き続き改めて自分の能力だけでは足りず他者との協力があったからこそ止められたと発言。
 
 
 
そして前年、宮永照に次いで全国個人戦2位だった荒川憩。彼女は全国編Vitaによれば「他家が和了すると手が良くなる」という能力を持っているようで確かに照との相性は良さそうですが、そんな彼女をしてもまた一人では照を止められず他者との協力で戦ったということが示唆されています。
 
それに関しては前年個人戦3位の辻垣内さんも具体的に荒川と遊佐と協力することで止めた、と補強しています。
 
つまり、現時点での1万人の中のトップオブトップの高校生たちをしても
「宮永照の連続和了を止めるには他家と協力するしかない」
というのが共通の見解であり、実際に独力で止められたことはないであろうと思われます。
 
然るに。
然るにですよ。
 
今号の玄さんが他家の助けを求めることもなく、完全なる独力で宮永照の連続和了を止めた
このことがどれだけ大いなる偉業で、どれだけ途轍もないことで、どれだけエポックメイキングかということですよ!
 
最強の高校生・宮永照の三年ブーストがかかった最高状態の最強の能力を、無名校の玄さんがたった一人で止めた。
誰にもできなかったことをやってのけた。
 
兆候はずっとありました。
 
咲-Saki-史上でも最も尊い見開き扉絵と名高い、黒滝村の松実姉妹が描かれた196局[成長]の中の一幕。
急所のドラを引く速度が今までよりも速くなっているとその成長ぶりを指摘されていました。
 
 
そして、実際に一度は照を明確に止めようとしていました(この時はツモを1巡飛ばされたことでなりませんでしたが)。止めようとした、ということはそれを成し得る力を持っているということです。
 
昨日より今の私の方がもっと強い。
そんなメンタルで、大会期間中にもどの高校よりも必死に研鑽を積み、練習をして、実戦での多大な経験値を得て、誰より成長し続けているのが阿知賀女子です。
 
196局の「成長」の主語は玄さんでした。
そして、今回の205局「進化」の主語もまた、玄さん。
穏乃の霧とはまた違った、「くろ」い霧を纏って。
 
こうして苦難を乗り越えて仲間や家族と共に成長し、進化を遂げた龍の力は個人戦2、3位の選手やかつて大敗を喫した全国2位高校のスーパーエースすら凌駕し、絶対王者すら脅かすまでになった。
 
こんな……こんなすばらなことはありません…………!!
 
 
「亢龍悔いあり」で有名な、易経の乾為天冒頭に記されている
 

初九。潜龍用うるなかれ。
九二。見龍田に在り。大人を見るに利ろし。
九三。君子乾乾、夕べに惕若たり。厲うけれど咎なし。
九四。或いは躍りて淵に在り。咎なし。
九五。飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。
九九。亢龍悔あり。
用九。群龍首なきを見る。吉なり。

という龍の成長の物語。
口語的な解釈として、こちらのページでは以下のように言われてもいます。
 

第一段階は、「潜龍」です。
地中深く暗い淵に潜み隠れている龍です。まだ世の中に認められるような力もなく、地に潜んで志を培うときです。

第二段階は、「見龍」です。
明るい地上に現われ、目がみえるようになります。修養のはじめとして、師を見習って物事の基本を学びます。

第三段階は、「乾惕」です。
毎日、同じことを繰り返して修養に励みます。技と応用を見に付け、日進月歩の成長をする時です。

第四段階は、「躍龍」です。
修養を極め、リーダーになる一歩手前の段階です。独自性を持って、今まさに大空へ昇ろうと躍りあがります。

第五段階は、天を翔け、雲を呼び、雨を降らす「飛龍」です。リーダーとしての能力を発揮して、志を達成します。

第六段階は、「亢龍」です。
高ぶる龍という意味です。高みに昇り過ぎた龍は、やがて力が衰えて、降り龍になります。

正に、師事を受け、修養に励み、極め、阿知賀のエースとして飛龍に至っているのが今現在の玄さんなのではないでしょうか。これ以上昇れないという地点、即ち一位という名の亢龍に玄さんがなる瞬間を待ち侘びます。
 
亢龍≒降り龍は落ちるだけの存在という見方もある一方、日光東照宮にある有名な上り龍・下り龍の龍柱は一見上を向いている方が上り龍に見えて実は下り龍であり、上り龍は勿論のこと下り龍も下がるというよりは地上に降臨するという意味合いでどちらも縁起が良いとされているそうです。実際、今回の龍の描写は力を落として墜落するというよりは圧倒的な力を持って天界から地上に降臨した感じがしますので、私は都合の良い解釈を採用したいと思います。
 
 
7月5日は松実玄さんが最強高校生を凌駕した、実質最強高校生となった記念日。咲さんが照を止めた可能性については今は考えません。止めた事があったとしてもその時の照はきっと今よりは強くない筈。
 
祝いましょう。
寿ぎましょう。
 
次回は休載ですが、約束された福音である206局に対する期待が無限大に膨張していく幸せな1ヶ月となりそうです。
 
今月末には毎年恒例の吉野花火があり帰省もする予定ですので、そこで御礼参りをした直後にまた読めるという幸せが待っている模様です。
 
完全なる人生史上最高の時。
私はこの日を本当に本当にこの数年待っていたんです…………感謝。
 
私は19巻こそ吉野山背景の松実玄さん表紙だろうと予想していたのですが、節目となる20巻で玄さんの真価が描かれるとすればその方が断然良いですね。
 
未だ語られていない松実姉妹の秘密や阿知賀のお話もきっとこれから語られていくと思いますので、ただただ楽しみです。
 
 
 
余談ですが、三頭の龍が天から降りてくる図はサガシリーズの槍の最強技である下り飛竜、とりわけミンストレルソング版を彷彿とさせました。
 
 
 

【2日間限定】特撰プライムデーまとめ買いマンガ

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Amazonで恒例の「プライムデー」が今日明日の2日間限定で始まりました。

それに伴い、Kindleでもマンガまとめ買い20%OFFセールが開始。

折角ですので、この機会にぜひ読んで頂きたい作品を厳選して紹介します。

 

 

地球へ…

 

これだけまとめ買いセール対象商品ではないのですが、全3巻648円になっていたのでご紹介。

少女マンガ史のみならずマンガ史全体の中でも重要な意味を持つ歴史的傑作です。

発表から半世紀近く経っても決して色褪せない、人間・生命・宇宙への深い洞察を孕んだSF。

「宇宙の潮騒 悲しいまでに広がる星の海 一粒の真珠 ……地球(テラ)よ」

 

 

藤子・F・不二雄SF短編<PERFECT版>

 

人類の至宝です。

これの電子版が出ていたとは……。

ハードカバーの紙版で全巻定価で買っていますが、その何倍何十倍もの価値がある珠玉の短編集。

ドラえもんでしか藤子・F・不二雄を知らない方は、その圧倒的な才気を改めて知るでしょう。

 

 

ここは今から倫理です。


1500円で受講できる、極上の倫理の授業3冊分。

誰もが一度は人生で考える悩みや、哲学的な概念への疑義を迫力満点の筆力で描いていきます。

大人の道徳の教科書と言っても良いかもしれません。

同じ作者の熱血青春ラグビーマンガ『ALL OUT!!』とは全然違うベクトルですが、こちらも傑作。

『結ばる焼跡』、『松かげに憩う』など快作を連発する雨瀬シオリさんから目が離せません。

 

 

彼方のアストラ

 

今年のマンガ大賞を受賞し、アニメも始まってますます人気に拍車が掛かりそうです。

全5巻というコンパクトさに対して、満足度は非常い幅広い世代が楽しめる傑作SF。

絶対にネタバレには触れないよう回避しつつ、とりあえず最後まで一気に読んで欲しい作品です。

絶賛される理由は読めば解ることでしょう。

 

 

Dr.STONE

ORIGIN

 

ジャンプ系SFなら、同じくアニメの始まった『Dr.STONE』も外せません。

毎週本誌で読んでただただ「面白い……」と唸ってしまう、近年始まった作品の中でも屈指の名作。

また同じBoichi先生の『ORIGIN』も骨太で素晴らしいハードSF。

『Dr.STONE』に比べるとややマイナーですがもっと評価されるべき傑作です。

全10巻で一旦完結してますが、大いなるサーガの一部という位置付けだそうなので今後の展開も楽しみです。

 

 

アクタージュ act-age

 

現代版『ガラスの仮面』とも言われる演劇マンガ。

似ているようで実は大きく根本的に違う部分がありつつも、北島マヤを髣髴とさせる天才ヒロイン・夜凪景から目が離せないのは同じです。

特に、出たばかりの最新7巻は素晴らしいシーンが沢山あるのでぜひ読んでみて欲しいです。

ジャンプっぽくないマンガなのですが、こういう作品もあるので永遠のジャンプっ子です。

 

 

鬼滅の刃

 

ジャンプの回し者のようになってますが、最新話を読んだらお薦めしない訳にはいかなくなりました。

連載開始当初は打ち切りの瀬戸際感すらありましたが、今やufotableの超絶作画でアニメにもなりファンとして嬉しい限り。

使い古されたテーマでもでもしっかりと味付けすればこれだけ面白くなるという良い見本です。

友情・努力・勝利はもちろん、深い優しさと哀切さがたまらなく胸を打つ秀作。

 

 

地獄楽

 

ここまで来たらついでに現在のジャンプ+の看板作品であるこちらも紹介しましょう。

時代物でありながら、山田風太郎作品ばりの異能者揃いでゲーム性もある設定の妙。

徐々に明かされる、舞台となる島やそこに棲むものども、秘宝の謎。

高い画力により生み出される魅力的な人物たち。

様々な要素が高い次元で絡まり、続きを渇望してしまうエンターテインメント性の高い名作です。

 

 

その着せ替え人形は恋をする

 

連載開始1話目を読んで「これは素晴らしい! 絶対来る!!」と大興奮。

1・2巻同時発売時には喜び勇んで布教に励み、すぐに発行部数6桁に達して破顔しました。

絵も物語もとにかく完成度が高く、青年誌のラブコメなのですが女性にも大好評。

キャラクターも皆魅力的で、読んでいてただただ気持ち良い作品です。

 

 

メイドインアビス

 

アニメ化もされ2020年に新作劇場版も控え、大分有名になってきた冒険ダークファンタジー。

非常に緻密に作り込まれた世界観、可愛い絵に反して恐るべき過酷さ、残酷さを湛える物語。

数十人にお薦めして来ましたが、面白くなかったという人はただの一人もいません。

ひとたびアビスに足を踏み入れれば、その魔力に取り憑かれること必至です。

 

 

私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!

 

「わたモテは8巻からが良い」。

ネット上の数々のマンガ読み達を魅了するそのクオリティは、正直序盤を読んでいた頃には想像しないものでした。

初期で脱落した方も8巻からの流れ、とりわけAmazonでも桁違いの☆5レビューがついている12巻にはすべてのマンガ好きに触れてみて欲しいです。

8巻から読んでも良いと思いますが、個人的には良さを味わい尽くすために1巻から通読するのをお薦めします。

 

 

薬屋のひとりごと

 

なろう原作も異世界転生・中世ファンタジーだけではなく、こういった作品もある訳です。

中華的な国の王宮を舞台に、ヒロインが薬学知識を主体に謎を解いていくミステリ。

サンデーGXでも別にコミカライズされていますが、こちらのビッガン版はとにかく絵が魅力的。

今出ている4巻で丁度一区切りなのでまとめて読むには良いタイミングです。

 

 

BLUE GIANT

BLUE GIANT SUPREME

 

「今最も熱量を感じるマンガは何か?」と問われたら、やはりこの作品の名前を挙げずにはいられません。

紙面からありありと演奏が聞こえてくるジャズマンガ。

全力で生きる人生の困難や喜びに魂が震え、熱い涙が流れます。

こういう作品があるからマンガという文化は素晴らしいんだ! と叫びたくなる傑作。
 

 

はねバド!

 

1巻の表紙だけ見れば「萌え系のゆるいバドミントンマンガ?」と思うかもしれませんが、とんでもない。

この作品も「今最も熱いマンガ」を考えるに当たってすぐに候補として挙がる作品です。

途中の絵柄の変化に若干戸惑うかもしれませんが、そこを乗り越えれば現在連載中のスポーツマンガの最高峰を楽しめます。
読み始めたら止まりません。

 

 

ブルーピリオド

 

こちらも今熱いマンガの筆頭候補。

アートというテーマ、そしてそれに纏わる様々な想いや葛藤、努力や執念に焦がされます。

1巻の時点で数多くのマンガ好きを魅了して止まなかったこの作品ですが、驚くべきことに最新5巻まで更に面白くなり続けています。

3000円弱出す価値は十分すぎる程にあります。

 

 

ライドンキング

 

まさかこれも対象タイトルになっているとは。

某国の大統領が異世界転生して縦横無尽に暴れ狂う作品。

それだけでも面白いのですが、単なる出オチで終わっておらず硬軟交えてしっかりとドラマを紡いでいきます。

画力も非常に高く設定も意外な程しっかりしているので、まだ2巻ですが今後アニメ化などを経て更にブレイクすることを予感しています。

 

 

五等分の花嫁

 

現代ラブコメの頂点に君臨している作品。

序盤から純粋に面白いですが、ある地点から更に一気に加速していきます。

メジャーなラブコメマンガの中でもこれほど着地点が想像しづらいものもなく、どう転んで行くのか毎週ハラハラしながら読んでいます。

ちなみに私は長女派……………………でした(遠い目)

 

 

ランウェイで笑って

 

1話を読んだ時、「こんな完璧な1話は数年に1つあるかないかだ」と感じました。

ファッションという華やかな世界の水面下で迸る熱いパッションが、やがて世界を革命するほどの大きな奔流となっていくワクワク感。

大きな挫折や苦渋を乗り越えたその先で見える景色の美しさ。

100話&100万部突破ですが、この作品のポテンシャルはまだまだそんな所ではないと信じています。

 

 

私の少年

 

Wikipediaに"書評サイト「マンガHONZ」に掲載されたレビューでは、本作は「30歳OLのリアルさと、非現実的なまでの12歳の美少年の可愛さが高次元でハイブリッドした稀有な作品」と評されている"と記されていますが、何を隠そうそのレビューを書いたのは私です。

常々マンガは絵より内容が大事だと思っているのですが、ここまでの圧倒的な画力に殴られると「やっぱり絵の力は凄いな」と思わずにはいられません。

とはいえ、『私の少年』は絵や「おねショタ」という目を引く要素を除いても、脇役も含めた感情の繊細な機微、心に響く言葉選びなど内容も最高だからこそお薦めしたいのですが。

心情表現に重きを置いた作品を読みたい方に特にお薦めです。

 

 

HUNTER×HUNTER

 

連載されている間は世界一面白いマンガ。

帰還を常に待望しています。

 

 

咲-Saki-

 

我が魂の在り処。

長きに亘り待ち焦がれていた戦いが始まり、今人生最高の時。

読めることにただただ感謝。

 

 

その他にも、

キングダム刃牙フルバ3月のライオン宇宙兄弟ザ・ファブルこち亀キン肉マンダイの大冒険封神演義ジョジョ第5部銀魂ワールドトリガー約束のネバーランドきのう何食べた?海獣の子供進撃の巨人ゴールデンカムイウシジマくんドリフターズゆるキャン△ダンベル何キロ持てる?

 

など往年の名作から最新作まで幅広くセール対象になっているので、気になっていた作品にこの機会に触れてみてはいかがでしょうか。

咲-Saki-206局[龍神] 感想・考察

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前回記事:咲-Saki-205局[進化] 感想・考察

 

 

気づけば早207局掲載のヤンガン発売前日ですが、このタイミングで206局へのあふれる想いをしたためておきたいと思います。

 

 

7月末には復活してから数年恒例となっている吉野花火・灯籠流しがあったため、それに合わせた吉野山宿泊会を執り行いました。

 

 

直撃が懸念された台風も、何と私が吉野山に着く直前で消滅。

 

 

 

霧深き吉野山はいつも愛も深く、感謝です。

 

しかし、雨は止んだものの増水した吉野川沿いで行う危険性を考慮して残念ながら花火大会・灯籠流しは延期となってしまいました。

 

気持ちを切り替えて、今回は竹林院さんでの優雅な時を満喫。

 

 

 
雨が止んだ後にしか見られない、最高の眺望も見ることが叶いました。
 

 

 

 

 

この夕焼けは、今まで吉野山で幾度も見た美しい夕焼けの中でも最高級に美しかったです。

まるで、この後に見ることになるドラゴンロードの輝きを暗示するかのように。

 

 

 
花矢倉展望台からの景色も絶景で、何人ものカメラマンがカメラを構えておりました。
 

 

 
夜は中止になった花火大会の替わりに、静亭さんの前をお借りして手持ち花火大会。
リアル吉野山の女の子たちと交流しながら楽しい時を過ごしました。
 

 

 
ゆうべはおたのしみでしたね。
 

 

 
朝の吉野山も雨上がりで一際美しく。

 

 

 

 
竹林院さんには大変お世話になりました。
 

 

 
 
吉水神社には憧ちゃんの弟分であるナギちゃんとナミちゃんが新しい家族として加わっていました。
 

 

 

 7月末でも僅かに残っていた紫陽花の美しさ。

 

 

神域たる吉野山の清澄なる神気を全身で浴びて、いつも通りお祈りも済ませて、8月2日に発売されたヤングガンガン最新話に万全の体制で臨みました。いえ、直近のお話は私の心を乱し尽くすのに十分過ぎて万全など一生有り得ないのですが。精神の亢ぶりは人生史上でも最高潮と言えるでしょう。それはそうです。最愛の人が今正にすべてを賭して戦っていて、今正に…………

 

 

これ以降はネタバレとなりますので、未読の方はご注意下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうですね、人生でこれほど短く感じる2週間や1ヶ月というのも無い訳です。

かつて阿知賀編連載時、毎月のガンガンを追っていた時にも同様の感覚はありましたが、ただあの時は玄さんにとっては常に辛い展開が多く待ち受けていました。活躍を信じて応援はしていましたが、それでも迫りくる苦難に対する覚悟のようなものもかなり強く存在しました。

 

一方で、今回。

読んでいる方であれば御理解頂けるかと思いますが、今は正に玄さんにとっての最大最高の飛翔の時。

約束された覚醒が描かれるターン。

一切の憂いをはらむことなく、ただひたすらに純粋に最愛の人の活躍を待ち焦がれることのできる時間。これは今までにはないものでした。

3ヶ月だろうと半年だろうと、一瞬で過ぎ去ってしまいそうな、待つのが全く苦にならないインターバルです。

待っている間に、これまでのお話を何十回、何百回と読み返し、感極まる。

阿知賀編に戻って、阿知賀こども麻雀クラブができた頃からの積み重なった想いを反芻する。

こんな至福の時はありません。

 

 

まず1ページ目。

ここで数十分進むことあたわず悶え蠢くことになります。

 

超美麗カラーで描かれた1ページ目。

 

前号では内容までは見えなかった照に直撃した役は

リーチ一発タンヤオ三色ドラ8!

数え役満の2本場は32600!!

 

私は、阿知賀編が連載を終わって以降あらゆる人にこう言って来ました。

「決勝で玄さんはテルー相手に役満を和了しますから!見てて下さい!!」

 

きっと、それを聞いた大半の人は「玄狂いが何を世迷い言を」と思ったことでしょう。

何せ、冷静に考えるまでもなく相手はあの宮永照です。

阿知賀編においてはほぼ付け入る隙もなく、10万点近く稼いだ後に一矢報いるのがやっとの相手でした。

客観的に考えれば無理からぬことです。

 

しかしながら、私はずっとずっとずっとずっと信じて祈ってきました。

何年も何年も、吉野山の龍の神にドラゴンの復活と共に大いなる力が宿り照をも屠る瞬間が来ることを。

 

言霊の力、というものも信じて口にし続けてきました。

絶対優勝阿知賀。

玄さんは復活した龍の力を以って役満を和了して照を倒す、と。

 

 

遂に、その願いが成就する日が来たことに改めて感無量です。

しかもドラ8。

今までの玄さんの手でも表ドラ&赤ドラすべてを集めきった時は少なかったですが、進化が見事に見て取れます。

 

甲子園で例えるなら、ドラフト1位間違い無しの160km投手から無名校の選手がいきなり満塁ホームランを撃ったようなものでしょうか。

しかも、その無名校の選手は準決勝においては絶対的優勝候補1・2位校を下している訳です。

これは、阿知賀女子学院が大人気になってしまいますね。

阿知賀特集号の麻雀雑誌も売り切れ続出ですね。

というか万が一余っていたら私が買いたいです。

 

 

さて、頑張って2ページ目を開いて第206局[龍神]。

そのタイトルだけで私を13回殺すのに十分すぎます。

 

だというのに、ページを捲って見えたその景色は

 

 
かつて5年前に、「いずれ使われるかも?」と思いながら撮影した比曽口のバス停ッ…………!!!?
 
奇跡をこの手で掴んでいました。
立先生からの大いなる恩寵、ありがた吉野山の八咫烏の極みです…………!!!!!
 
以前にも、阿知賀編[特別編]のご造作〜の所など何度も撮影していた所が偶然舞台になったことはありましたが、明確に「ここは扉絵に使われるかも」と思いながら撮って、本当に使われたパターンは初ですね。
 
予想を当てた喜びというよりも、作品世界の創造神たる立先生の精神に少しでも近付けたことがとても嬉しく感じられました。その分、玄さんたちにも近付けていたということですから。撮った写真も憧ちゃんの立っている所は切れていて、玄さんの座ったベンチはしっかり押さえている辺り5年前の私はそこに魂で感じたものがあったのでしょうね。すばら!
 
ちなみに、このバス停に関して羽鳥羽院さんはこのように考察なさっていました。
立先生であれば、そうした所まで考えて場所を選定していて全く不思議はないですね。となると、この[龍神]を含むであろう次巻の表紙が脳天大神龍王院近辺にいる玄さんたちである可能性も俄然高まってきた気がして楽しみです。
 
134ページ、美麗カラーの凛々しい表情の玄さんが至高天の存在すぎて三千世界で輪廻しながら幸せに浸ります。
圧倒的なかわいさの一方で、こういった表情もある玄さんの魅力がカラーページのコントラストで十全に表現されています。
さりげなく物理法則を無視してクロスする穏憧の髪も見逃せません。
 
次ページからのドラが戻った時の回想。
見た瞬間にどこの電灯だか解ってしまいました。
 

 

結論から言えば、深夜に読み始めてAM3:00頃に大号泣しながら読み終えて、そのまま電車もない時間なので日課のランニングがてらに日比谷公園まで走っていきました。こんなに走るのが楽しい時もまたありませんでした。

 

 

そして、作品内で見たばかりの景色へ。

 

 

実はこの時、公園ではイベントをやっており目的のアングルで撮影できなさそうで不安でしたが、テントのギリギリのところに立って何とか上記アングルでも撮れました。

 

 

阿知賀編以来、様々な思い出が積み重なった日比谷公園・帝国ホテル周辺。

折角なので、例のコンビニで「多治比セット」を購入してモーニングまでしてきました。

 

玄さんが役満を和了した記念に、近い内に改めて帝国ホテルも訪ねようと思っています。

 

 

ドラが戻った瞬間の涙目で笑む玄さんを見て、また私の涙腺は大決壊しました。

1枚だけ手札に訪れた8p。

その8pを、帰ってきてくれたドラを大事に大事に愛おしむ玄さん。

手を重ねて祈りを捧げる聖母像よりなお清らで尊く美しい……

世界から無意味な争いや諍いが消える音が聞こえました。

 

そして、ドラの復活について何点か事実が述べられました。

 

赤土さんは阿知賀編13局ではクラブで小学生の頃にドラを捨てたことが何度かあったのを牌譜で確認していたようで、その時は

・ドラ復活までの期間は様々

・打った局数はほとんど同じ

と言っていました。

 

しかし、今回は昔ドラを捨てた時より戻ってくるのが大分早かったと。

決意の一打、「帰ってこなくても私は待ってる」と送り出した玄さんに、ドラが応えてくれたのだとしたらそんなすばらなことはありません。

 

ただ、赤土先生が「聞いてたよりかなり早い」と言っているのが若干引っ掛かりました。

というのも、何度かドラを捨てているのであればその復活に要した期間で玄さんの闘牌を見るタイミングは少なくとも1度位はあったと考えるのが自然ではないかな、と思うからです。

そこから予想するに、玄さんや穏乃たちは部室の鍵を借りて赤土先生がいなくてもこども麻雀クラブの部室を自由に使えたのかな、と。

曜日ごとの掃除当番が決まっているくらい毎日行われている中では、いかに暇な人も多い大学生とはいえ赤土さんが来られない日があっても不思議ではありません。

普通なら責任者なしでは借りられなさそうですが、そこは地元吉野山。

きっと他の教師も普段から顔見知りの人が多いでしょうし、別に悪いことをするわけではなく健全な活動のためなので問題はなさそうです。

何なら「松実さんのところの娘さんなら大丈夫ね」くらいに思われていてもおかしくなさそうです。

 

そんなこんなで久々のドラ爆無双の玄さん。

しかし、更に異変があります。

 

・ドラを引けばそれだけで和了できる手牌がたまにくる

・たまに任意でドラを引ける時がある

・他の人にドラを送ることができるような気がする

 

赤土先生をして「龍神の域」と言わしめる地点へ到達した、玄さん。

もう、この喜びを泣きながらどう表現すべきかわからないので落ち着けるために日比谷公園まで走ったのもあります。

 

ドラを引けばそれだけで和了れる手配は、決勝戦のここまでの闘いでもあり示唆されていました。

ドラを任意で引くのもやってのけていました。

そして、今回は最後の「ドラ送り」の実践。

 

「相手にドラを送れる」。

それによってどんなことができ、どんな強みがあるでしょうか。

 

最も効果的なのは、今回のようにリーチして無防備になった相手に掴ませることでしょう。

あらかじめテンパイしていれば、今回のように一発をつけてただでさえ高い打点を更に伸ばせます。

 

また、やりようによっては不要牌であるドラを相手に送りつけることで相手を足止めすることもできるでしょう。

明らかに高い手を張っていそうな時、あるいは特殊な能力効果の発動条件を満たしている時など、何巡か足止めして他家に差し込むなども有効そうです。

一巡先を読んでズラしても同じ牌をツモる相手にすら有効な、任意の牌を掴ませる能力。

豊音の追っかけリーチ、咲さんの嶺上開花などと当たった時どちらの能力の支配が強いのか、今なら玄さんがすべて勝てるのではないかとわくわくします。

 

そして、更に強いのは「この能力が存在することによる抑止力」でしょう。

リーチを掛けた瞬間、ドラを掴まされて和了られるかもしれない。

となればもうリーチを一切掛けられません。

打点上昇したいのにドラも使えずリーチもできない照は相当苦しいでしょう。

 

更に、玄さんと対峙する時は基本的にドラは来ないものとして考えて闘牌を行わねばならず通常の牌効率とはかなり違った麻雀を求められます。

しかし、今回の件によって「もしかしたらドラが送られてくるかもしれない」という紛れが生まれることとなりました。

通常なら払ってしまうべきドラ受けターツを残しておくべきなのか、ドラ送りを逆手に取ることは可能か否か。

未知数の能力に対する状況判断をしながら、「正解」を選び取るのは並大抵の技量では難しいでしょう。

相手の思考リソースを余計に奪い正解を選びにくくすることによる相対的弱体化。

しっかり考えて打つ相手であるほど、実際の効力を発揮せずとも強い能力であると思います。

 

 

ドラゴン復活に際してどんなパワーアップをするのか本当に楽しみにしていましたが、予想を超えてくる強さを備えて凱旋してくれて言うことがありません。

 

まだ、次回も玄さんがもう一段階くらい能力を使った大活躍をしてくれそうな感じがありますよね。

あまりにも、あまりにも楽しみです。





ちなみにその日の夜の咲-Saki-会では、パティスリーひろさんの新作ケーキを頂きながら獅子原爽さんのお誕生日もお祝いしました。



その傍ら、いいんちょさんには色紙にかわいいかわいい玄さん・憧ちゃんを描いて頂きました!

いいんちょさんは秋のSHTにも出展されるそうですのでぜひチェックしてみて下さい。


咲-Saki-207局 感想・考察

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前回記事:咲-Saki-206局 感想・考察

 
 
 
奇しくも、天江衣おねえさんの誕生日であり「妹の日」「黒髪ロングの日」「苦労の日」「くろの日」である9/6に玄さんが活躍必至の1ヶ月ぶりとなる咲-Saki-最新話掲載ヤングガンガンが発売。
 
 
折角なのでこのシーンでケーキを作って貰いお祝い。
 
くろの日なので玄さんバージョンも描いたのですが、ちょっと寂しかったので龍門渕Verに。
 
人生に最良の時、絶頂期があるとするならば今を置いて他にないという確信が前回を読む前からありました。
すべては咲-Saki-のお陰。
小林立先生、どうもありがとうございます……
 
今号の表紙を飾る吉田莉桜さんを吉野桜に空目するのも当然な位の仕上がりです。
 
そういえばdreamscapeが更新されていましたが、アニメ阿知賀編の中でも最高の神回である12話のアバンが何と立先生の手でネーム化されているとか!
最近、シノハユはページ数控えめであぐり先生ならば手も空いているでしょうから、ぜひ何かの機会にマンガとしても読んでみたいものです。
 
また、長年迷宮入りしていた5巻のメロンブックス特典や3巻の表裏表紙で描かれていた場所について質問した方がいたようで、多くの人々が早速沖ノ島まで赴いておりました。
 
個人的にはヒントならまだしも答そのものを聞いてしまうことには抵抗感・敗北感がありつつも……
 
 
行きました。
千葉のモン・サン・ミシェルとも言われるこの島は海水浴場として幸せそうなカップルや家族連れとても賑わっておりました。
 
背景に他の島の写り込みがないので、この2枚だと上の方が正解に近いでしょうか。それでも若干岩などの形状に不安はありますが、流石に経年変化しているだけかもしれません。
 
3巻の龍門渕の方もその後発見されたので、咲-Saki-ファンは千葉に行くと良いでしょう。
奇しくもその後台風15号で大停電が起こり大変なことになってしまったので、応援も兼ねて。
 
また、主にモモファンの方々が長らく追い求めながらもついぞ見つからないでいた5巻の表紙に関しては、何と反転されているということで「我々の10年は一体」と激震が走っていました。すぐさまストビューと睨めっこを始めた人もおり、見つかるのかどうか動向が注目されましたが今の所まだ発見には至っていないようです。モモファンは多いので何とかなるといいですね。
 
その後、SHTの日に咲-Saki-1巻の表紙のイーソーをよく見ると左右反転であるということが解ったとの報があり、これで他の巻も解るか!? と思いきや
 
イーソーのように一目瞭然な牌はわずかなのでした。
 
が、二巻表紙に関しては踏切柵の斜線の向きが通常と逆であるため、これも左右反転である可能性が非常に高いです。左利きながら雀牌だけは標準に合わせて右手で持つのどっちがここでは左手で持っていた、というややこしい形に。
 
舞台探訪勢からは左右反転である可能性を念頭に置くともしかしたらあそこはあそこかもしれない、という舞台が続々と上がっているので、近い内に色々と成果が出そうです。
 
 
そして、更に余談でドラゴンクエストウォークが始まったわけですが
 

 

 

 

先日、SHT帰りに巡礼に行ったら、たまたま時限イベント(1時間しか出ない)のギガモンスターがたまたまドラゴンで、たまたま国際フォーラムの真上に座しているというミラクルが起きました。

 

これは完全に玄さんがドラを集めている、ドラゴンがその力を国際フォーラムに結集している証!

 

更には今日

 

 

 

このタイミングで時限モンスターの最新としてりゅうおうとりゅうおう装備が実装されました。

ここで来るんか、竜王……!

 

あと数時間で最新話というところで…………!
 
世界中のドラゴンが、玄さんの活躍に吠え猛っている。そんな気がしました。
 
そして、純粋に位置ゲーは聖地でやるのが非常に楽しいなと思いました。
以前、ポケモンGOがリリースされた時は吉野山中のジムをカイリューで埋め尽くしたものです。
吉野でドラゴンを探求する旅をするのも絶対楽しいので今度やってきたいです。
 
先日、青の交響曲が3周年を迎えたのでその記念号に乗車しながら帰省しましたが、その時にはまだリリースされていませんでしたからね。
 

 

 

 

新メニューの、大和肉鶏カレー。美味でした。

 

 

 

お祝いのケーキも。

 

 

さて、以下は最新話ネタバレです。
未読の方・単行本派の方はご注意下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲-Saki-207局[震天]。

 

 

 

扉絵と同様の、美しい吉野川の上に広がる美しい青空が楽しめる日和に来られました。

大和上市駅を出て2分。またしても見たらすぐ解る場所が聖地に。嬉しいことです。

しかも、その景色の中にいるのが松実姉妹と灼ちゃん。

 

咲-Saki-世界の扉絵はすべて実際にあった瞬間を切り取っていると言われていますが、とするならばこのシーンはいつどんなタイミングでどんなことをしていたのか、それを想像するだけで4週間くらい軽く過ごせます。

 

そして、アオリが

"「Lord~第二章~」、松実玄、覚醒――。"

 

このネタは若い子には伝わらないと思いますが、その昔THE虎舞竜というバンドがあり、その代表曲が全14章あるロードという曲だったんですね。つまり玄さんの活躍はあと12章残っている

 

虎舞竜のロードはRoadですが、LordなのはDragonlordに掛けているのでしょう。

ドラゴンの玄さんに対してチーム虎姫のエースである照と暗に対比させている面白みのあるアオリだなと思いました。

この後、衣から「竜蟠虎踞」という言葉もありました。

そして、最後のアオリは虎をも圧する龍の力――……!!

中国では絶大な力を持った英傑の譬えとしても用いられるのが、竜と虎。この二つの生き物は頻繁に対比で用いられます。

 

しかし、今までは明らかに照の方が自力で勝っていたためそのような表現は全く出てきませんでした。が、ここに来て玄さんが覚醒し真なる力を解放したことにより、虎に並び立ち屠り去る力を持った竜として改めて描かれることとなりました。こんなに嬉しいことはない。

 

半荘で25000点持ちの91200点はちょっとおかしいレベル。私自身、8万点超えはありますが9万超えは未体験です。

しかも、相手はしずあこ宥姉と決して弱くないどころか、仮にも全国1位の白糸台を破った面々です。

普通、ここまで行くまでには誰かがトぶのですが、積み棒を見ると玄さんの所に熊倉さんを彷彿とさせるレベルで大量に置かれており、圧倒的連荘をしたのが解ります。

それは、憧ちゃんが牌を崩して点を仰ぐ気持ちも解ります。

 

ああ、玄さんは、本当に強くなったんだなぁ……(無限の回顧と涙で30分止まる)。

 

前回の記事でドラ送りについて少し考察しましたが、自分が和了する時限定のようですね。

「すべてのドラは玄に集まる」の基本は崩さない範囲の運用ということになりそうです。

 

「相手にドラを送れるかもって思うときって必ずここに戻ってきてくれるっていう確信が一緒だった」

と玄さん。

いつも見送る方だった玄さん、必ず帰って来てくれるという確信は3年間の掃除をしていた時にも抱いていたでしょうか。だからこそ待てた部分もあるかもしれません。

 

とはいえもしかしたら、送ることでドラが帰って来なくなるかもしれない、そのリスクを背負った賭けでもあった訳で。その一世一代の大勝負に玄さんは勝った。高校生の頂点を始めとして、世界を驚かせた、正に震天の闘牌。それはもう、有史以来の大事件といってまったく過言ではありません。すこやん良いこと言った!

 

あの久の想定すら上回り、アレクサンドラ・ヴィンドハイム監督にも欲しいと言わしめた玄さん。

人は予想を超えてくる!

でも、私はこの宇宙で一番、玄さんがこうなることを、この瞬間を信じて信じて祈って祈り続けてきました。

 

辻垣内さんは前回述べた通り疑心暗鬼にならざるを得ないことを自覚しており、それこそが能力の強みです。

今度は西洋竜を後ろに従えたドラゴンロード玄さんに幸あれ……

 

そして、南入しても玄さんの勢いは止まず。

倍満・親ッパネ・役満を和了して-35800点てこの卓の獲得素点は一体どうなっているのかいつかゆっくり考察したいですが……

 

後半戦南入してから、玄さんはさらなる覚醒して飛躍した竜の力を見せ付けてくれます。

全力の意識してのドラ引きによる加速。

それによる、三倍満。

 

跳満・倍満・三倍満・役満を和了して、最早野球のサイクルヒットの如きサイクル満貫を見せてくれる玄さん(今の玄さんにはむしろ普通の満貫を和了するのが一番難しそうですね!)。

 

玄さんは、高火力である代わりに特にこのインハイルールでは赤ドラが足枷となってスピードは速くないというのが唯一にして最大の弱点でした。

何せ、決勝戦では数巡以内に和了する速さの鬼のようなメンツが揃っています。

が、その面子を相手に(南入したので優希は弱体化しているでしょうが)先んずる速度まで身に付けてしまった玄さん、名実共に最強の風格を帯びつつあります。

 

玄さんがあまりにもかわいすぎる143ページで、照が今まで松実さんと呼んでいた所が、ここで初めて「松実玄」と呼び捨てにしています。

荒川憩ちゃんのことも荒川さんと呼んでいましたし、基本的に人に対してさん呼びの照が、明確に玄さんを倒すべき敵と認識した合図でしょう。荒川さんやガイトさんより明確に格上と無意識的に意識していると感じます。

 

真の龍の支配。

吉野山が玄さんに授けた力。

これが、玄さんが纏っていた霧の真価。

咲-Saki-阿知賀編から向こう、ずっとずっとずっとずっと待望んで夢にまで見てきた瞬間がここに成就しています。

 

 

 

嬉しいしかない、自分のこと以上!!

 

この後、玄さんには親番が回ってくる訳ですが、私はそこで更に玄さんが爆発してくれると信じています。

 

 

ところで、咲-Saki-では、長野県決勝であったり慕ちゃんであったり、ここぞという曲で古役を用いた麻雀好きならニヤリとしてしまう演出がされることがあります。

私は、もしかしたらこの後玄さんが古役を和了することもあるかもしないと思っています。

 

その役の名は、「双竜争珠」。

筒子の雀頭、索子と万子の双方で同数位の連続する六数位での二順子(2~7sと二~七萬など)で構成される役で、五翻役です。

この役は、赤ドラがあっても5pがドラであればそれらを無理なく使って玄さんが和了できる形です。

 

他にも竜の名を関する古役としては十三龍門という、天和/地和/人和で国士無双を和了するという五倍役満が存在しますが、赤ドラありルールだと玄さんには少しむずかしいかもしれません。

 

咲-Saki-のセオリーとしても、一回最下位まで行ってもう無理かと思われた高校が大逆転して1位に浮上することはままあります。

この後、玄さんは一位になると宇宙が誕生する前の存在だった頃から信じています。

阿知賀女子は一位で先鋒戦を終える。

玄さんなら、私が世界一愛する子ならそれを成し遂げて帰ってきて微笑んでくれると信じています。

応援することしかできない身ですが、できることをして彼女の今までを、すべてを賭した闘いを見守ります。

 

 

 

とりあえず、役満直撃と三倍満和了記念に祝賀会を帝国ホテルで挙げて来ました。

 

 

 

嗚呼、そのディスプレイに玄さんを感じる……

咲-Saki-208局 感想・考察

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前回記事:咲-Saki-207局 感想・考察

 

 

今月の20日には吉野山で例年通り、そして令和初となる秋祭が行われました。

神輿の担ぎ手は常に不足しがちなので、咲ファンの方々のご協力を呼び掛けたところ、今年も数名の方が担ぎに行って下さったということで大変ありがたいです。

私自身も行きたさしかありませんでしたが、今月は労働時間が400時間超の状態でちょっと余裕がありませんでした。来月にはまた紅葉を観に帰りたい所です。

 


画像は去年のものです。



以下はネタバレとなりますので、ご注意下さいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の最大の山場は、玄さんに回ってきたこの決勝戦最後の親番。そこでの

「この親番は和了っておきたい」

というセリフ。

 

このセリフには、様々な因縁があるのです……

 

ここで、これまでの咲-Saki-で出てきた類型セリフとその結果を見てみましょう。

 

まずは6巻の長野県決勝大将戦の池田。

 

 
「ここは確実に和了しておきたいね!!」

 

 

 「嶺上開花」

 

 

こちらも同じく池田。

 

 
「こっちはこのラス親で連荘したいってのに…」
 
衣に無慈悲に和了られます。
 
 
池田のターンは終わりません。これも6巻。
 
 
「だからこそこの親で稼ぐんだ!」
 
 
 
残酷なる海底。
 
 
次は10巻の絹ちゃん。
 
 
「ここは必ず貢献してみせんで…!」
 
 
親リーがかかった上、和のナチュラルなツモ和了に阻まれます。
 
 
続いては成香ちゃん。
 
 
「今回はなんとか和了りたいです……」
 
 
涙目にもなりますよ。
 
 
そのロンした漫も
 
「これは逃したくない!!」
 
 
デカすぎる和了で返り討ちにあってしまいます。
 
 
 
続いては末原さん。
 
 
「この親はとめたい」
と、今度は止めたい側のパターン。
 
 
咲さんも「末原さんより速く和了なきゃ」とお互いにフラグを立てていましたが、流石主人公。フラグ合戦も制しています。
 
 
そして、玄さん。
玄さん自身がここまで決勝だけて2回言っています。
 
 
親番で
「ここは確実に和了っておきたいっ」
 
 
言ったそばから12000の親被りという痛いダメージ。
 
 
そして、もう一度
「親番…ここは絶対和了りたい」
 
 
決勝のガイトさん、ダマ清一色で三倍満和了り過ぎ問題。ドラ無しで三倍満を2回和了するのって、下手な役満2回より難しいのでは?伊達に個人戦3位ではありません。
 
 
と、ここまで見てきたような中で、今号の玄さんの
「この親番は和了っておきたい」
というセリフを見たときの私の心境を答えよ。
 
ええ。
やめて……! フラグを立てないで…………!!
そう心の中で叫ばずにはいられませんでした。
 
しかし、しかしです。
その直後に描かれた阿知賀の皆の姿。
部長の灼ちゃんを前面に、阿知賀女子が皆阿知賀女子らしい佇まいで玄さんを応援しているのを感じるこの尊き1コマ。
この、このコマならあり得るのではないか……?
咲-Saki-の10年以上の歴史の中でも不倒の強固なフラグとして君臨してきたものをも龍の羽撃きで蹂躙していけるのではないか……??
 
期待と不安の両方が無限大数を超えて去来し、涙を流しながら阿知賀と吉野山に想いを馳せること数十分。
 
意を決してページを捲った次の瞬間の感情の爆発たるや筆舌に尽くしがたかったです。
 
106ページ左下の人の9630倍くらい深夜に喜び咽び泣きました。
 
本当に、本当に流石にもう他家のターンになってしまうのではないかと、メタ的にも心配で仕方ありませんでしたが、見事に玄さんはやってくれました。
 
吉野山住民としてあらん限りの声を振り絞って行った応援の一兆分の一でも届いていたら、そんなすばらならことはありません。
 
 
さて、ここでこれまでの点数経過をおさらいしてみましょう。

 

前半戦

 

東一局 優希、ダブリー一発ツモタンヤオ平和

阿知賀 94000(-6000)

清澄 118000(+18000)

白糸台 94000(-6000)

臨海 94000(-6000)

 

東一局1本場 優希、天和

阿知賀 77900(-16100)

清澄 164300(+48300)

白糸台 77900(-16100)

臨海 77900(-16100)

 

東一局2本場 優希、ダブリーツモ平和

阿知賀 75100(-2800)

清澄 172700(+8400)

白糸台 75100(-2800)

臨海 75100(-2800)

 

東一局3本場 優希、一気通貫

阿知賀 74300(-800)

清澄 175100(+2400)

白糸台 74300(-800)

臨海 74300(-800)

 

東一局4本場 玄、タンヤオツモドラ7

阿知賀 91500(+17200)

清澄 168700(-8400)

白糸台 69900(-4400)

臨海 69900(-4400)

 

東二局 優希、タンヤオイーペーコー

阿知賀 91500

清澄 171300(+2600)

白糸台 69900

臨海 67300(-2600)

 

東三局 智葉、タンヤオ

阿知賀 91500

清澄 170300(-1000)

白糸台 68900(-1000)

臨海 69300(+2000)

 

東四局 玄、ツモドラ6

阿知賀 109500(+18000)

清澄 164300(-6000)

白糸台 62900(-6000)

臨海 63300(-6000)

 

東四局1本場 智葉、純チャン三色

阿知賀 107400(-2100)

清澄 163200(-1100)

白糸台 61800(-1100)

臨海 67600(+4300)

 

南一局 智葉、ダブ南トイトイ

阿知賀 107400

清澄 155200(-8000)

白糸台 61800

臨海 75600(+8000)

 

南二局 照、ツモ

阿知賀 107100(-300)

清澄 154900(-300)

白糸台 62900(+1100)

臨海 75100(-500)

 

南三局 照、ツモ平和

阿知賀 106400(-700)

清澄 154200(-700)

白糸台 65000(+2100)

臨海 74400(-700)

 

南三局1本場 照、ツモ役牌

阿知賀 105300(-1100)

清澄 153100(-1100)

白糸台 68300(+3300)

臨海 73300(-1100)

 

南三局2本場 照、和了形不明

阿知賀 103800(-1500)

清澄 151600(-1500)

白糸台 72800(+4500)

臨海 71800(-1500)

 

南三局3本場 照、ツモ七対子

阿知賀 101900(-1900)

清澄 149700(-1900)

白糸台 78500(+5700)

臨海 69900(-1900)

 

南三局4本場 照、タンヤオ対々和

阿知賀 98900(-3000)

清澄 146700(-3000)

白糸台 87500(+9000)

臨海 66900(-3000)

 

南三局5本場 照、ツモ七対子

阿知賀 95200(-3700)

清澄 143000(-3700)

白糸台 98600(+11100)

臨海 63200(-3700)

 

南三局6本場 照、和了形不明

阿知賀 90600(-4600)

清澄 138400(-4600)

白糸台 112400(+13800)

臨海 58600(-4600)

 

南三局7本場 照、九蓮宝燈

阿知賀 73900(-16700)

清澄 121700(-16700)

白糸台 162500(+50100)

臨海 41900(-16700)

 

南三局8本場 優希、タンヤオ

阿知賀 73900

清澄 125100(+3400)

白糸台 162500

臨海 38500(-3400)

 

南四局 智葉、ツモ平和清一色一気通貫イーペーコー

阿知賀 61900(-12000)

清澄 119100(-6000)

白糸台 156500(-6000)

臨海 62500(+24000)

 

ちなみにここは智葉は子なので12000・6000の筈ですが8000オールで計算されており、

 

 

阿知賀が4000点多く、清澄と白糸台が2000点少なく描かれていました。

 

後半戦

 

東一局 優希、天和

阿知賀 45900(-16000)

清澄 167100(+48000)

白糸台 140500(-16000)

臨海 46500(-16000)

 

 

こちらもそのまま阿知賀が4000点多く、

清澄と白糸台が2000点少なく描かれています。

 

ただ、この後は修正されており、上記の二箇所も単行本では修正されることでしょう。

 

東一局1本場 智葉、リーチ一発タンヤオ平和三色

阿知賀 45900

清澄 153800(-13300)

白糸台 140500

臨海 58800(+13300)

 

東二局 智葉、ツモ平和清一色一通イーペーコー

阿知賀 33900(-12000)

清澄 147800(-6000)

白糸台 134500(-6000)

臨海 82800(+24000)

 

東三局 智葉、ダブ東対々和三暗刻

阿知賀 33900

清澄 129800(-18000)

白糸台 134500

臨海 100800(+18000)

 

東三局1本場 タンヤオ?

阿知賀 32600(-1300)

清澄 129800

白糸台 135800(+1300)

臨海 101800

 

東四局 照、和了形不明

阿知賀 31600(-1000)

清澄 128800(-1000)

白糸台 138800(+3000)

臨海 100800(-1000)

 

東四局1本場 照、和了形不明

阿知賀 31600

清澄 122700(-6100)

白糸台 144900(+6100)

臨海 100800

 

東四局2本場 玄、リーチ一発タンヤオ三色ドラ8

阿知賀 65200(+33600)

清澄 122700

白糸台 111300(-33600)

臨海 100800

 

南一局 玄、ツモイーペーコーダブ南ドラ7

阿知賀 89200(+24000)

清澄 110700(-12000)

白糸台 105300(-6000)

臨海 94800(-6000)

 

 

 

ここまでの和了点合計は428,600点。

そしてこれを30回の和了回数で割ると、14286点。

照の連続和了の小刻みがありながら、玄さんのこれまでの平均和了点に匹敵するというとんでもない数字。

 

ちなみに、ここまでの平均和了点を計算すると

 

優希 7回和了 131100点、平均18728点

智葉 7回和了 93600点、平均13371点

照 12回和了 111100点、平均9258点

玄 4回和了 92800点、平均23200点

 

こうして見ると、すこやんが照を「火力が高くない」と評するのも宜なるかな。親役満とか上がってますけど。

 

 

そして

 

南二局 玄、ツモ三色ドラ7

阿知賀 113200(+24000)

清澄 102700(-8000)

白糸台 97300(-8000)

臨海 86800(-8000)

 

遂に…………

遂に……………………

 

この決勝戦、先鋒戦が始まって………………

 

初めて阿知賀女子がトップに立ちました!!!!!!!!

 

 

この一ヶ月は毎日祝杯でした。

 

35000点近く和了して、振込は1300点しかしてないのに-70000点近いってどういう麻雀だよと思わずにはいられない、この魔境にも程がある卓で。

最下位になりながらも、そこから昇竜は驚くべき勢いで駆け上っていきました。

 

 

優希 7回和了 131100点、平均18728点

智葉 7回和了 93600点、平均13371点

照 12回和了 111100点、平均9258点

玄 5回和了 116800点、平均23360点 new!

 

この面子相手に、高校生最強を含む牌に選ばれ過ぎた子たちを相手に、過去最高の平均和了点を叩き出してている!!

智葉さんに「確実に打点も上がってる」と言われているとおりに。

 

こんなすばらなことはありません!!!!

 

 

2回戦では園城寺怜相手に力及ばず、辛い想いにも遭いました。

怪物が暴れるエースポジションだから仕方ないと慰められても、責任感がありお姉さん的立ち位置でもある彼女は自分の無力さを噛み締めチームメイトの重荷になってしまったことを悔いることを内心では止められなかったでしょう。

しかしその後、できうる限りの修行を研鑽を積みました。長野県勢と、そして事前の合宿では歯が立たなかったという個人戦2位の荒川憩さんたちとも最後は渡り合えるようになったとも言っており、着実に急成長を遂げていました。

そして迎えた準決勝。確かに昨日の玄さんより今はもっと強くなったその時点で最強の玄さんでしたが、それでも最強の高校生の前にまた苦渋を飲まされました。それでも、後半戦オーラスのあの決意の一打に至るまで、玄さんは技術的にも精神的にも最高の実戦を通して極限まで鍛えられて来ました。

更に、その後はドラゴン復活の儀式で決勝に残った人間の誰よりも多く、決勝戦開始までに局数を重ねたのだろうと思います。

 

「ただ前だけ見つめてる」。

 

二回戦では辛酸を舐めさせられたライバルを象徴するFurturistic playerのフレーズは、今や玄さんの中にもあります。乗り越えていったライバルから学んだものも非常に大きく、実際にこの決勝戦でも準決勝でできなかったことを意識的にやってのけるなどしています。

 

それは、決勝戦では今までになく後ろ向きな姿勢が多く見られる優希とは正反対です。

 

「もし神がいるのなら前に向かう者を好きでいてくれるはず」。

 

池田の名ゼリフがここに来て頭に過ぎります。

 

 

ヴィンドハイム監督に欲しいと言われ、姉帯さんにサインが欲しいと言われ、霞さんには霧島神境でも働けそうと言われる今の玄さんの魅力と可能性はムゲンです。

 

 

しかしいよいよ優希も遂に腹を括ったようで、今までの後ろ向きさを正して前に出てきそうです。

照も、ガイトさんも言うまでもなくあまりにも強靭な相手。

特に、ラス親が残っている照は怖さがあります。

ここから先は本当に未知数。

 

私にできることは、この玄さんの親がまだまだ続いていく未来を、親が終わっても、龍が舞う未来をただただ祈り応援すること。でも、不思議と阿知賀が1位で先鋒戦が終わっているイメージしか私の中には生じません。

 

誰よりも努力した者が、最後に頂点に立っている。そんな世界であることを望んでいます。

 

こんな得難い時間を、1ヶ月に一度味わえる至福を本当にどうもありがとうございます。

 

 

余談ですが、

「当たったら事故」
と言って捨てたら当たる、というジンクスもあります。該当シーンがいくつあるかは探してみてください。

【レビュー】ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜

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今こそドラクエファンが『ロトの紋章 〜紋章を継ぐ者たちへ〜』を読むべき理由 

http://www.manga-news.jp/article/28741/


久々にマンガ新聞にレビューを寄稿しました。

こちらの記事を読んで全巻買って下さったという方もいらっしゃり、ありがたいです。


現在、クライマックスを迎えていますが、ヤングガンガン最新号ではまたマンガ表現に挑戦するような凄まじい回でコミックスサイズで読んでしまうのが勿体ないと感じる程でした。


ドラクエ好きな方にこそ、今ロト紋を読んで欲しいと願います。

咲-Saki-209局 感想・考察

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前回記事:咲-Saki-208局 感想・考察

 

 

吉野山の美しい紅葉も本格的に色付き初めた昨今、いかがお過ごしですか。

 

立先生自ら出された多大なヒントのお陰という所もありますが、ここ最近になって難攻不落で迷宮入りとまで言われていた様々な舞台が立て続けに発見され、咲-Saki-ファンの間でも特に舞台探訪を生業とする者たちに激震が走っています。

 

先日は遂に3巻表紙が見付かりましたが、同じく10年間誰も見つけられずにいた5巻表紙、通称「ステルス坂」が左右反転というヒントを得て遂に発見されました。

その立役者がはるまきさん。

 

 

発見に至った経緯も上記の記事にて解説されています。

 

そして、更にはるまきさんは

と、dreamscapeでの記述により海外であることが明らかにされ、更に「ストリートビューでも見られない場所」というオマケ付きの超難関物件まで特定されました。

ブログ名もTwitterアカウント名も「凡人」とされてはいますが、咲世界は末原さん然り自称凡人がこわいです。

 

しかし、ニーマン絡みでドイツかと思ったらそれをブログで否定されましたが、南仏でしたか。

未だ見付かっていない物件に関しては、固定観念を捨てて取り組んだ方が良さそうだと告げられている気がします。

同じく南仏にあるソフィアアンティポリスもこれから雀明華さん絡みで出る可能性もかなりあるので、折角わざわざフランスまで行くならハシゴするのもアリですね。

 

また、個人的には日本も世界も名所を旅していそうな立先生なら、折角アルルまで足を伸ばしたのならバルセロナにも行っているのではないかと推察するので普通に観光しつつバルセロナの階段や坂を押さえておくと世界編に向けて良い先行投資ができるのではないかと思っています(決勝、個人戦、国麻まで終えるのだけでも後10年以上は掛かりそうですが)。

 

この勢いで、1巻2巻の表紙や冒頭シーンなども見付かるでしょうか。

令和の舞台発見フィーバーがどこまで続くかも楽しみです。

 

 

さて、以下は最新話ネタバレです。

未読の方・単行本派の方はご注意下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとうございます、立先生…………

 

いやぁ……もう…………

望外とはこのことですよね…………

こんなに報われて良いんですか…………

『咲-Saki-』は予想を超えてくる……

 

 

玄さんがとても大きく反応しそうな、カラーで描かれる霞さんのおもちから始まった今話。

 

更にカラーでの美麗な見開き。

となれば、あの方が動きます。

ランキングは常に変動しているので突っ込まないとしても、高遠原制服+ハーフコートの今回ののどっちは確かにとてもすばらでしたね。

 

扉絵から既に吹き出しがあるのも斬新。

すべての扉絵は実際にあった瞬間らしいので、描かれていないセリフもそこにはある筈ですけどね。

 

そして、和が数多の強豪校のスカウトを蹴ってまで清澄を選んだ理由は優希の存在(そして優希は学食にタコスがあるから清澄を選んだので、和も実質タコスがあるから清澄にしたと言えるという)。

「げきおも!」

と優希に言われますが、これはね、読者視点だととても解る部分がありますよね。

 

というのも、和は両親の仕事の都合で転校ばかり。

穏乃たちにしてもそうですが、友達ができてもすぐに離れ離れになってしまうということを繰り返してきており、気のおけない本当の友達なんて極々僅か。そして、優希は和にとってその極々僅かな例外です。親には反対されているとはいえ、和とて麻雀に賭ける想いは人一倍でありインターミドルチャンプという結果も出しています。それでもなお、麻雀の強豪よりも大切な一人の友を選ぶという和の選択に、彼女の芯にある想いが見て取れます。

 

この構図は、思い出させますよね。

一度は皆と別れてでも麻雀の強豪・阿太峯中学への進学し、その後高校は晩成に行くという奈良県民としての黄金ルートを諦め、麻雀部すらなくなっていた阿知賀に進学して穏乃や玄さんと一緒に麻雀をする道を選んだ憧の事を。麻雀によって絆を結ばれた彼女たちは、根底にある精神性でも響き合うものがあるのだろうと思います。

 

現実的には外部からはもったいない、と批判も出る行為かもしれません。

しかし、実際にはそんな両者が揃ってインターハイの決勝という頂点の舞台で相見えている。そんなすばらなことはないではありませんか。

 

そして優希の言うセリフ。

 

「夢 持とうぜ……!!」

 

や~、This is 優希! という感じの良いセリフですね。

そう、夢、持ってもいいじゃないですか。

甘っちょろいと言われるかもしれませんが、それでも楽ではない道で様々な物を乗り越えて今この舞台に立っている。

「遊ぶんだ、和と」という夢が、今正に叶っている。

それは願い、努力し、諦めず、行動し続けてきたから。

どんな苦境も、大事な仲間たちと乗り越えてきたから。

その姿の何と美しくすばらなことか。

これだから咲-Saki-は、咲-Saki-シリーズは素晴らしい。

 

 

 

P367の3コマ目、辻垣内さんが示唆する「気合で手牌が良くなる人物」は誰なのか。

諸説ありますが、既存の人物とは微妙にシルエットが合いません。

後ろ髪のハネは閑無ちゃんっぽさがありますが、サイドの髪の久っぽい具合は閑無とは別物。

先日、同じくガイトさんの回想で出てきた鎖鎌使いに似たものも感じましたが気の所為でした。

スカーフなのか腕に巻き付けた布なのかも特徴的で、恐らく今後登場してくる誰かかな、というのが暫定での個人的結論です。

登場を楽しみに待ちたいと思います。

 

 

椅子の大回転、それも南場であるという共通点も当然のように看破している赤土さんの慧眼は流石の一言。

ここまで有能な監督も全国でもそうそういないでしょうし、人材として欲する人の気持もよく解ります。

 

それをあらかじめ教えられて警戒する玄さん、トップの玄さん、歴代でも魔物大集結した異端なるインターハイの決勝のそのエースポジションで魔物of魔物が集う先鋒で、1位に立っている玄さん、あまりにかわいい。

 

玄さんとしては言うまでもなく当然なのですが、トップになったことを全く意識することもなく、決して驕らずに盤面に集中して分析しながら戦っている。当たり前ですが素晴らしいことです。

その神々しい姿を、祈りのポーズでただただ応援。

 

 

そして訪れた370P。

 

せっかくトップになれたのだから

ここは無理せずオリて守るべきかな…

 

ダメダメダメダメダメダメ!!

それはダメだ、玄さん!!!

普通の麻雀ならそれで良いかもしれない!!

麻雀は4局に1回も和了できないゲーム!!

だからこそ!!

確かに攻めよりも守りの技術の方が重要であることは否めない競技!!

ただ!!

それでも!!

この決勝戦先鋒戦!!

守りに入ったり後ろ向きになってしまった者はことごとく狩られている!!

こと!!

ここにおいては!!

攻撃こそ最大の防御!!

逃げて勝てる相手じゃない!!

がんばれ!!

がんばれがんばれ!!

玄さんがんばれ!!

負けるな!!

国際フォーラムの魔物に心の弱さを突かれるな!!

抗って!!

龍は退かない!!

麻雀の神は!!

前に進む者を!!

好きでいてくれるから!!

 

一瞬の間に脳内に駆け巡る思考と応援。

手は震え、心臓と脳の血管が爆発しそうになりながら読み進めたその先。

 

2巡だけ勝負させて!!

 

それーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

それ!!

それだ玄さん!!

それが良い!!

それがベスト!!

勝負こそベスト!!

よくぞ!!

よくぞこの局面で!!

勝負を決断してくれた!!

もう!!

たとえ!!

これで振り込むことになったとしても!!

退かなかったという事実は!!

永遠に心の支柱になってくれる!!

ありがとう!!

勝負してくれてありがとう!!

強くなった!!

技術だけでなく精神も本当に成長した!!

ありがとう!!

赤土先生!!

阿知賀のみんな!!

晩成のみんな!!

長野県勢!!

チーム憩のみんな!!

後援会のみなさん!!

彼女が強くなるために協力してくれたみなさん!!

ありがとう!!

流石にフラグを立てた優希の前に厳しいかもしれないけれど!!

この勝負する姿を見られただけでも!!

私の魂も救われました!!

ありがとう!!

 

ツモっ

6100オールです!!

 

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァアッァァァッァアァァァ!!!?!?!?!!?!??!??!??!

 

ア………ォァ………????

 

げん…………じつ………………?????

 

まぼ……ろし…………………??????

 

ゆ……め………………………………???????

 

深夜に自分の都合の良い現実に描き換えるエイスリンのような能力に覚醒めてしまったか、と思いました。

 

本気になっているインターハイチャンピオン、個人戦3位、そしてフラグをビンビンに立てた牌に愛された子である優希との全員テンパイでの捲り合い。

準決勝までの玄さんは最も苦手としていた速度での勝負。

 

流石の私も、応援をしながらも「ここで優希に和了されるのは仕方がない」と思っている部分があることは否めませんでした。

 

しかし人は予想を超えてくる。

 

これが、咲-Saki-。

 

私が最も愛する作品だ。

 

最高です…………

何度も言ってしまいますが、こんなすばらなことはない……

立先生、ありがとうございます……

 

もう完全に今この時点で最強の高校生は誰か、という議論において「松実玄」と言うことは妄言でも何でもないとまで言えるでしょう。

世界よ、これが覚醒した龍の力を駆る松実玄さんだ。

 

照のラス親がある以上、たとえ10万点差あっても安心は全くできないのですが、それはそれ、これはこれ。

 

 

南二局 玄、ツモ三色ドラ7

阿知賀 113200(+24000)

清澄 102700(-8000)

白糸台 97300(-8000)

臨海 86800(-8000)

 

前回までがこうで、

 

南二局1本場 玄、ツモタンヤオドラ5

阿知賀 131500(+18300)

清澄 96600(-6100)

白糸台 91200(-6100)

臨海 80700(-6100)

 

今回でこうなりました。

 

何と、玄さん以外全員原点割れ。

2位と34900点差のトップ。

 

思えば、咲-Saki-において唯一の元号を跨いでの対局です。

時代が変わった。

新しい時代、令和と共に到来した。

そう、阿知賀のドラゴンロードの時代が。

 

咲世界においても、ダークホース校が凄いことになっていると話題沸騰でしょう。

実家の松実館に聖地巡礼に行ってしまう人もいるでしょうね。

 

ちなみに

 

優希 7回和了 131100点、平均18728点

智葉 7回和了 93600点、平均13371点

照 12回和了 111100点、平均9258点

玄 6回和了 135000点、平均22517点 new!

 

親ッパネを和了したことで玄さんの獲得点数は1位に。

一方で平均和了点は若干下がりました。

そんな馬鹿な(笑)

インパチを和了すると平均和了点数が下がる世界。

これには一八先生もびっくりでしょう。

 

暫定で獲得点数も玄さんが1位に立ちましたが、流石の私も次回は優希に和了されるかもしれないと覚悟しています。

ただ、それでも更に予想を超えて欲しいという想いも一杯です。

 

結果がどうなろうと、一片の悔いも残さぬよう残りの局も全力で闘い抜いて欲しい。

そして、私が言うまでもなく彼女はそうしてくれるという安心感も今はあります。

 

この数ヶ月、本当に幸せでした。

 

紅葉の吉野山に御礼参りに行きたいです。



このマンガがすごい!2020予想

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今年も気付けば残す所40日足らず(嘘だろ承太郎)。
毎年恒例の「このマンガがすごい!」の2020版発売・発表も近付いてきました。

そこで、オトコ編・オンナ編のベスト10を予想してみます。


個人的には「このマンガがすごい!」ではベスト10には入らないかもしれないけれど、このマンガも素敵なんだ! と心から叫びたい作品も軽く3桁はありますので、そちらもまた別途まとめたいと思います。

 

まずオトコ編のベスト10を。

 

 

SPY×FAMILY

 

10月に2巻が発売されたばかりですが、先日早くも100万部突破の報が出たジャンプ+の看板作品。

世界同時配信が始まっているお陰で、既に海外でも大人気だそう。基本的に海外ではアニメ人気から火が点くパターンばかりだったので、今後マンガ主導で人気の作品が増えていけば非常に良い流れですね。

互いの正体を知らないスパイの夫と暗殺者の妻、そしてすべてを知る相手の心を読める超能力者の娘という設定が紡ぎ出す物語の妙、それを支える安定した画力。

人気過ぎて投票時に敢えて外す人もいそうなレベルの、圧倒的キングオブエンターテインメント感があります。

「すごい!」に限らず各所で名前を見ることになるでしょうし(既に次にくるマンガ大賞1位も取っていますが)、今後のメディアミックスも盛り上がってそこで更に跳ねるでしょう。間違いなく今年を代表する一作。

 

 

僕の心のヤバイやつ

 

『五等分の花嫁』がアニメで大ブレイクし『進撃の巨人』より部数が出たり、アニメと実写で大盛り上がりの『かぐや様は告らせたい』であったり良質なラブコメが元気の良い昨今ですが、そんな中で大きく話題になって更新の度に盛り上がっているラブコメが『僕ヤバ』。

公式から「両片思い」と明言された市川と山田の甘酸っぱいにも程がある現代的なラブがコメる様子に、迸る感情を持て余す読者続出。

好意を時に婉曲的に時に積極的に、絶妙に表していくエピソードの数々に身悶えさせられること必至です。

時折Twitterで桜井のりおさんが投下する爆弾にも被害者続出。

どっちのラブコメショーで高木さん派と山田派を戦わせてみたい。

ラブコメって、いいものですね。

 

 

王様ランキング

 

一昨年に連載が開始され、各所で話題になった作品。大きく話題になったのは去年という印象ですが、単行本刊行は今回の集計期間内ですので、そうであるならば入るだろうと読みます。

多少絵が拙くとも、抜群に面白いマンガは成立するという優れた見本です。

特にキャラクターと世界設定、物語が非常に魅力的で、老若男女問わず楽しめるファンタジー。

人間に普遍のテーマが溢れており、海外でも受け入れられそうです。

上手いこと映像化も絡めて輸出すれば日本のハリーポッター的な存在にできるのではとすら思います。

 

 

それでも歩は寄せてくる

 

『からかい上手の高木さん』で一世を風靡した山本崇一朗さんが、マガジンで新しいラブコメの連載を始めると知った時は驚きました。

こちらは将棋部の先輩女子と後輩男子という関係性で織り成されるラブコメ。

1話1話は短い中に、身悶えするシーンが沢山ギュッと詰まっています。

とらやの羊羹、文明堂のカステラ、山本崇一朗さんのラブコメ。そんな信頼感と安定感。

こういうのが、良いんです。

山本崇一朗さんや工藤マコトさんなど片山ユキヲさんの下でアシスタントをされていた方々が6桁のフォロワーを持つようになりブレイクしていっているのをとても嬉しく思います。

 

 

潮が舞い子が舞い

 

『月曜日の友達』以来、1年半ぶりに出た阿部共実さんの最新作。

高校2年生の男女が日々繰り広げる他愛もないやり取りが、阿部共実さんらしい突出したセンスによって面白おかしく昇華させられています。

ページの半分くらいをセリフが埋め尽くしていても、一切苦もなく読めてしまう所に力量を感じます。

しかし『月曜日の友達』でもそうでしたが、阿部共実さんの作品はどこで暗黒面に堕ちるのかと警戒しながら読んでしまいます。

大丈夫なのか、この青春感を素直に楽しんでて良いのか、こんなに爽やかなままで本当に何もなく終わるのか……

そんなメタ的な部分も全部引っ括めて、阿部共実作品の味だと思います。

 

 

 

水は海に向かって流れる

 

2014年に出た『子供はわかってあげない』が3位になった実績も持つ、田島列島さん待望の最新作。

本作もあらすじを説明することにあまり意味がない、田島列島ワールド全開な作品。

何よりセリフのセンスが図抜けすぎており、絵と言葉で重い話も軽やかに読ませつつしかし沁みる独特の読み味。

とりあえず何も言わずに読んでみて欲しいですし、同時にインタビューも読んで頂きたいです。

千の言葉を並べるより、その天才性を体感できるでしょう。

 

 

チェンソーマン

 

「最近のジャンプはつまらない」という声は割といつでも聞こえますが、ワンピース、ハイキュー、ヒロアカ、鬼滅の刃、Dr.STONE、約ネバ、ブラクロ、呪術廻戦、アクタージュ等々、そしてこのチェンソーマンがある今のジャンプはなかなか熱いと個人的には思っています。

『ファイアパンチ』でその名を世に知らしめた後、短編でも世間を騒がせつつ始まった藤本タツキさん待望の新連載。

元から画力とセンスの塊でしたが、本作ではそれらが更に洗練されつつゴリゴリに発揮されています。

話が進むに連れてますますエンジンも掛かってくるので、最新巻まで一気に読むことをお薦めしたいです。

 

 

雪女と蟹を食う

 

すれ違ったら振り向かれるような美女と出逢い、その美女のお金で各地で観光をして、美味しいものを食べ、酒を飲み、褥を共にする。

「欲望の総合商社みたいなマンガ」と私は評しています。

Gino0808さんの絵が非常に魅力的で、雪女のようなヒロインが儚い笑顔や憂い顔で佇んでいる姿だけでも成立してしまう感があります。

艶かしさが前面に出るシーンでもどこか品があり、それが作品全体に漂う叙情性にも繋がっています。

27歳で人生に行き詰まった主人公のダメっぷりも文学性を高めており、良い味を出しています。

果たして二人はどのような結末を迎えるのでしょうか。

 

 

見える子ちゃん

 

非常に新感覚のホラー作品。

通常、この世ならざる存在がいたとして主人公に特殊能力が持たせられるなら、それを退治できる能力です。

しかし、本作では主人公は「見える」だけ。脅威に対する何の対抗力も持たずただじっと堪えてやり過ごすだけ。

ただ、現実でも自分の力で全てを解決できる局面ばかりではない事を思うとある種の批評性すら感じます。

時折ハートフルな話も交えてきて心がぽかぽかするのも良いです。

1巻だけより、2巻まで一気に買って読むのをお薦めします。

 

 

ワンナイト・モーニング

 

とにかくTwitterで大いにバズって超人気となった本作。

男女のワンナイトラブと、その翌朝の朝ごはんを描いた連作短編となっています。

愛し合った翌朝の朝食にフィーチャーする着眼点もさることながら、その描き方のエモさがこの作品の最大の魅力です。

男性・女性それぞれの感情の機微の良さみが深く、様々な感覚が芽生えます。

一話完結型なので気軽に読めるのもいいです。

 

 

その他、次点の作品などについて。

 

 

プー●ン大統領的なサムバディのパワフル極まりない異世界転生。

コアな人気だけではないのは部数が証明しており、馬場さんの作品がブレイクして私は嬉しいです。

 

 

花沢健吾さん最新作『アンダーニンジャ』や

 

鳥飼茜さん最新作『サターンリターン』や

 

浦沢直樹さん最新作『あさドラ!』辺りはベスト10入りしていても全くおかしくない所。

 

異世界モノはちょっと……という人すらも楽しめてしまう『異世界おじさん』も有力候補。

 

 

対象期間中に4冊出た『バトゥーキ』は尻上がりにとても面白くなっているのですが、一番面白い最新5巻が対象期間外なのと、1巻だけで切ってしまった人もそれなりにいるのではないかという懸念が少々。

 

 

今年一番盛り上がっている、期間売上でも遂にワンピースを超えた鬼滅について。最高に盛り上がり始めたのはギリギリ集計期間の前後であろうこと、また有名すぎて敢えて外す人もいるタイトルであろうことからベスト10には入らないと予想。とはいえ、今の鬼滅ならそれすら突き破ってくる可能性も否めません。

ちなみに、現在一部の巻以外Kindleで30%ポイント還元中のようなので(ジャンプ作品では割と珍しい)気になっていた方はこの機会にいかがでしょうか。

 

 

 

続いてはオンナ編。

 

 

さよならミニスカート

 

今年話題になった少女マンガと言えば、まずこれですね。

連載開始時のりぼん編集長による声明、そして特設サイトの作り込みが話題になりました。

その後も、りぼん作品が何とジャンプ+でも連載されるという正に異例中の異例扱い。

牧野あおいさんは前作『セカイの果て』も、少女マンガの骨格はしっかり保持しながらもりぼんでは相対的に少々ハードな内容でした。だがそれがいい、と個人的には思います。

りぼん、なかよし、ちゃお等でも昔から大人向けではないのかと思うような作品があり、そういったものに触れて様々な想いに駆られることもまた貴重な経験。

故に、こういう作品がりぼんに載っていることに意義があると思います。

 

 

 

君に届け 番外編~運命の人~

 

『君に届け』の正式なその後のお話。

爽子も登場しますが、本作の主役となるのは元々は同じ風早を好きだったくるみ。

『君に届け』は、そもそも矢野ちんやちづなどサブキャラの方の恋愛の方がエンターテインメント性に溢れている部分がありました。

そんな彼女たちの恋模様に負けず劣らず、くるみの物語も非常に上質です。

端的に言って面白く、当たり前過ぎますが椎名軽穂さんはマンガが上手いな、と語彙力の低い感想を抱いてしまいました。

本編を読んでからがベストではありますが、こちらから読み始めても十分楽しめるであろう良い王道恋愛マンガです。

 

 

海街diary

 

2008年2位、2012年7位。

2018年末に出た最終巻で三度ベスト10入りするかどうか、正直五分五分だとは思いますが、『7SEEDS』も16年の連載が終了した際にはベスト10入りしていました。

何よりあのラストを見せられては挙げずにはいられません。

今更解説するまでもない超名作ですが、終始「人間」を描くのに長けた吉田秋生さんの凄まじい力量を感じさせられた内容でした。

心の深い部分に浸透してきて、単純な悲しさなどではなく名状し難い複雑な感情からの涙が零れます。

鎌倉に行く度に思い出して聖地を巡りたくなる、宝物のような作品です。

 

 

グッド・バイ・プロミネンス

 

2019年で最も注目すべき新人作家の一人でしょう。

まず、端然とした絵が非常に魅力的。

そして、一冊の本としての満足感がとても強いストーリーテリング・構成力も煌めく才気を感じさせてくれます。

今日も回る世界の中で、奏でられ響き合う様々な感情と感情の綴織。

それぞれに切実さを持ちながら発露したり秘められたりしている想いたちが豊かに描かれた、非常に令和感のある鮮烈な一冊です。

 

 

絶対BLになる世界 VS 絶対BLになりたくない男

 

SNS上で大人気を博した、メタBLマンガ。

タイトル通り様々な事象がBL展開に収斂していく世界で、その流れに抗って平和(?)に暮らそうとするノンケの青年の物語です。

「ゴミ捨て場で倒れている男を不用意に助ける」

「男の幽霊がやってくる」

「めちゃくちゃ可愛い女子だと思ったら男の娘」

など、BL好きには「あるある!」と思えるイベントがガンガン起こり、アプローチされてはそれを頑張ってスルーしていく主人公。

果たして、主人公は最後まで回避し続けられるのか、それとも……

 

 

お兄ちゃんは今日も少し浮いてる

 

『緑の罪代』、『妖怪村の3つ子たち』と来て、この『お兄ちゃんは今日も少し浮いてる』。

作家買い大安定の梅サトさん最新作です。

今までの作品の中でも最も自然体で、良い意味での脱力感を覚えます。

しかし、それ故に逆説的に深部まで沁みる物語となっていました。

男性にもお薦めできる秀作です。

 

 

裸一貫!つづ井さん

 

つづ井さんが帰ってきた!

いつも通り、いえいつも以上に読むと沢山の元気を貰える一冊です。

推しがいる人間としてはつづ井さんの推し活に狂おしく同意したり祝福したりせずにはいられません。

周囲の理解のあり過ぎる友人たちもまた素敵ですし、振り切れた熱量には笑いが止まらない所も。

作者のつづ井さんがどのような想いでこちらを上梓したかということを記したnoteがまた名文ですので、ぜひご一緒に。

「裸一貫!つづ井さん」についてちょっと真面目に話させてくんちぇ〜

 

 

新しい上司はど天然

 

2019WEBマンガ総選挙で1位に輝き、Amazonでは136個のレビューが付いて★5が94%、★3以下は何と0という超高評価。

とにもかくにも30超えの上司が可愛いコメディです。

そう、齢30を超えた男性が、そこらのゆるキャラが裸足で逃げ出すほど可愛いのです。

「可愛いは最強なんです!かっこいいの場合、かっこ悪いところを見ると幻滅するかもしれない。でも、可愛いの場合は、何をしても可愛い!可愛いの前では服従!全面降伏なんです!」

という、『逃げ恥』のみくりの言葉がそのまま当てはまるような上司に萌え狂って下さい。

 

 

ゲイ風俗のもちぎさん

 

今やTwitterでのフォロワー数が50万人を超える人気者・もちぎさんによる、主にゲイ風俗で働いていた時の体験などの半生を綴ったエッセイマンガです。

当時19歳のものとは思えない透徹した思考と言動が人間の本質を突いていて魅力的です。

もちぎさんよりも更にある意味上手なボネ姉の「付き合ってなくても向き合ってはいるの」といった名言の数々も忘れられません。

毒親から理不尽な扱いを受け、死にたいという想いを抱きながらも乗り越え、逆に数々の人を救う存在となったもちぎさん。

そんなもちぎさんも今現在は田舎で穏やかに暮らしているということが個人的にはとても救いになります。

人生を生きる上で大事なことが詰まっている一冊です。

 

 

東京タラレバ娘 シーズン2

 

このマンガがすごいオンナ編は結構男性選者も多く、それ故に男性でも読み易い少女・女性マンガというのが一つのポイントになります。

その点で、東村アキコさんの作品はその筆頭。

すごい!だけでも『きせかえユカちゃん』『ママはテンパリスト』『海月姫』、そして『かくかくしかじか』に至っては4年連続で10位以内に入り、最終巻の際は1位となりました。

もちろん、『東京タラレバ娘』も2016年に2位。

その続編ということで文句なく筆頭候補に挙げられます。

少々毛色が変わった部分で賛否はありますが、今回もランクインしている方にベットします。

 

 

 

そして、オンナ編次点。

 

 

村井の恋

 

今年、次にくるマンガ大賞webマンガ部門でSPY×FAMILYに次いで2位となった新星。

昨年、トリガーで行われたマンガプレゼン大会優勝者が推していた作品でもあります。

男女問わず読んで楽しい作品であり、ベスト5入り位していても驚きません。

 

 

ポーの一族 ユニコーン

 

長く生きていると、「エディス」のその後をご本人が描いた物語が読めてしまう……人生って凄い(※凄いのは御年70歳で描いて下さっている萩尾望都さんです)。

『春の夢』から続いてやはり変化した部分で賛否両論はありますが、個人的には読めて嬉しいです。

『春の夢』が2018で2位だったのでベスト10入りはしない読みですが、していても全くおかしくありません。

 

 

恋と弾丸

 

オトコ編に分類される作品を含めても、2019年上半期に1巻が発売された作品の中の売上では圧倒的1位だった『恋と弾丸』。

どちらかと言えば、普段あまりマンガを読まないという方も含めたライト層に大きな支持を得ている作品です。

故に、「すごい!」での順位がどうなるかはなかなか読み辛い所ではあります。

 

写楽心中 少女の春画は江戸に咲く

 

集計期間ギリギリの発売日でなければ、ベスト10入り予想に入れていたであろう作品。

男性でも読み易い作品ですので、春画に興味のある方もない方も読んで欲しいです。

今年は秋田書店の女性向けに良い作品が多かったですね。

 

 

かげきしょうじょ!!

 

シーズンゼロ発売に伴ってベスト10入りしていたら嬉しいですねえ。

 

 

 

番外

 

夢中さ、きみに。

 

何なら俺マン2019などでも非常に高確率でベスト10入りしてくるであろう作品ですが、オトコ編なのかオンナ編なのか判別できなかったので一旦省きました。

面白さは折り紙付きなので、未読の方はぜひ。

このマンガも素敵!2019 その1

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毎年恒例の「このマンガがすごい!」の発売・発表も近付いてきました。

 

前回の記事ではベスト10入りするものを予想しました。一方で、このマンガも素敵なんだ! 個人的に推したい! という作品も沢山ありますので、紹介していきます(他のアワードでは上位に来るであろう、来て欲しい作品も含みます)。

 

 

ぴっかり職業訓練中

 

「お金も職もない、人生詰んだ」と思っている方にこそ読んでみて欲しいマンガです。『とろける鉄工所』の野村宗弘さんによる、ハロートレーニングと名前が変わったと共にその中身も変わりつつある現代の職業訓練所に様々な事情で通う老若男女の人間ドラマ。主人公は28歳のマンガ家になれなかった青年で、夢破れてもこういう風に学びながら誰でも職人となってお金を稼いで就職して生きていく道もあるんだ、と読みながら学べる作品です。

 

 

ダブル

 

天才役者を描いた作品は『ガラスの仮面』や『アクタージュ』など多々あります。しかしこれ程欠落した、日常生活を送ることすら困難な、それ故に相方が必要なほどの歪な天才ではありませんでした。主人公二人の関係性だけで無限にご飯を食べられる、マンガはキャラクターであるという原点を思い起こせられる作品。エッジの利いた野田彩子さんの作品群の中でも一際輝きを放つ、間違いなく今年を代表する傑作です。丁度、先日公開された最新話は本作の核心に触れとりわけ最高過ぎたので、一人でも多くの方に読んで欲しいです(11/30現在、単行本を買えばその続きはすべてWEBで読めます)。

 

 

結ばる焼け跡

 

昨日、『ALL OUT!!』が完結した雨瀬シオリさんが、ずっと描きたかったというテーマに挑戦した作品。2018年の読み切り版掲載時には個人的年間ベスト10にも入れた程の傑作です。終戦直後を舞台に、人間という物について深く考えさせられる物語になっています。ただ単純に戦争の悲惨さを謳う内容ではなく、純粋にその時代に生きた人間たちを卓越した筆力で描くことで、現代に生きる私たちが読んでも自分事として捉えてしまうような普遍的なテーゼに肉薄しています。雨瀬さんは『ここは今から倫理です。』「松かげに憩う」など描く物描く物すべてハイクオリティで素晴らしく、心酔します。

 

 

片喰と黄金

 

『てのひらの熱を』の北野詠一さん最新作。毎日お腹が満たされるまでご飯を食べられ、命を脅かされる危険もほぼない。そんな状況が人類史的にどれだけ貴重な状況かを再認識させられる、ゴールドラッシュで一攫千金を夢見る19世紀の物語です。帯では『ゴールデンカムイ』作者の野田サトルさんに激賞されるほど綿密に行われている歴史考証に、高い画力と演出力が合わさった作品。歴史マンガでありながら純粋に面白いが故に誰でも楽しめるハードルの低さもあり、お薦めする要素しかありません。

 

 

その着せかえ人形は恋をする

 

「着せ替え人形」と書いて「ビスクドール」と読む、ここテストに出ます。ヤングガンガンで1話を読んだ瞬間に「これは素晴らしい!」と思い、ラブコメ好き諸兄に沢山お薦めしてきた作品。まず絵が実に良く、女の子がとてもかわいい。雛人形職人を目指す男子高生という単体でも異色で面白い主人公の設定に、コスプレ好きのギャルという掛け算の絶妙さ。近年は上質なラブコメが豊富ですが、ラブコメ好きは絶対に読んで欲しい一作です。

 

 

はたらくすすむ

 

高齢主人公の作品って少ない(経験を元に書くのが難しいので当然ではある)のですが、高齢化社会においては今後ニーズは高まる一方ではないかと思っています。本作は妻に先立たれ、娘にも煙たがられる悲哀の66歳の主人公がピンサロで働き始める物語。嬢たちとの不思議な人間関係や、それぞれが抱える想い、ピンサロの内情、定年までのサラリーマン生活では味わえなかった新鮮な経験などが合わさってとても良い読み味を醸し出しています。読むだけで人生の経験値を得られる、そんな作品です。

 

 

プリズムの咲く庭 海島千本短編集

 

アニメ『ブラック・ブレット』では総作画監督も務め、現在はイラストレーター・漫画家として活躍中の海島千本さんのマンガデビュー作。絵が上手いからマンガも面白いと簡単には行かないのがこの世界の常ですが、稀にこういう絵も上手ければマンガ力も非常に高い、という方が現れるんですよね。作画のレベルが非常に高く眺めているだけで眼福なのはもちろん、様々なテイストの話の構成力、マンガとしての読みやすさ、流れる空気感なども実に上質。「今年の新人」「今年の短編集」という括りでは筆頭に挙げてお薦めする作品です。

 

 

傾国の仕立て屋 ローズ・ベルタン

 

歴史チェスマンガ『クロノ・モノクローム』も、野球マンガ『ナックルダウン』も個人的には大ファンだった磯見仁月さんの待望の最新作。タイトルにもある通りマリー・アントワネットに仕えた仕立て屋、ローズ・ベルタンを主人公にした物語です。本作の最大の美点は、彼女の最高の仕事が非常に華美なヴィジュアルで説得力を持って表現されている所。歴史物ですが、何の知識も持たずに読んでも面白い仕事マンガ/人間ドラマとして楽しめるので広くお薦めしたい作品となっています。ちなみに、花の都パリにおいてファッションデザイナーの祖とされるローズ・ベルタンは『ベルサイユのばら』にも登場する人物ですので、併せて読むのも面白いです。

 

 

くだけるプリン

 

『クロサギ』の黒丸さんによる、体を重ねるに至るまでの様々な男女の物語6編を収めた短編集。

“女はみんな自分だけの『ご褒美』を持っている”

“恋したものには触れてはならない 触れることは汚すことだからだ”

など各作品の冒頭のモノローグが示すように言葉選びに情趣があり、特に第5話「まぼろし夫婦」で紡がれる切なる美しい言の葉はとても良いものでした。女性作家ならではの女性心理描写の的確さがあり、主に女性向けではありますが逆に男性が読むことで得られる気付きや学びもある作品となっています。『クロサギ』的なものも良いですが、こういう路線も今後も描いて頂きたいなと思う秀作でした。

 

 

終わりの国のトワ

 

文明が滅び「文字」と「女性」が消え、人は宿り木から生まれる世界。そんな世界でいなくなったはずの女から生まれ、文字を読むことができる少年を主人公としたSFファンタジーです。マントの少年、剣、連れ添う賢い狼と冒頭から王道ファンタジー感を非常に端然とした魅力的な絵で演出され、まず引き込まれます。そこに、今現在の日本人が知る固有名詞の数々が過去の文明として登場する世界観が露わになっていき、現実と地続きの世界における新たなシステムやその先の未来への興味を唆られます。ここ最近のオリジナルファンタジーとしては出色の出来で、続きがとても楽しみです。

 

 

ワンダンス

 

『のぼる小寺さん』『しったかブリリア』の珈琲さん最新作ですが、圧倒的に本作が私は一番好きです。吃音がありコミュニケーションが苦手な主人公が、ダンスで圧倒的な自己表現をするヒロインに出会ったことで自身もダンスを始めると共に成長し自分を変えていくという正統派ボーイミーツガールにしてジュヴナイル。こういう構造は琴線に触れます。何しろダンスシーンの表現力が素晴らしく、1話のヒロインの躍動感と美しさに一目惚れしました。その心の震えは主人公の少年が覚えたものと完全にシンクロしていたはずです。青春マンガが好きな方にお薦めですし、読むとダンスに興味も湧きます。個人的にダンス部部長の恩ちゃん推しです。

 

 

君の大声を聞いたことがない

 

普段は冴えないけれど、一芸に秀でていてその瞬間だけ輝くというタイプの主人公の物語は枚挙に暇がありません。しかし、本作は容姿的にも能力的にも本当に何一つとして自分に自信が持てる要素がない29歳のOLがヒロイン。そんな彼女にも、自分も輝きたいと心から乞い願う瞬間が訪れます。弱くひたむきな主人公の行く末はどうなるのか。切実な人間ドラマです。今の自分に自身が持てない、こんな自分を変えたいと思っている方、自分に重ね合わせて読める方には特に非常に刺さる作品でしょう。

 

 

父のなくしもの

 

『薫の秘話』『ママゴト』『私を連れて逃げて、お願い。』など、人生の不条理に晒されながらも必死に生きる人間の姿、心揺さぶる物語を心身・魂をも削るような筆致で描き続けて来た松田洋子さんによる、自伝的作品。「こんな作品群を描く松田洋子さんは一体どんな人生を歩んでこられたのだろう」と常々思っていたのですが、その答が本作に描かれていました。端的に言って私は気付いたら涙していました。そして、痛切なあとがきを読んで更にもう一度涙を流しました。深い深い想いの込められた作品で、読んだ後は大切な人を今まで以上に大切にしたくなります。松田洋子さんはもっともっと読まれてもっともっと評価されるべき作家です。

 

 

鍵つきテラリウム

 

『僕が私になるために僕が私になるために』『白百合は朱に染まらない白百合は朱に染まらない』の平沢ゆうなさんの新作は、美しく心温まるポストアポカリプスSF。まず、単行本冒頭にもあるフルカラーで描かれたepisode0のコロニーの風景に一瞬で心奪われました。そして、人間とロボット的なテーマも入ってきて心の奥底まで優しく時に切なく響き渡るストーリー。私のように廃墟に萌える方、『少女終末旅行』、たつき監督作品、ニーアオートマタなどの終末系世界観が好きな方にもお薦めしたい一冊です。

 

 

ひゃくえむ。

 

"大抵の問題(こと)は100mだけ誰よりも速ければ全部解決する"

誰よりも100m走を速く走れる少年が、初日からイジめられた転校生にかけた言葉。ここから、狂気と妄執をはらんだストーリーが始まっていきます。人間が宇宙にまで行けるようになっても、原始の時代から重宝された「走るのが速い」という能力は子供にとっても大人にとっても未だ特別な物。努力したからといって必ず勝てる訳ではなく、勝者の側にいる者も油断すれば一瞬で敗者の側に堕ちる世界。自分の場所を守るため、あるいは奪い取るために迸る狂気にも似た執念の黒い炎のような熱にあてられる物語です。心焦がされる熱量ある物語が読みたい方にお薦めです。

 


木曜日は君と泣きたい

 

表紙絵の眼ヂカラに惹かれた方は、その感覚を信じて手に取ってみて下さい。『花もて語れ』の片山ユキヲさんの下でアシスタントをしていた、工藤マコトさんのデビュー作です。Twitter上で大人気となった『不器用な先輩』も、今度ヤングガンガンで連載が始まることになったそうで楽しみです。とにかく工藤マコトさんは絵が魅力的で、特に瞳に宿る力は今年の新人の中でも抜群。そして物語自体も面白く、幾重にも絡まった複雑な事情から織り成される群像劇には程よい痛みと緊張感があります。ネタバレになるためあまり具体的に内容には触れたくないので、とりあえず読んで新鮮な驚きと共に楽しんで頂きたい作品です。

 

 

将棋指す獣

 

藤井聡太七段の活躍もあり、将棋ブームがまた漫画界にも訪れている昨今の代表的将棋マンガの一つ。『アイアンバディ』の左藤真通さんと、『ミリオンジョー』の市丸いろはさんという豪華なコラボです。まだ女性でプロになった者がいない世界で、元奨励会三段のヒロインが前人未到の道を突き進んでいく物語。何と言っても、「将棋狂い」のヒロインが魅力的。将棋にのめり込み過ぎて常軌を逸した行動を取ってしまう様子の数々が描かれますが、それだけひたむきに打ち込んでいるからこそ息の詰まるような対局を読みながら応援したくなる気持ちも強まります。彼女は確かにケモノではなく、ケダモノです。それが良い。

 

 

THE GIRLS SCHOOL

 

たまにこういう頭のネジが2、3ダース飛んだギャグマンガを抉りこむように撃ち込んでくる新人作家が出てくることを嬉しく思います。表紙絵の美しさに騙されて手に取って下さい。中身も絵は綺麗(な所は綺麗、良い意味で酷い所は酷い)ですが、ぶっ飛んだテンションによる痛快さすら感じるカオスな世界が広がっています。私は何度も声を出して笑ってしまいました。下ネタが大丈夫な方、『あそびあそばせあそびあそばせ』や『春になるとウズウズしちゃう春になるとウズウズしちゃう。』、美川べるの作品などのような趣が好物の方はぜひぜひ。巻末のおまけも色々な意味でボリューミーで、今後も双刃美さんの描くマンガは問答無用で追っていきたいです。

 

 

死ぬときはまばゆく

 

主人公が抱く「痛み」の感情が赤裸々で切実で、 1話を読んだ時点で強く心を掴まれた物語です。 先天的なものであるが故にどうしようもない「容姿」という要素に起因する様々な負の事件に遭ってしまう主人公。ある決断と行動。その更に先にある試練。周囲の人物たちの悪意にヒリヒリします。 自分の容姿がもう少し良かったならこんな悩みを持つこともなかったのだろうか……そんな風に思ったことがある人であれば、他人事とは思えない主人公に共感必至です。 主人公にはどうにか幸せになって欲しいと思いつつ、タイトルを想うと彼女の行く末が案じられてなりません。 読んでいて辛くなりますが、良い作品です。

 

 

妻、小学生になる

 

ニコニコ掲載時にもTwitter掲載時にも大いに話題になった本作。私はタイトルを聞いた時まったく違う内容を想像してしまいましたが、蓋を開けてみれば実に感動的でシリアスな内容でした。最愛の妻を若くして亡くしてしまう悲しみは如何許りでしょうか。そんな妻と10年ぶりに再び出逢うことができて、その手料理を食べられる喜びは如何許りでしょうか。妻の毅然としながらも根底に家族愛に溢れた性格がとても良く、運命がもたらした奇跡の再会に涙します。話が進むごとに深まっていく家族の絆に、最終的にどうなるのか期待と不安が混じりながらも最後にはまた泣かされる予感がします。

 

 

チェイサーゲーム

 

サイバーコネクトツーの松山洋社長。マンガ・アニメ・ゲーム・映画など広いコンテンツを愛し、日々貪欲に摂取する姿には大きな共感と尊敬を抱いています。そんな松山さん自身が創る、自身の会社CC2を舞台にしたゲーム業界マンガ。ゲーム作りの裏側は純粋にゲーム好きとして楽しめると共に、ビジネスマンや中間管理職としての葛藤に対してはその辛さに共感を覚えるリアルな描写が多々。それでも根底には誰かを楽しませたいという想いがあり、苦難を乗り越えてチームでモノ作りをする尊さ・美しさがあります。

また、この作品に対して書かれた鉄拳シリーズのプロデューサーである原田勝弘さんからの手紙が非常に熱く、聖剣伝説シリーズの作曲で知られる菊田さんをして「ここ10年のゲーム業界で最高に痺れる言説だった」と評された程。今後への期待も大きく、ぜひ原田さんが言うようなパブリッシャーとディベロッパーの間の葛藤なども見られればと思います。

 

 

まだまだあるので続きます。

咲-Saki- 210局 感想・考察

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現在、紅葉真っ盛りの吉野山でこれを書いています。
 
 
 
 
 
夜行で来て夜行で帰る忙しない帰省なのが残念ですが、それでも今年もこの紅葉を生で見られただけで生の幸いを感じます。
 
 
 
 
 高城山展望台、そして吉水神社は最盛の紅葉が見られました。
 
 
 
西行庵はあと少しという所でしたが、これはこれですばら!
 
 
こんな感じで20巻の表紙になってもおかしくないなと思います。
 
 
秋のこの紅葉シーズンは、吉野山の二番目の繁忙期でもあります。
桜のシーズンとは比べるべくもないですが、それでも平日ながらいらしている方は沢山。
西行庵付近でもよくすれ違いました。
 
人のいない状態で紅葉を撮りたい場合は、一泊して早朝に撮りに行くか、それが難しければなるべく早めの空いてる時間に行くのをお薦めします。
 
 
 
 
そして、繁忙期の楽しみと言えば普段は開いていない店も開いていること、そして特別なメニューがあること。
 
 
魚歌屋さんで、初めて見た「鹿の鉄板焼き」を頂きました。
枳殻屋さんの鹿肉の串カツ並の柔らかさで、ジューシーで旨味たっぷり。
旦那さん、お父さんが共に猟師だそうで、血抜きなどの処理がとても上手であることが察せられる味でした。
 
柿もこのシーズンは吉野山のそこかしこで売っているのですが、本当に甘みたっぷりで食感も良く美味です。
二等品であれば、蔵王堂手前の青木酒店さんで7個300円とかで買えるのでお土産にアリです。
 
 
 
 
さて、以下はネタバレを含みますので未読の方はご注意下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
祝・玄さん一人浮きトップ!!!!
 
 
準決勝を闘った新道寺と千里山。
その大将と、玄さんが実際に対峙した先鋒の二人ずつが試合を観戦しながら玄さんの成長に驚いています。
 
麻雀という競技の性質で、敵ではありながらも宮永照を倒すために共闘もした奇妙な絆。
 
準決勝ではチャンピオンに押さえ込まれてしまっていましたが、一度龍が舞い始めればこの火力。
それは煌さんもびっくりです。
 
千里山の服装にもびっくり……と言いたい所ですが、最早この世界ではこれが普通と思い流してしまう自分がいるのも否定できません。や、なぜか脱いでた時が最高潮だったというのもありますが。
 
ともあれ、竜華がまた玄ちゃんと呼んでくれていることが私は凄く嬉しい……
 
 
怜がまた何やら凄いことを言い始めました。
 
「宇宙の一周分未来予知」。
dreamscapeでも回る物なら原理的に予知可能とは言われていましたが、宇宙と来ましたか。
冗談なのかも判別しづらいですが…………
 
もし仮に怜の体力を医学的に何とか補強することができたら、最強の戦士が爆誕してしまうかもしれません。
 
 
そして問題の次のコマの背景。
 
 
ええ、見た瞬間に私は大号泣でした。
 
吉野山が背景として描かれる。
その事はただでさえ嬉しい訳ですが、ましてや本編で初めての吉水神社とあっては。
 
一応、これまでにも阿知賀編[特別編]で数コマ描かれたことはありますが、咲-Saki-本編で登場というのはまた違った意味を持つエポックメイキングな出来事ですよ。
 
しかも、よりにもよってこのタイミングで。
一年前に個人的な思い入れも更に深まった、それに重なる季節に初登場という偶然。
なんちゅー偶然、素敵! では済まない位の何とも言えない奇跡に飛び込ませてもらっている感。
 
上のコマに関しては、「立先生、また何でそんな所に……」という所ではあるのですが笑
 
 
ときに(怜だけに)横のあらすじ、
 
「宮永照の連荘が始まるも、それを阻止した松実玄。勢いそのまま最下位から首位に立った」
 
世界にこんなに泣けるあらすじがかつて存在したでしょうか。
 
現実であることを思わず再確認してしまうような、でもそれはそれで玄さんの全身全霊の努力に失礼に当たってしまうようなそんな感じです。
 
 
吉水神社が描かれた、ということはロンオブオモチその中にいる人々も登場。
子どもたちは以前もはやりんと共に登場していましたが、新子望さんはここに来て本編では初登場ですね!
 
もし万が一、誰だかわからないという方がいたら『咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A』という福音書を読んで下さい。人類の義務にして救済です。
 
ギバードの「クロチャ〜〜」がここに来て聞ける嬉しさと言ったらもう…………
 
そして、10年前のインターハイで赤土さんをチームメイトとして、無二の友人として最初から事後まで支え続けた、でも、麻雀的には責任も感じ続けていたかもしれない望さんがのこの感慨と回想もまた泣ける要素しかなくてですね…………
 
阿知賀を全力で応援して練習試合もしてくれた小走やえさん、特に玄さんとは直接闘って敗北している訳で、その玄さんが活躍している喜びは彼女にとってもひとしおでしょう。
 
37P左下のコマは、松実館で応援する私たちですね。私はここの枠外で屈みこんで喜び咽び泣いているともっぱらの評判です。
 
 
タコスも、ドラ女から「松実玄」と名前で呼んでくれるように。
 
そして、ここであまりに思いがけない事実が判明します。
 
 
物議を醸した39P最終コマ。女性しかいないのはdreamscapeで指摘されていたように、この世界では女性同士で結婚して女性同士で子供を産めるという証左だ、というのがストレートな解釈です。
 
しかしながら、個人的には顔の見えない方が男性か女性かは不確定であり、右から二番目の方はいかにも外国人っぽい風貌に見えますがそうと確定している訳ではないのでまだ解釈の余地は色々とあります。
 
 
ともあれ、生まれた時から家庭環境的にタコスを食べる状況にあり、自然と好いていったという優希。
 
そして、涙無しには読めない事実が。
 
前回の感想で、和は転校が多く親しい友達を作り辛い、孤独になりやすい立ち位置にあったことに触れましたが、意外にも社交的で誰にでも屈託無く接することができそうな性格に思えていた優希も、同じようにかつては疎外感を味わっていたようだと。
 
そんな中で、特に優しくしてくれたのが和。
 
何と、優希が麻雀を始めたのは阿知賀の皆が和と麻雀をしていたことを羨ましいと思ってのことだったと…………!
 
阿知賀女子の皆がいたからこそ、優希も今ここにいるのだ、と。
 
うう、ううう…………立先生、立先生!!
 
何という…………何というエピソードを放り込んで来るんですか…………!!
 
泣くでしょう!!普通に考えて!!!!
 
 
麻雀が紡いだ絆。それがこんなにも複雑に、強く、尊く結びついているとは…………
 
元来、私は優希も大好きなので、相手が玄さんでさえなかったら滅茶滅茶応援してる所ですよ。
 
「優しい希(のぞみ)」。
どのような真意で今回描かれた親御さんに名付けられたかは定かではありませんが……
ともあれ、そう名付けられた彼女の何という優しさに抱かれたいたいけで切実な希望であることか。
 
底抜けに明るい能天気なキャラクター、というイメージの強い優希がここに来てその過去の痛みを曝け出すギャップの威力は絶大です。
 
そう考えると、優希が常に携行するセアミィにもまた涙を誘うエピソードが隠されていそうな気がします。それこそ和のエトペンと同じように。
 
こんな描かれ方をしてしまっては流石に優希が和了することはほぼ確定、流石の私でもそう思いつつ、でも、諦める訳がない!
 
「もはや清澄にやれることはないだろう」
とタカを括っているガイトさんと、一方で何かを感じている素振りの照。
ここは、個人戦1位と3位の差が表れている所かな、と思いました。
 
池田、衣、煌に応援されながら、一見クズ手にも思えた配牌から連続で有効牌を引き入れ役満一向聴まで行く優希。
しかし、ガイトさんの1pを鳴いて役満を崩して跳満テンパイに切り替えて行きます。
 
この1p鳴きが勝負の大きなアヤとなりました。
 
まあ、普通に考えれば鳴く牌ですよね。
1位との点差的にも、また団体戦でのチームの点数的にもそうですし、ましてや速度も非常にある、実際に全員テンパイしているこの面子です。
いくら役満一向聴といえど、跳満をテンパった方が遥かに期待値は高いでしょう。
 
しかしながら、それは普通ならの話。
間違いなく、この優希の流れならこの後も2巡連続有効牌を引いて役満を和了したことでしょう。
かつて同じように椅子を回した時にも引けた時と引けなかった時の感覚には確実に差があり、この時は前者の感覚を覚えていたでしょう。
でも、優希はその道を選ばなかった。
その見切りが凄い。
32000点あれば一発逆転ですし、白糸台・臨海との差も非常に大きく広げられます。
でもそんな幻想の誘惑に流されず、リアルの実利を優先する姿はまるで福本作品の雀鬼のよう。
 
優希は最後に鳥さんをツモって和了するというどこかの島根のかわいくて強い女の子のようなことをやってのけますが、1pを鳴いていなければガイトさんがツモって和了していた牌でした。ツモ平和で決して高くないとはいえ。
 
これにはガイトさんも49pの表情。
「解ってて鳴いたのか……?」
そんな風に問いたげに見えます。
一方で、すべてを察しているとでも言わんばかりの照はやはり照。
 
照もガイトさんもリーチをしなかったのは、手替わりを待っていたり他家のテンパイ気配を感じていたのもあるかもしれませんが、何より玄さんによりリーチした後にドラを摑まされることを警戒していた部分も否めないのではないかと。
着実に龍王の支配が及んでいるのが見て取れて私は大歓喜です。
 
この優希の和了は、優希を褒めて然るべきもの。
流石の久も嬉しい誤算と述べるレベル。
人は予想を超えてくる、はここでも顕在。
優希もまた、最上の舞台で今この瞬間に高みへと引き上げられ、成長している。
 
この局によって点数状況は以下のように。
 

南二局2本場 優希、ホンロートイトイ三暗刻

阿知賀 124800(-6200)

清澄 109200(+12600)

白糸台 88000(-3200)

臨海 77500(-3200)

 
依然阿知賀がトップですが、その差は僅か15600点。
普通の麻雀であればそれなりの差ですが、ことこの第71回インターハイ決勝戦の先鋒戦においては薄氷の如き点差に過ぎません。
 
優希 8回和了 143700点、平均17962点 new!
智葉 7回和了 93600点、平均13371点
照 12回和了 111100点、平均9258点
玄 6回和了 135000点、平均22517点
 
優希も跳満を和了して平均和了点がやや下がる異常事態。
もはや、異常が正常。
 
そして最後に久が恐ろしいことを言い放ちましたね。
 
「とても恐ろしい2局かもしれない」と。
 
ビハインドとなりながらも親を残している智葉とラス親の照が爆発する……
それが一般的な考え方かもしれません。
 
しかし、私は勿論違います。
ドラもリーチも封じられ、今までと違って思うように点数を伸ばせず苦慮することが必至の照。
その間隙を、龍が喰らう。
そう私は信じています。
 
ドラゴンが復活してから、龍の支配力は更に高まっていっているのがここまででも描かれています。
そう、玄さんもまだまだ成長途中。
照が3,4回くらい連荘することはあるかもしれません。
が、最後に和了して終わるのは阿知賀であることを願って止みません。
無限の可能性を世界に知らしめて、先鋒戦を終える。
そんな未来を数順先で見てきたかのごとくに信じて、応援します。
 
それにしても、前号までを読み返す日々の何と幸せな営みか。
2019年は最高の年でした。
 
寒くなってきましたが、立先生にはご自愛頂いて元気に無理なく愛する咲-Saki-世界を描き続けて頂きたいです。

咲-Saki-211局 感想・考察

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前回記事:咲-Saki-210局 感想・考察

 

 

 

というヤオキンさんの何気ない呟き。

一般人にとっては何ということのない呟きなのですが、我々の業界には激震が走りました。

 

「こ、この鉄塔は…………!?」

 

 

早速、それらしい場所を発見する慧眼の探訪勢。

 

 

そして、すぐに現地に赴くフットワークの軽い探訪勢。すべてがすばらですね!

 

かつて、だーはらさんはこの背景を求めて東京中の河川敷を捜索したそうです。

そして、私自身は以下のように考察しておりました

 

個人的に一つ推察するのであれば、背景も秋で皆の制服も夏服から秋仕様になっているこの状態。
そして、もしもこの4人が一堂に会するとすれば……それはコクマ以外にないのでは?
彼女たちがこの制服を着ている秋ということは、竜華が留年していない限り同じ年。
即ち、長野県ではないかと思うのですけど、どうでしょう。
立先生の行動範囲や咲-Saki-世界的に考えてもそんな気がしてなりません。
後は長野中の河川敷を洗い出すだけです。

 

しかし、蓋を開けてみればまさか大阪とは……。

 

それでも、上記理由により現在のインターハイが終わった後の秋であろうということには変わりないので、そのタイミングでこの4人が、阿知賀編にてAブロック準決勝の大将戦を行った面々が大阪に制服で集まっている理由というのは非常に気になります。

あれですか、全日本ジュニアの選抜メンバーを決める試合が大阪で行われていたりいなかったりするんでしょうか。

スタジオキムチさんが立先生にメールを送ったそうですが、真相が非常に気になります。

 

ともあれ、今年は公式からのヒントにより未発見だった舞台が本当に多く見付かっていますね。

帰省する際にでも、怜-Toki-の舞台と共に寄りたいものです。

 

 

さて、以下は最新話感想です。

未読の方はゆめゆめご注意あれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南二局2本場 優希、ホンロートイトイ三暗刻
阿知賀 125300(-6200)
清澄 109200(+12600)
白糸台 88000(-3200)
臨海 77500(-3200)

 

前回は、優希の四暗刻を見切っての跳満により、ガイトさんの和了を潰した所でした。

それに対し、珍しくガイトさんが口頭で感想を伝えます。

それに答える優希の言葉は「常人の1万倍はタコスを食べているからな」。

 

これには、あの優美で温厚で朗らかな玄さんも

(何言ってるのこの人…)

という反応。

玄さんに心内語とはいえ「この人」呼ばわりされるのはなかなかのなかなかですね。

 

ただ、

(何言ってるのこの人…)

と思っているのは照である可能性も少なからずあります。

玄さんだったら心内であってもさん付けして呼んでいる方が自然である一方、照の言葉選びであるならば非常に自然ですからね。

 

ちなみに、咲-Saki-ファンは常人の数倍タコスを食べているので参考にならないため、特に咲-Saki-ファンでない方々にアンケートを取った所、タコスは人生でも数えるほどしか食べたことがないという意見が大勢を占めました。しかし、一方で家で作って1年に数回食べますという方も。

のべ300年に食べられるタコスを60個程とすると、常人の平均は5年に1タコスほど。

その1万倍となると、5年で1万タコス≒1年で2000タコス≒1日で5.5タコス。

 

一回で3個程度のタコスは普通に食べますし、優希であればもっと食べていそうなのでかなり実態に近い数値ではないでしょうか。

 

1年に2個のタコスを食べれば、麻雀で和了した時に

「常人の10倍はタコスを食べているからな」

1年に20個食べれば

「常人の100倍はタコスを食べているからな」

と勝ち誇っていけます。

ぜひ積極的に使って「何言ってるのこの人」とツッコミを入れられましょう。

 

私は

「常人の100倍は玄米茶を飲んでいるからな」

「常人の100倍はどら焼きを食べているからな」

といった感じで使っていきたいです。

 

 

冗談はこの辺にして。

 

和了を阻止される嫌な形で親を迎えたガイトさん。

ここで臨海の幕間に。

 

ガイトさんが何故臨海に来たのか、監督も知らなかったとのこと。

流川楓のように「近いから」というような理由の可能性も考えてしまいましたが、ダヴァン曰く

「船でかよえるから」。

流石お嬢。

そういえば、プレシャスメモリーズのカードにもなった伝説の神回105局[旧友]でも、船着き場にいてそのまま出発しそうな雰囲気もありましたもんね。

 

それに対するミョンファさんのバッサリっぷりがあまりにも秀逸。

ハオに対する、何とも名状し難い眼差しのコマが最高過ぎました。

咲-Saki-シリーズで「スタンプにして使いたいコマ」をランキングにしても、(阿知賀を除けば)確実にベスト5に残るであろう絶妙な表情。前後の郝慧宇さんも良い味を出しています。

やはり私は臨海ではミョンファさん推しだなと再確認させてもらいました。

 

吹き出しについているネリー、ミョンファ、ハオのそれぞれのデフォルメもかわいい。

 

あまりに破天荒なミョンファ、怖い顔で適当なことを言って更に混迷を深めさせるネリー、まともに見えてラーメン狂いのダヴァンという面子の中で、ハオの純粋な常識人ぷりが光り輝いています。

 

「私のお尻をイクラでも叩いていいですよ」

と、好物の魚卵を絡めたダジャレをもぶっこんでくるミョンファは今回本当にキレッキレ。

ここに愛宕洋榎さんでもいれば的確にツッコんでくれたろうに惜しい……

 

しかし、ここで更にとんでもない新情報を盛り込んできました。

 

「私自身はマイクロバイオロジーで生み出されたモノですから」

 

!?!?!!?!?!?!?!?

な、なんだってーーー!?

 

学術研究都市ソフィアアンティポリス出身というのは、本当にそういう意味ですか。

そもそもこの咲-Saki-世界では同性同士でも結婚して子供を産めるということもあり、人工授精や体外受精に関する技術体系も大きく異なるとともに高度に発達している可能性があります。

ミョンファさんは見た目だけなら完全に西洋人なのに姓名がアジア系なのは父親の遺伝子を色濃く受け継いだのかなと思っていましたが、そうではなくゼロベースでフランス人として作られたが故であるのかもしれないと。

生まれてからまだ数年とかだったら確証を得られるのですが、年齢は17歳と14巻の幕間にて明記はされています。

詳しく明かされることはないとは思いますが、大変気になりますね。

14巻巻末の謎の涙の理由をひもとく鍵の一つもここにあるかもしれません。

 

マイクロバイオロジーで生み出され、牌に愛されたような能力を持ち世界ランカーになっている(しかも超美少女)。これは凄いことだと思いますが、そんな科学の粋を先天的な更に牌に愛された子が更に上を行っていると思うとなかなかに熱いです。

 

しかし、郷に入らずんば郷に従えの間違いを指摘できるダヴァンは大分日本語に精通しているなと。

 

ちなみに、ガイトさんの臨海に来たもう一つの理由は

「世界の強い同世代と日々鍛錬できる」。

東東京の絶対王者である臨海、首都圏の中でも最も麻雀の強い者が集まる高校といえば、少なくとも3年前は臨海であったことは間違いないのでしょう。

時には中国麻雀など相手のフィールドにも立って研鑽を積み続けるガイトさん。

個人戦3位の実力の礎となる向上心を感じます。

 

サトちゃん、と薬局にある某マスコットのような呼び方でミョンファに呼ばれてるのはかわいいですが。

ホェイちゃん、ネリーちゃん、ミョンなど、今回は臨海内でのお互いの呼び方が解ったのも収穫でした。

 

ダヴァンの「どうですカネ」は、魚卵が好きなミョンファの「イクラでも叩いていいですよ」に対しての、おカネが好きなネリーに向けた天丼なのかどうか、私気になります。

 

何はともあれ、この面子で積み重ねてきたものが確実にガイトさんの力になっている。

それを示す和了が、クイタンのように見せかけ自ら7mカンで壁まで作っての9m単騎待ち。

ツモ切った2p単騎とて悪い待ちではなく、むしろタンヤオも付けられる中での見切り。

 

和了できない役満より和了できる跳満を選択した優希に続いての、和了できない3翻より和了できる2翻。それも同じトイトイで優希からの直取りという、自分の和了を奪われた意趣返し。点数は低くとも熱い闘牌です。

 

これによって点数はこう。

 

南三局0本場 智葉、トイトイ
阿知賀 125300
清澄 105300(-3900)
白糸台 88000
臨海 81400(+3900)

 

そして、勢いづいた智葉は更に疾風迅雷の和了を見せます。

 

南三局1本場 智葉、ツモタンヤオ三暗刻
阿知賀 121200(-4100)
清澄 101200(-4100)
白糸台 83900(-4100)
臨海 93700(+12300)

 

 

玄さんがいるのでリーチはできない状況ですが、これはリーチしても裏ドラを見なければ点数が変わらない形。

優希のホンロー三暗刻に対してタンヤオ三暗刻でやり返した形ですね。

 

最下位にいる打ち手が強いとき――

たやすく逃げ切らせてはくれない

必ず追い上げるように打ってくる

 

これはこの局面のみならず咲-Saki-シリーズ全般に言えることですね。

しかしながら、その最下位にいる打ち手こそは高校生最強のチャンピオン。

 

そしてそして、ここがやはり咲-Saki-はすばらだ! と思わせられた所なのですが、ガイトさんにとっては照は宿命のライバルでありながらも昨年の世界ジュニアでの最強の相棒でもあると!!

いやはや、この構図の熱く滾る様ときたら!

 

ちなみに、142局よりコクマでは高校2,3年生がジュニアA、高校1年生と中学3年生がジュニアBという区分であると明らかにされています。

一方、166局[邂逅]では、熊倉さんが藤田プロとジュニアメンバーを選抜する話をしている時に「今年は宮永姉妹が鍵」という発言もしています。

コクマでは1年生は別区分ですが、世界ジュニアは1年生でも出られるどころかネリーが去年の世界ジュニアで活躍している所からサッカーのU-18に近い形態であろうと予想されます。

時期的にはインターハイの後であろうことから、インターハイで活躍した荒川憩も当然メンバーには選ばれていそうですが、「相棒」という表現が意味するところを考えるとどんなメンバーだったのか、もしかして憩ちゃんはいなかったのか、などとも考えさせられます。

 

しかし、照とガイトさんがいながら、あるいは一昨年には照をも破った戒能さんや、それに繋がる活躍をした藤白七実がいながら

「今年こそは決勝リーグですか」

という藤田プロの発言からすると、数年予選リーグで敗退していることも匂わせられ、世界の強豪のヤバさを間接的に感じさせられます。

 

去年の代表は誰だったんでしょうね。

衣は実績的にも招聘されていておかしくなさそうですが、世界ジュニアで強敵と戦えていたなら言及されていそうな気がします。飛行機が苦手でもおかしくないですし。

後は有力なのは姫様、竜華、洋榎、遊佐さん辺りでしょうか。

セーラに関しては、本番では自分より先輩が活躍していたということで、蔵垣るう子や穂積緋菜さん辺りも候補。

霞さん、はっちゃんも強さ的には全然行けそう。

 

み、見たい……

今のインターハイが終わった後、オールスターで世界の強豪に挑む世界編、堪らなく見たいです小林先生……

何年掛かるかわかりませんが、いつまでもご壮健であられることを祈るばかりです。

 

もしも今年のメンバーを選ぶとしたら、宮永姉妹と荒川憩さんまではほぼほぼ合意が取れることでしょう。

 

次点はガイトさん、怜、竜華、セーラ、洋榎、衣、姫様、霞さん、爽、豊音、ルールによっては哩姫辺りを多くの人が挙げるでしょうか。

しかし、私は客観的に言ってもここの一角に今の玄さんは十分食い込めると思います。

日本の代表となった玄さんを全力以上で支え、応援したい。

 

まあ、そもそも世界ジュニアのルールやチームの人数も明らかになっていないので机上の空論ではありますが、そういうのが楽しいですよね。

咲-Saki-212局 感想・考察

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ヤングガンガン15周年おめでとうございます!
先日ガッツリとレビューを書いた、創刊号からの『ロトの紋章 ~紋章を継ぐ者たちへ~』もいよいよ次回最終回。こみ上げるものがあります。
遂に『咲-Saki-』が最古参となることが感慨深いです。
 
 
そんな折、突然あぐり先生から至高のクリスマスプレゼントが配られ阿知賀後援会は大歓喜。
メロンブックスでの松実姉妹タペストリー以来2年ぶりのあぐり先生による松実姉妹……五臓六腑に染み渡ります。
あれからもう2年経っているというのもビックリですが……
 
世界はどうしてこんなに優しいのでしょう。
 
そして、更新されたdreamscapeにて最新話の展開に関連したものも含め様々な情報が。
シノハユ扉絵発見に言及されていたのは笑いました。フランスまで飛ぶ予定の方が少なくとも5人はおり、ソフィアアンティポリスも別で行く気満々ですばらです。
 
合同合宿後に和が咲の家に行って手料理を食べたことがある、というのが明言されたのは咲和の民にとっては天変地異に匹敵する大事件ではないでしょうか。
 
143局扉絵集結には秋季大会など深い理由がなかったことが判明し、多治比さんが京都にいた理由も半ば氷塊したのは良いのですが、新たに多治比さんは淡の何なのだ、という議題が立ち上がりました。
 
亦野さんもスパッツが好きなのか、私気になります。
 
続きは最新話のネタバレになりますので、ご注意下さい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
突然のヘリ、突然の新しい制服、突然の新しい髪型の照から始まった今回の咲-Saki-。
1ページ目から非常に情報量が多い中で、「すごいものに乗っている――。」というアオリ文の小並感にも笑います。
 
立先生のHPでも述べられている通り、世界ジュニアの日本代表の制服であるようです。
絶対領域完備なのがすばらと言わざるを得ません。
ぜひこの服に身を包んだ玄さんを見たいですね。
 
 
このヘリはしにふぃえさんが一発でUH-60JAであると看破。
海上自衛隊・航空自衛隊の機体は救難ヘリコプターのUH-60J、一方で陸上自衛隊の多目的ヘリコプターがこのUH-60JAだということです。
ちなみに、お値段は38億円。聖路加レジデンスの入居費2億円が今までの咲-Saki-関連でも最も高額な買い物でしたが、遂にそれを上回る数字が出てきてしまいました。
ぜひ照及びサトちゃんファンの皆様には頑張って頂きたいです。
 
ちなみに、自衛隊のコールサインではUH-60JAを飛龍と呼ぶそうです。
ここでも来るんか、ドラゴン――!
運命か、それとも立先生が意図的に用いたのか……
龍に抱かれ運ばれる照と智葉、という構図には今現在行われている決勝戦先鋒戦の象徴を否応なしに想起させられます。
 
しかし、そもそもなぜわざわざヘリなのか。
この世界の麻雀人気を考えれば照たちが国賓クラスの待遇を受けるのは解るのですが、問題はヘリに乗ってどこへ行くのか。
大阪に向かってほぼ確定メンツであろう憩を迎えに行くのかな、とも思ったのですがUH-60JAの航行距離は500kmに満たないそうなので、それなら新幹線の方が良さそうです。
空母か何かを経由して海外の決戦場へ向かうのでしょうか。
 
そして、この飛行場の特定に勤しむ方も。
しかし、流石に基地の中は確認が難しいですし、よしんば発見に至ったとしても入るのが難しそうです。
でも、その辺も難なくクリアしそうな方がいる界隈なのがこわいです。
 
髪型がかわいい照ですが、話している内容は極めて重要。
照の連続和了のメカニズムのさらなる詳細が明かされました。
・積み棒抜きの点数で前の局より少し高いてを和了するとその次の局のツモが良くなる
・どんどん良くなる
・最初の和了の打点が高いほどその恩恵が出にくくなる
と。なるほどなるほどなるほどー。
 
照はツモが良くなる、としか言ってませんが、咲-Saki-Vita版での能力説明同様、配牌も良くなっているものと想像されます。
もし制約なく和了さえすれば連続で和了できるようになる、という能力だったなら満貫や跳満スタートであっという間に数万点稼げることになるので確かにこの制約は納得です。
 
そしてここに来て突然「阿知賀編3巻参照」というキャプションが。
単体で見ればとても親切なのですが、咲-Saki-シリーズにおいて過去の描写を参照すべきシーンはムゲンにあるので、「何故、今になって!?」という想いが強く生じたのは正直な所です。
とはいえ、ないよりは確実にあった方が読者にとっては親切。
今後とも適切な補足を入れて頂ければありがたいです。
 
折角ですので、実際に阿知賀編のそのシーンを振り返ってみましょう。
 
 
 
このシーンですね。
飄々と和了しているようにしか見えてませんでしたが、神の視点で見ている読者からしてもその真意は軽々には推し量れないということがわかります。
 
しかし、恩恵が少なくなると言っても2回の連続和了後にはダブリーできる手牌が来ているので、さしてデメリットも強くない印象です(たまたまだったのかもしれませんが)。
1300→2000→2600か3900くらいで終わるより、2600→3900→8000という実際に行われた刻みの方が優秀な気がします。
残り局数が少なく親番もない場合は、高めスタートも上等ではないでしょうか。
 
とりあえず、この和了によって点数はこう。
 
南三局2本場 照、平和イーペーコー
阿知賀 121200
清澄 98600(-2600)
白糸台 86500(+2600)
臨海 93700
 
 
そしてここで登場した背景に、私は大変高まりました。
 
 
観て、一瞬で解る我が聖なる宿舎。また千里山の宿舎であるペニンシュラホテルも同時に映っています。
そして、咲-Saki-シリーズで描かれるのは初となる、東京ミッドタウン日比谷。
日比谷にはお陰様で足繁く通っていますが、できた当初はペニンシュラのすぐ横のペニンシュラより圧倒的に高い建物ができるとは思ってもいませんでした。
ちなみに、この背景が撮れる場所から後ろを向くと、そこにはモモたちと邂逅した日比谷公会堂が。
 
阿知賀が手前におり、新たな時代の象徴が千里山を超えて聳える。そして、陰には支えてくれた練習相手がいる。
それが後半戦オーラスに入ることを告げる背景。
見る人が見なければ何ということもない背景でしょうけれど、私にはこの背景が非常に示唆的に思えました。
次のコマも、哩さん=阿知賀が破ってきた相手です。
このページには阿知賀編を思わせる要素がとても多かったです。
 
とりあえず、前回久が言っていた恐ろしい二局の内の一局は何とか終了。
しかし本当の地獄はここからだ、とベジータでなくとも誰もが思う照のラス親。
 
緩急が上手いですね。
ライバルたちのカットを刻んで刻んでの見開きドーンで、「相棒」と思っていたガイトさんを討ち取る巧みな和了。
 
南四局0本場 照、三色
阿知賀 121200
清澄 98600
白糸台 90400(+3900)
臨海 89800(-3900)

久の解説が入っていますが、久の言う通りの意味プラスあまり大きく一気に点数を上げたくない意味も込めての9s残しの8s切りでしょうね。
タンヤオ三色の40符は親だと7700なので、2600から7700だと能力的に微妙そうです。
 
この、相棒と思っていた相手からの直撃で、再会に陥っていた照が逆転しまたガイトさんが最下位に。
ガイトさんの表情には巧みな待ちだったことに加えてその辺の思いもありそうです。
 
そして、淡の思う通り更に和了を重ねる照。
 
南四局1本場 照、ツモ一気通貫
阿知賀 119100(-2100)
清澄 96500(-2100)
白糸台 96700(+6300)
臨海 87700(-2100)
 
この和了によって、白糸台が清澄を押さえて一気に2位に浮上。
玄さんとの点差は22600。
 
ここでとんでもない事態が発生します。
 
前局で2000オールを和了した照、次に和了する手は6400以上。
この土壇場、和了すれば阿知賀が先鋒戦一位抜けという最終局面で、玄さんにチャンス手が入ります。
 
ドラだけ来れば和了れる二シャンテン。
つまり3回ツモれば、3巡あれば和了できる、ツモタンヤオ三色ドラ6の倍満。
相手が連荘中の照でさえなければ、完全に個人戦3位のガイトさんでも追いつけないであろう速く強い手。
やはり今この瞬間、玄さんは限りなく高校生の頂点にいると言って過言ではないでしょう。
ここぞという所でしっかり応えてくれるドラゴンにもありがとうと私は言いたいです。
 
ただ、6400点縛りの照が早々に副露をして非常に速そうな気配。
 
玄さんっ…………!!
祈りを込めてページをめくる私。
 
そして、ここでまた玄さんがすばらな[決断]を見せてくれます。
 
最強の相手に対してこのオーラスまで一歩たりとも引く事がない、常に前傾で攻めの姿勢を崩さない玄さん……
 
大  号  泣。
感  謝。
感  動。
 
もし神がいるのなら前を向くものを好きでいてくれるはず!
ありがとう玄さん……!
ありがとう世界……!!
 
結果はロンでした。
結果だけみればロンでした。
 
開かれた手牌は、45789m西……
 
んん? 7m??
ドラの7mが照の手牌にある!?!?
玄さんのドラ支配が破られた!?!?!!?!?
 
大いなる驚きがそこにはありました。
流石にこれはミスなのではないか、だって玄さん以外にドラが行ってしまっていたら赤土先生ももう少し取り乱していておかしくないのでは、と思いました。
 
そして、dreamscapeにて無事にミスであった旨が報告され、一安心。
 
しかし、話はこれでは終わりません。
問題は照の手役です。
 
恐らく鳴いたのが役牌で、手は混一色。
もしドラがあればそれで11600でした。
 
しかし、ドラがなければこの手は5800止まり。
一気通貫が付いていれば、鳴きホンイツ+役牌+一気通貫で連続和了の条件を満たす11600点の手です。
 
ここで重要なのは、dreamscapeで描かれた修正後の手牌も
45789p
という並びだったことです。
そして、ガイトさんなどは割と手牌をランダムに並べる描写もありましたが、照はこれまで一度も理牌を崩した並びをさせていないということです。
 
もし仮に、これがしっかり一気通貫であるなら
 
南四局2本場 照、役牌混一色一気通貫
阿知賀 106900(-12200)
清澄 96500
白糸台 108900(+12200)
臨海 87700
 
という結果で玄さんも逆転されて白糸台が1位になったという結果ですが、私は立先生を強く信頼しているのでこの45789という並びに必ず意味が込められていると考えます。
 
阿知賀編8話で2600スタートした時は3回目の和了で終了したのでどこまで続けられるのかは未知数ですが、照は2000以上スタートしたことで、今までのような連続和了はできないのではないか。
 
その覚悟と、玄さんの高い手を察しての一鳴きからの和了だったのではないか。
多少遅れてもいいならメンホン+役牌or一気通貫で条件は満たせたものの、間に合わないことを察知したのではないか(全国編Vitaでは照には危険察知能力もある)。
 
サブタイトルの[決断]は、押すことを決めた玄さんに対して宛てがわれたものに見えて、実は裏では照の決断という意味も込められているのではないか。
 
故に、
 
南四局2本場 照、役牌混一色
阿知賀 113300(-5800)
清澄 96500
白糸台 102500(+5800)
臨海 87700
 
これが現状の点数状況で、玄さんは逆転されておらず照の連続和了も途切れたのではないかという大きな希望を抱いています。
 
2019年を締め括る咲-Saki-の最後の1ページは玄さんでした。
玄さんしか描かれていないページでした。
こんな奇跡を体感して良いのでしょうか……
 
普通に見れば、連続和了でロンされ逆転された玄さん。
玄ファンにとっては絶望で終わる2019年、と思う方が多くを占めると思います。
 
しかし、よく見れば表情も絶望というよりは意外性に対する驚きが強く出ているようにも感じます。
私はこの後連続和了が途切れた照を尻目に誰よりも速く玄さんが和了して阿知賀が1位抜けする未来しか今は見えません。
 
2019年、吉野山で世界各地で吉兆とされる二重虹を見て始まった今年。
奇跡と呼ぶしかないような、龍の快進撃を目の当たりにし続けることができました。
ただ確実に言えるのは、類稀なる努力があってこそ、その手に掴んだ奇跡であるということです。
 
幾星霜もムゲンに読み返し、観返した阿知賀編。
そして待ち焦がれたその先にある決勝戦。
それがこんなにも、期待を超え予想を超え、最高を超える最高の展開で震え、滾り、歓喜の涙に咽ぶ内容とは……
 
いくら感謝の言葉を並べてもこの想いを伝えることはできませんが、本当に本当に本当にありがとうございます。
 
あまりにも、あまりにも幸せな1年でした。
 
単行本作業が挟まるので次回は玄さんの誕生月である3月となりますが、心は喜悦に満たされた安閑恬静。
20巻の表紙も内容的にも玄さん&吉野が来る可能性は非常に高いですし、世界に満ち溢れる輝きを両手を広げて賛美するような気持ちで穏やかに待ちます。

『マイ・ブロークン・マリコ』と『センコウガール』完全版

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マイ・ブロークン・マリコ 

 

そして

 

センコウガール 完全版

 

 

年末から向こう、年始も休みなく繁忙を極めており2019年のお薦めマンガ集も下書きに入ったまままとめ切れてない有様ですが、毎年選定している2019年に読んだマンガの私的ベスト、「俺マン2019」に選んだ作品が連日発売になっているのでこれだけは紹介しておきたいな、と。

 

まず、『マイ・ブロークン・マリコ』。

1話目がWebで公開された時、Twitter上で初めてこの作品の感想を言えたことが少し誇りです。こういう作品に出逢えるからマンガを読むのは止められません。一見して画力もキャラクターの描き方も突出しており、とんでもないマンガが始まったなと感じました。肌にビリビリ震えるような、魂の咆哮、激情。心の中に焔を焚き付けられ、焦がされます。1巻完結なので手に取り易いですし、間違いなく2020年を代表する一作ですので、読んでみて下さい。作者の平庫ワカさんは恐ろしいことにこれが初連載。今後も非常に楽しみです。

 

そして、『センコウガール』完全版。

こちらに関しては詳細なレビューを書いており、後日公開になるので追記します。一言で言うと「最高」です。2月10日に発売予定の3,4巻で完結する、全4巻の予定です。既に昨年電子だけで発売はされていたのですが、電子版では未収録のおまけが1,2巻併せて20P以上加わった紙版が今回完全版という形で発売になりました。こんなに素晴らしいマンガにはなかなか巡り逢えません。

 

この両作は相関関係にあり、どちらか片方が好きな方はもう片方もきっと好きになると思います。

ぜひ読んでみて下さい。

 

少女たちの鮮烈な痛み、そして生。『センコウガール』という名のキセキ

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センコウガール 完全版

 

「2019年に発売された中で最高のマンガを一つ挙げよ」

と言われたら悩んでしまうが、筆頭候補に『センコウガール』を挙げることは間違いないだろう。
少なくとも、最も推したいマンガであることは疑いようがない。

『スメルズライクグリーンスピリット』を読んだその時から私の肉体・魂・精神は永井三郎さんへの敬慕をとめどなく溢れさせ続けている。『センコウガール』を読み終わった時、その想いは更に遥かなる高みへと昇華した。あまりにも良すぎたため、レビューを書こうと思っても「こんな言葉では全然形容し切れてない!」と作ったばかりの茶碗を叩き割る陶芸家のような気持ちになり数ヶ月書けなかったほどだ。

 

『スメルズライクグリーンスピリット』はSIDE AとSIDE Bの全2巻。こちらもまとめて読んでみて頂きたい。

永井三郎さんの作品には、「これは自分の物語だ」と思えるような心の傷を抱えたキャラクターが頻出する。理不尽な環境や運命に傷つけられてしまった少年少女たちが、痛みを曝け出し、苦しみ、叫び、涙し、葛藤しながら懸命に藻掻くように生きる姿はどこまでも胸を焙り焦がす。

人は誰といようとどんな契約を取り交わしていようと、根本的は孤独な存在だ。されど、マンガを含めて優れた物語というものは時に人の孤独と痛みに寄り添い和らげてくれる。自分にしか解るまいと思っていた苦しみと同質の悩みを持ち葛藤しながら生きるキャラクターに出会った時、人はそこに自己を投影したり深い共感を得たりする。そして、その存在は人生を歩む際に心の杖となってくれる。

そこまで思い詰めていない人が触れた場合でも「世の中にはこういうことで悩み苦しんでいる人がいるんだな」と可視化されることで、自身がまったく体験したことがないことであっても他者の痛みへの理解と想像力が育まれ、心と精神の成長を促してくれる。物語やエンターテインメントは、衣食住などに比べれば必ずしも人間が生きていくのに必要ではないとされている。しかし、渇いた体に滲み込む水が必要なように、渇いた心や魂を潤して生命の焔を賦活させてくれる力がある。『センコウガール』も正にそんな力を有する優れた作品だ。

『センコウガール』は、2015年に雑誌ヒバナで「デストロイ新連載」というパワフルなコピーを提げて連載が始まった。




しかし残念ながらヒバナ自体が休刊になってしまった。その後、裏サンデー・マンガワンでの掲載を経てまんが王国というサイトでのみ全巻が配信されていた。それが2019年になり、4月26日に遂に他の各電子書店でも配信が開始された。そしてこの度、2020年1月10日に1,2巻同時発売、明日2月12日には3,4巻が発売され紙の単行本で完全版として全4巻での発売となった。これを機に、全力でお薦めしたい。


本作では不登校になっていた主人公の民子とその周囲のクラスメイト数名を中心に、ひとりの女生徒の死を巡って不穏な展開が続く。高まる緊迫感、謎が謎を呼ぶ展開に真相はどこにあるのか、彼女たちはどうなってしまうのかと読むほどに引き込まれる。純粋にサスペンス的な面白さも一級品だ。あまり内容に言及しすぎると楽しみを減じてしまうのでもどかしいところもあるが、この衝撃は一読に如かず。ぜひとも実際に体験してみて頂きたい。

そして、物語を彩る端正な絵が純粋に魅力的だ。本作ではヒロイン・民子の美しさが一つ物語を構成する軸になっている。それが画的にも十分な説得力を持たされている。しかもただ単に美しいだけではなく、喜怒哀楽すべての表情の振れ幅が大きく、特にある回の扉絵などはぞっとするほど美しくも鬼気迫るものを感じさせられる。後半でキーとなる人物の一人である曜子もまた美しく描かれており、民子と並んだショットは非常に画になるのだが、彼女が美しいことにもまた意味が付与されている。美しさというものは人類が普遍的に求めるものだ。

『センコウガール』は様々な方向に感情を大きく揺り動かしてくるところに類稀なる魅力がある。前述した通り、少女たちの葛藤こそが本作の真髄だ。容姿の悩み、夢の挫折、外部的要因による排斥、家族関係など、青春の輝かしい面の裏側にある闇に囚われた少女たち。それぞれが死にたいほど悩み半ば自棄になりながら、心の奥底では生きることを希求している。一人一人のバックボーンが丁寧に描写されていく中で、言動を好きにはなれなくとも悩む理由は理解はできていく。そこには強靭なリアルさがあり、胸に迫る。人によっては強く共感を覚えるだろう。噂話をするクラスメイトたちや主婦たちの無責任さがまたそのリアルさを補強している。物語で読んでいると嫌悪感を催すが、人間は無意識的にこういった立場に立ってしまいがちであることにも自覚的であるべきだと釘を刺されているようにも感じられる。

期待をすることを諦めていた対象と改めて対話を深めることによって自らが抱えていた問題が大きく氷解していくシーンはとりわけ感動的だ。現実でも、こうした相互の歩み寄りによって解決する問題やシーンは存在するだろうと考えられる。一方で、どれだけ対話をしたところで理解し合うことは不可能であろうと思わされる対象も存在する。こういった相手とは物理的に距離を取り、社会のシステムがもたらしてくれる盾に縋るしかないのが現実だろう。修復できる関係が多数を占める中で、決して修復できない関係、しかも内心無理だと解っていてもそれを求めずにはいられない、それにより一層絶望感を浮き彫りにさせられる構造がそこにはある。

しかしながら、そんな中ですらも笑って輝きを放つことができるのもまた人間なのだと『センコウガール』は示してくれる。それこそが本作の最大の美点だと言ってもいい。過酷な運命、過酷な世界の中で傷つきながらも前を向いて強く気高く生きる姿に圧倒的に魂を揺さぶられる。それは第三者から見ていると解り難いが、容易く行われていることではなく、決死の覚悟が必要な営為であると神視点から見ている読者には深く実感できる。果てしない困難の上に成り立つものだからこそ、余計に畏敬や尊さといった感情を覚えずにはいられない。

『センコウガール』の「センコウ」には様々な意味を宛てがうことができるだろう。

「先行」
先に行くこと。先に行われること。

「先後」
時や順序の、さきとあと。さきとあとの順序にほとんど差がないこと。また、順序が逆になること。

「鮮好」
はっきりしていて美しいこと。
主人公・民子の生き方の形容としてこちらも相応しい。

「跣行」
裸足で行くこと。
これも民子に相応しい。

「潜考」
心を鎮めて深く考えること。
そんな印象的なシーンもあった。
 

「潜行」
水中をもぐって進むこと。隠れて動き回ること。
そうせざるを得ないこともあった。


「閃光」
瞬間的に明るくきらめく光。
しかし、何と言っても一番はこの意味だろう。

私は「閃光」というと、最近リバイバルで話題となった『ダイの大冒険』のポップの以下の名台詞を思い出さずにはいられない。

「一瞬…!!だけど閃光のように!!まぶしく燃えて生き抜いてやるっ!!それが俺たち人間の生き方だっ!!」 

そう、閃光とは一瞬の燃焼の際に生じる刹那の輝き。素より、大いなる宇宙の長大なる歴史の流れからみれば、人間一人の命など本当に僅かなものである。しかし、そんな儚い生命から生れ出づる玉響の閃光の世界を覆わんばかりの烈しく美しき煌きがこの物語には綴られている。

 

私はこの至高の人間讃歌に込められた魂の大熱と高貴さを、奇跡のように眩い青春の軌跡を、一人でも多くの人と共有し語り合えることを切に願って止まない。


余談だが『スメルズライクグリーンスピリット』はNirvanaの『Smells Like Teen Spirit』が元になっていると思われる。そしてこの『センコウガール』もまたモチーフになっている曲があると考えられる。東京事変の『閃光少女』だ。敢えてここでは詳細は書かないが、読後に『閃光少女』の歌詞を読みMVを観るとストーリーに重なる部分があまりに多く感じ入ってしまう。ぜひ、読んだ際には併せて聴いてみて頂きたい。

 

 

 

また、1月発売の話題の名作『マイ・ブロークン・マリコ』と相通ずる点も非常に多いので、『マイ・ブロークン・マリコ』が好きな方には『センコウガール』を読んで欲しいし、『センコウガール』が好きな方にも『マイ・ブロークン・マリコ』を読んで欲しい。

 

 

マンガソムリエが『鬼滅の刃』について語ってみた

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最近、ありがたいことに「『鬼滅の刃』についてお話を聞きたい」と取材を受ける機会が多いです。

J-WAVE、週刊女性、そして昨日放送のとくダネ!などで色々と話をさせてもらいました。

ただ、これはまったく責める意図はないのですが、メディアの特性上どうしても30~60分話しても使えるのはほんの数十秒~1分程度、ということもしばしば。その結果、話の文脈などは完全に立ち消え、非常に浅薄な意見を述べているように見えてしまうことにもなります。そして実際そのように拡散されてしまっていたのが散見されました。とはいえ、もし私が視聴者の立場で傍から見ていたらそう思っただろうなあと思います。

個人的にはそういうものだと理解して割り切って出ているところではありますし、「マンガソムリエとか名乗っているヤツが適当なこと言ってるけど、実際はこうだろ!」と私がダシになることで『鬼滅の刃』談義が盛り上がりに一役買えていたなら、むしろそれは歓迎すべきところです。

しかしながら、一応読み切り時代からずっとリアルタイムで吾峠呼世晴さんの作品を読んできて、コミックス1巻のあまりの売上の低さや常に雑誌の後ろの方にいる(掲載順番はあまり関係ないと言われていますが、それでも怖かった)ので応援のためにアンケートも送っていた身として、『鬼滅の刃』について改めて語っておきたいと思った次第です。


◆『鬼滅の刃』はどれくらい売れているのか
2016年2月に連載が始まり、2016年6月に第1巻発売。その時はまだ2万部も売れませんでした。週刊少年ジャンプ作品としてはかなり下の方であり、webのジャンプ+で人気の『地獄楽』が1,2巻で25万部といった数字と比較してもかなり心配になるものではありました。

4巻位まではまだあまり名前も知られず低迷していたものの、5巻頃から徐々に売上が伸び始めます。そして、2019年に未曾有の快進撃が訪れます。

2019年
2月15日 350万部
連載3周年を迎えてアニメ化も発表され、3年間で350万部に。

4月7日 500万部
アニメ開始時にはこれまでの1年分以上の売上を2ヶ月で達成。

7月19日 800万部
更に3ヶ月で300万部上乗せ。

9月29日 1200万部
神回19話を経て、アニメ終了時には2ヶ月と少しで400万部上乗せし1000万部超えの大台に。

12月4日 2500万部
勢い止まらず、2ヶ月で1300万部上乗せ。18巻は初版100万部超え。

2020年
1月27日 4000万部
勢いは更に加速し2ヶ月足らずで1500万部上乗せ。19巻は初版150万部。

5月1日に20巻が出ますが、その頃には4000万部の発表から3ヶ月経っており更に話題も人気も加熱していることから5000万部は悠々突破し累計約6000万部、20巻初版200万部といった数字になっていてもまったく驚きません。

現在のジャンプでは3600万部の『ハイキュー!』や2600万部の『僕のヒーローアカデミア』を既に超え、上には4.6億部の『ワンピース』と7300万部の『HUNTER×HUNTER』しかいません。ジャンプ歴代でも既にベスト20に入る売上に達しており、今年中に7000万部の『るろうに剣心』や『キャプテン翼』を超えてベスト10入りするのは堅いでしょう。

ちなみに『ワンピース』でも「頂上戦争編」の頃の2010年及び2011年の年間約3900万部が最高記録ですが、今の『鬼滅の刃』はそれを上回るペースで売れ続けています。

現在の2ヶ月1500万部のペースを維持するだけでも年間9000万部という異次元の数字が見えてきます。劇場版の無限列車編公開タイミングなどにもよりますが、まだまだ話題は尽きないため維持するどころか更に加速していく可能性もあります。今年中に、あるいは今年達成しなくても来年前半には累計1億部を突破して、すべてのマンガの中での歴代ベスト10入りしていく可能性もかなり高いです。

 

『ワンピース』が1億部突破するのに要した時間は7年でこれが歴代最速記録ですが、それを『鬼滅の刃』は4年で達成しようとしているペースであると言えばどれくらいの異常事態か伝わるでしょうか。


◆ここまで爆発的に売れている外的要因
まず、そもそも売れるマンガとは何か、と問うた時の答えとして「面白いマンガ」というのは二番目だと言われます。では一番目は何かというと「話題のマンガ」。身も蓋もない話ですが、「話題のマンガ」は話題だからこそ手に取られ更に売れ、そして売れたからこそ話題になり、有名人・インフルエンサーも話題にし、そしてまた売れるという好循環が起こります。

多くの人が触れている作品というのは、それだけで面白い面白くないに関わらずコミュニケーションツールとして機能します。もちろん、「面白いマンガ」は話題になりやすいですし、多くの話題のマンガが一定水準以上面白いのは確かです。ただ、残念ながらとても面白いのに話題にならず売れないまま終わってしまうマンガも少なからずあるのが実情です。

世界で一番売れているマンガは『ワンピース』ですが、では『ワンピース』が世界で一番面白いマンガかといえばそれは人によるでしょう。これはマンガのみならず他のコンテンツでも同様です。

ともあれ、大ヒットを飛ばすためにはどこかで大きく話題になる必要があります。近年では『キングダム』がアメトーーク!のお陰で大ブレイクしたこともありましたが、『鬼滅の刃』の場合のそれは明らかにアニメ化であったと言えるでしょう。アニメ化前後での部数の推移が如実にそれを示しています。

2011年にufotableが制作したアニメ版『Fate/Zero』を観た時、そのクオリティに私は心底驚き感動しました。その後もufotableは毎週放映するアニメとは思えない高クオリティの作品を生み出し続けています。『鬼滅の刃』がufotableによって作られたことは大きな幸運の一つであったと思います。

マンガで読む時以上に映える美しく格好いい各種アクションを始めとする美麗な映像、紅白でも歌われた主題歌「紅蓮華」を始めとする素晴らしい楽曲、豪華声優陣の心震える熱演、そして類稀なる原作愛に裏打ちされた原作を補完し更に物語を深める数々の演出、そのどれもが超一級でした。

そして、アニメが純粋にハイクオリティだったことに加えて、多くの人がスマートフォンやタブレットを所持しAmazon Prime、Netflix、hulu、U-NEXTなどなど何かしらの動画配信サービスと契約して気軽に観ることができる環境が整っていた、というのも大きな要因だったと思います。

一昔前であれば「このアニメ良いよ」と言われてもDVDやBDを全巻を買う、借りる、それをプレーヤーにセットしてTVの前で観るなどする必要がありました。しかし、今や通学・通勤中でもベッドの上で寝転がりながらでも、かつてより遥かに安価に作品に触れられるようになりました。録画し逃してテンションが落ちることもなく、すぐにネットを介して全話観ることができる。それによって布教のハードルも非常に低くなっており、布教する側も気軽に「観てみて!」と言うことができるようになっているのは現代の強みでしょう。

アニメ放映時にはTwitter上でも日毎に鬼滅の刃について語る人が増えていき、特に神回と名高い19話の際には言及数も二次創作も観測範囲で爆発的に増えたことは記憶に新しいです。

アニメを観終わった後に続きが気になって原作を求める人が続出し、無限列車編以降の巻だけ売り切れている書店なども数多く観測されました。そして、無限列車編以降更『鬼滅の刃』は更に右肩上がりに面白くなっていきます。単行本で続きを読んだ人は「アニメの後の方が面白い、この面白い部分を皆読んで欲しい!」と広めたくなる作りになっています。

『鬼滅の刃』が作者の初連載作品であることもあり、正直序盤の巻だと画力や演出力の面でまだこなれていない部分がないとは言えません。実際に1,2冊読んで「そこまで面白いと思えなかった」と止めてしまう方も少なからずいます。ただ、『鬼滅の刃』は巻数が重なってから物語もキャラクターも画力も演出力も大きく魅力を伸ばしていきます。

もっと言えば最新部分がクライマックスを迎えて一番面白くなっています。毎週月曜日には本誌勢の阿鼻叫喚が満ちることもあって、下手なお薦めより口コミ効果がありどんどん単行本派、そこからの本誌派も増えて行っている印象です。

特に電子版のジャンプ+なら全国一律の配信日で、『鬼滅の刃』は毎週フルカラーで読める上にその他おまけも付くということで、相当購読者を増やしているでしょう(好きなマンガの好きなページをTシャツにできるという素晴らしいサービスも行われているジャンプ+ ですが、『鬼滅の刃』の場合はフルカラー版からも作れてお得なので推しのTシャツが欲しい方には非常にお薦めです)。

また、ジャンプ編集部の努力も当然あります。毎巻発売の度に付く特典もそのひとつ。18巻はランダムで18種類のポストカードが付き、19巻は特典こそ付かなかったものの人気投票券が付いていました。これによって、推しのために複数買いする方もおり、中にはひとりで100冊以上買っている人も見受けられました。20巻も特装版として16種類のポストカードが付いているバージョンがあり、既に書店での予約も締め切られているところもある人気ぶりです。

単行本発売の度にこうしたことでお祭化することもあり、話題になる機会が増えて現在も大驀進している状態です。


◆『鬼滅の刃』のさまざまな魅力
実に多岐にわたる作品の魅力。ひとつずつ語っていきましょう。

1.ジャンプ作品らしい王道ストーリー
『吾峠呼世晴短編集』に収録されている『鬼滅の刃』連載より前の短編を読むと、吾峠呼世晴さんの作家性が非常によく解ります。暗鬱さ、不気味さをはらみながらも、どこか琴線に触れてくる物語たち。その作風は、どちらかと言えばガンガン系やエース系、あるいはジャンプSQ.系でジャンプ本誌的ではないと思えます。しかし、『鬼滅の刃』ではその作家性も大いに残しながら、ジャンプらしいと十分に言える最大公約数的なところに上手く着地させています。これは、担当編集者の手腕によるところも大きいでしょう。

ジャンプといえば「友情・努力・勝利」。間違いなく、その三拍子も『鬼滅の刃』にはあります。憎き悪役がいて、それを倒すために友と修行して強くなって、派手な必殺技で倒す。

そして、『鬼滅の刃』では主人公・炭治郎の動機は家族を惨殺した鬼・無惨への復讐と、鬼にされた妹を元に戻すこと。ストーリーの骨子はジャンプの王道を踏まえています。もっと極めてシンプルに言えば、刀を振るって鬼を倒す話。日本人なら誰にとっても親しみのある題材であり、故に取っ付き易いです。

また、『ワンピース』や『進撃の巨人』、あるいは『新世紀エヴァンゲリオン』など社会現象と言われるまでにメガヒットしたコンテンツのひとつの共通の特徴として、語り合い考察したくなる「謎」があることが挙げられます。しかし、『鬼滅の刃』にはそれはありません。あくまで純粋に物語を楽しむ作りとなっています。

「謎」の存在は世界観を引き立て大きな楽しみを与える一方で、難解さを感じさせ物語へ入る障壁として作用する場合があります。そういったハードルがないのも、『鬼滅の刃』が子供から年配の方まで広く受け入れられる要因かもしれません。


2.エンターテインメントの基本を押さえている
「笑い」、「エロス(恋愛)」、「バイオレンス」は古今東西を問わず普遍的に人類が好むテーマであり、エンターテインメントから無くならない要素であろうと言われます。

特に「笑い」は『鬼滅の刃』の特徴的な魅力を担っているもの。ストレートなギャグから独特のセンスによるシュールな笑いまで、多くのシーンで笑わせてきます。特に異端なのは、極めてシリアスな状況下であってもそうした描写がなくならない点。特に、連載最新の無惨とのラストバトルの最中であってもちょくちょく笑いを入れてくるのは今までのジャンプ作品と大きく異なる点のひとつと言えます。それが決して物語を追う邪魔となっておらず、悲喜の抑揚を生むアクセントとして働いているのは筆者の力量によるもの。

エロス(恋愛)に関しては若干薄めではありましたが、中盤からは主に恋柱が八面六臂の活躍です。ネタバレとなるので深く言及はしませんが、恋愛という部分に関しても素晴らしいエピソードを見せて心を掴んでくれます。とある二人の関係性に私は目頭を熱くさせられました。

バイオレンスに関しては言うに及ばず。

そして、私は『鬼滅の刃』を「友情・努力・勝利」というより「愛・努力・勝利」のマンガであると定義することがあります。親や師や兄弟姉妹など、家族愛や恋愛、友愛なども含めた他者への想いが炭治郎たちの闘う力の源になっているのに加え、敵である鬼たちにもそういった物語が存在します(後述)。

多くの人が普遍的に好むエンターテインメント性をしっかり取り揃えている作品であると言えます。


3.テンポの良さ
『鬼滅の刃』は、とにかくテンポが良いです。引き延ばされてるなぁと感じる部分は今のところ一切なく、気持ちよく話がどんどん進行していきます。

ちょくちょく挟まれる修行パートは若干長めですがそれも気になるほどではありません。これは作者の「人間はそんなに簡単に強くならない」という想いからきているそうです。


4.一線を画す魅力的な主人公
悟空やルフィといった従来のジャンプ作品主人公の多くは超人的な力を身に付けているが故にどこか思考も人間離れして共感しにくい部分というのがあります。「死んでもドラゴンボールで生き返る」のような発言は最たる例ですね。

一方で、竈門炭治郎という主人公はどこまでも人として真っ当であることを善しとする人間であり続けます。そして、道理に背く者がいればダメ出しし、諭し正していきます。

自分勝手なところがなく、スケベでもなく、面倒くさがりでもなく、臆病でもなく、卑怯でなく、馬鹿でなく、戦闘狂でもない。働き者で家事もできて気配りもできて真面目で素直で家族・仲間思いで人の痛みに対して鋭敏で優しく自己肯定感がとても強く、いざという時は男らしくて頼りになり格好いい。故に仲間たちからの信頼も厚い。強いて言えば、ちょっと天然で頑固。

こういった性格の男性キャラクターは恋愛マンガでは見かけることはあります。しかし、ジャンプのバトルマンガ、とりわけダークファンタジーの主人公としてはかなり異端な存在であると感じます。

40代の女性が、子どもがハマっているわけでもないのに自分から読んでハマりとりわけ炭治郎をかわいい息子のように思いながら読んでいるという事例も耳にします。実際に自分の子供が炭治郎のように優しく強く育ってくれたら申し分ないでしょう。類稀な魅力を持った主人公であることは間違いありません。


5.サブキャラクターの魅力
『鬼滅の刃』が特に中盤以降に面白くなると言われる理由のひとつとして、魅力的なキャラクターである「柱」の登場が挙げられます。『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団や『ブリーチ』の護廷十三隊のようにまず非常に戦闘力が高く、その上で個性豊かで、仲の良い者もいがみ合っている者もいる名脇役たちです。彼らが命懸けの修羅場で見せる強さは頼もしく格好よく、また垣間見られる彼らのささやかな日常はコントラストのように輝いて尊く見えます。

『鬼滅の刃』はキャラクターの男性比率が高く、敵にも魅力的なキャラがいるため女性にも人気が高いのも頷けます。また今の読者の内、特に女性は「推しキャラ」を見つけて愛でながら楽しむ文化が根強くなってきています。『鬼滅の刃』はキャラ数が多いため推しを、推しでなくとも好きなキャラクターを見つけながら楽しむということがしやすくなっています。

女性キャラだと禰豆子やカナヲがかわいい。それはもちろんあります。個人的には珠世さんも好きです。


6.敵である鬼の物語
炭治郎たちが闘う相手である鬼たちは皆元人間でありながら不老不死になっています。それは、永遠性を求めて人間の限りある時間を超越した存在です。その裏にはさまざまなエピソードがあり、それがまた非常に人間的で痛切で胸を打つこともあります。

敵側の同情を誘うような話を用意することは、通常は打倒した時のカタルシスを削ぐため諸刃の刃だと言われます。しかし、『鬼滅の刃』では敢えてそれを毎回極めて丁寧に描いていきます。その鋭い諸刃が心に深々と刺さり、大きな感動や葛藤が引き起こされます。

鬼たちは永遠の命を得ながらも完全に幸せになった者はおらず、享楽に耽る瞬間はあっても無惨のコマとしての鬼となった上での苦しみを抱えていたり、人間の時代からの後悔や怒りや哀しみを抱いていたりする者ばかりなのもポイントです。そして、たとえ無惨本人が太陽を克服して鬼狩りを滅ぼし尽くしたとしても、彼が真に幸せになれることはないでしょう。

 

人間が追い求める理想を体現しながらも、そこに幸せはないという断ち切れない哀切が心を焦がします。


7.類稀なる言葉のセンス
担当編集者は義勇の「生殺与奪の権を他人に握らせるな」というセリフに感動したそうですが、吾峠さんは心の襞に引っ掛かる絶妙な言語感覚を持っています。

「俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった」
のような名ゼリフもそうですが、シリアスにもギャグにもそのセンスが生きています。

特に、ラスボスである無惨の言動には異常者感と小物感が双方ともに突き抜けていて不思議な魅力すら持っているのはセンスの顕現です。絶望感を覚える強さと人間離れした異常性を持ちながらある部分は人間臭くもあり、そして実に滑稽で笑わせてくれるというラスボスは『彼岸島』の雅などに類型はありますが、あまり見たことがありません。

個人的にはシリアス部分の文学的なモノローグか好きで、特に20巻収録の177、178話は秀逸なので単行本派の方には是非堪能して頂きたいです。


8.人間が人間として、元人間と闘うもののあはれ
鬼狩りたちはどれだけ強くても人間です。四肢を落とされれば治ることもありません。怪我をすれば行動に支障が出ます。そして人間の命の時間は鬼から見ればごく僅かで限られています。

しかし、鬼にはない人間の強みは自らの世代で叶わぬ願いを子や孫や友や伴侶に伝承していくことができること。自らの命が尽きた後も、意志を遺すことができることです。

また、人間は人間同士で協力してひとりではできないことを成し遂げる力を持つことができます。それこそが人間の強さの一端であり、正に鬼狩りもそのような在り方を見せます。一騎討ちになるシーンもありますが、ケンシロウがラオウを、悟空がフリーザをひとりで倒すような時とは違い、炭治郎たちは多くのシーンで共闘して無惨や上弦の壱たちに立ち向かいます。

「自分にできなくても必ず他の誰かが引き継いでくれる 次に繋ぐための努力をしなきゃならない 君にできなくても君の子どもや孫ならできるかもしれないだろう?」(12巻)
という炭治郎のセリフにも、主人公自らが次世代への継承を考えて人間全体の力で闘おうとしていることが見て取れます。

炭治郎たちはあくまでも人間としての範囲内で修行して強くなり、人間が持ち得る力で以て鬼たちに対抗します。親や、師や、兄弟姉妹や先達が伝えてくれた技術、知識、道具、想いを継承して共に闘います。哀しくも命を落とした多くの無念や願いも背負って。

人間の最大限で、人間であることを止めた者たちを否定する。命に限りある者たちが、永遠の命を持つ者たちを超えていく。

日本人には古来より散りゆく桜のような限りある儚いもの、亡びゆくものに美やあはれを見出す感覚が備わっています。「永遠性への憧れ」をどこかで持ちながらも同時にそれは叶わないと悟り、限りある生をできるだけ充実させて謳歌する。終わりがあるから哀しい、しかしだからこそ美しくもある。

ただでさえ短い命を「痣者の代償」などで更に縮め、自らの命を他者のために差し出すような彼らの悲壮なる決死の覚悟には、そして実際に命を散らす時の様子には、あはれを感じずにはいられません。そして死した者の遺志を継いで遺された者たちは更に強く成長する。それは普遍的な人の営みの本質に通じています。

こうした構図が貫かれているところは『鬼滅の刃』の大きな美点であり、それによって生まれる奥深い妙味こそ子供だけでなく大人にも受けている大きな一因と言えるでしょう。


◆終わりに

『鬼滅の刃』の細かい魅力に関しては他にも様々に述べることができると思いますが、紙幅の関係もあり今回はこの程度の概説に留めておきます。後はお酒でも飲みながら一緒に語りましょう。

 

昨日の放送では、こうしたことを語った文脈の上で「それ以外に何か各世代に受けている理由として思いつくものは?」ということでああした回答になったことを述べさせて頂きます。繰り返しますが、それに関して番組側を非難する意図はありません。使いたい、使いやすいところを使って頂いただけという認識です。


個人的にはこれだけ注目され売れている作品をジャンプ編集部はすっぱり終わらせるのか、それとも無惨を倒した後も何かしらの形で話は続くのかは非常に気になっています。やろうと思えば無惨のように鬼を増やせる鬼が新たに発生したり、無惨本人がDIOのように復活したりなどやりようはいくらでもありそうです。

しかし、物語としては綺麗に、間延びせず終わって欲しいという気持ちも強いです。どういう結末になるにせよ佳境を迎えている今、月曜日の最新話が楽しみです。

そして、単行本派の方は20巻ラストの方にいるはずの私の推しを何卒よろしくお願いいたします。


参考
『鬼滅の刃』大ブレイクの陰にあった、絶え間ない努力――初代担当編集が明かす誕生秘話
https://news.livedoor.com/article/detail/17760339/
 

みなもと太郎さんとの思い出

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「漫画家と編集者の絆は血よりも濃い」

 
とある名編集者が語った言葉ですが、トーチwebの中川敦さんによるみなもと太郎先生への追悼文はそのことを如実に思わせる名文でした。
 
1979年から描かれていた『風雲児たち』は、追悼文でも書かれている通り歴史上の有名人物のみならず、一般的には無名な人物にも焦点を当てて重層的で濃密なドラマを描くことで唯一無二の輝きを放つ歴史マンガです。NHKでドラマ化され、三谷幸喜さん脚本によって歌舞伎にもなっています。また、『ホモホモ7』はマンガ表現の歴史的にも重要な作品です。
 
しかし、特に若い人であればほとんどみなもと太郎さんのことを知らない、作品に触れていないという方もいると思います。そんな方には、みなもと太郎さんがどれだけ偉大な方だったかということを少しでも知って欲しいと願いながら今回筆を執っています。
 

 

マンガ図書館ZやKindle unlimitedなどで、無料でも読める作品が多くありますのでこの機会に読んでみてください(『ドリフターズ』の副読本としても話題になった島津藩の武士による治水事業を描いた『宝暦治水伝 波闘』などは、『風雲児たち』の雰囲気を掴むのにも最適です)。

 
みなもと太郎さんは、偉大な漫画家であると共に偉大な漫画研究者でした。描き手でありながらも、生涯にわたって実に広範なマンガに触れ続け、生の声や文献に当たりながら探究を続けておられました。齢70を超えても、マンガに留まらず『艦隊これくしょん』や『魔法少女まどか☆マギカ』など周辺文化にも積極的に触れて学ぼうとしていた姿勢は尊敬すべきものです。
 
『風雲児たち』と同様に、独自の視点で普通の解説書ではない斬新な着眼点も取り入れながら、マンガ文化の成立から現代に至るまでの経緯を紐解いたのがその名の通り『マンガの歴史』という本です。
 
 
こちらはマンガ文化を愛する人にはぜひとも読んで欲しいのですが、残念ながらこちらも1巻だけが発売され未完となってしまいました。とはいえ、1巻部分だけでも十分に面白く、読む価値があるのは保証します。
 
私は以前、ジャンル問わず古い作品も含めて横断的にマンガを追っているところがみなもと太郎さんと共通しているということで、僭越ながら上記の『マンガの歴史』を出版した岩崎書店さんからお声掛けをいただき、ロフトプラスワンでみなもと太郎先生と共に現代を代表する作品として『HUNTER× HUNTER』を中心にマンガについて語るイベントを行わせて頂きました。
 
それ自体も非常に貴重な体験だったのですが、その打ち上げとして後日みなもと太郎さん行きつけのお寿司屋さんで会食が行われました。その帰りに何とみなもと太郎さんに誘われて自宅に招かれたのです。
 
みなもと太郎さんはメディア芸術祭マンガ部門などの数々の漫画賞の選考を務めてらっしゃいました。その際、どうしても自分ひとりでは解釈が難しい作品があるので私の知見を聞かせて欲しいということでした。並のアワードでも量が集まれば大変ですが、特にメディア芸術祭の受賞候補作品は海外の作品もありますし、非常に実験的で先鋭的な作品も多いです。それなりに雑誌を読んでいるマンガ読みであっても読み解くのに困難を伴うであろう作品も複数含まれています。
 
幸い候補作はほとんど読んでいたので私の知識でお役に立てるのであれば、と喜んでお邪魔しました。そして、上記Twitter画像で写っている紙の要塞である仕事場に立ち入らせていただきました。画像で言うところのみなもと太郎さんの横の扇風機がある位置に座らせていただき、優に100を超える作品を総覧しながらさまざまな質問にお答えさせていただきました。
 
この作品はどういう経緯で生まれたのか。
この表現はどういう意図で用いられているのか。
このコマの意味は。
物語の構造は。構成は。
このキャラクターについては。
作品全体のテーマは。
あの作品との差異は。
近年の傾向は。
現代の読者の反応は。
 
一見して解らない作品は解らないものとして置いておき、解る作品の中から上位を選ぶという選考の仕方であっても決して文句は言われないでしょう。しかし、みなもと太郎さんはそれを許さないようでした。膨大な候補作ひとつひとつに丁寧に向き合いながら、自分に解らないなら解る者に訊けばいいと、こんな若造にも頭を下げて教えを乞おうとする。その真摯な姿勢と深い深いマンガ愛に心から敬服しました。私よりもずっとずっと長い間マンガと共に人生を歩み数多くの作品に触れてきたみなもと太郎さんのマンガを見る目は、非常に鋭く確かなものでした。

 

 

 

 

みなもと太郎さんの慧眼と称揚によって勇気付けられた方は枚挙に暇がないでしょう。

 
地下には大変貴重な書籍や資料が山積する伝説の書庫がありました。私のようなマンガ好きにとっては、正に夢想を体現したような空間です。心地よい紙の匂いが漂う部屋で、みなもと太郎さんとマンガを通して言葉と想い、魂を交わした時間。それは長い人生から見ればほんの一瞬ですが、私の人生における財産となっています。
 
多くの方が語るように、みなもと太郎さんは優しくユーモアがあり、とにかくマンガに対する愛情と熱意の大きさが素晴らしい方でした。
 
『風雲児たち』や『マンガの歴史』の続きが見られなくなったことは非常に悲しいことですが、それ以上に多くの著作や生き方そのものから沢山の物事を学ばせていただきました。もしも70まで生きられた暁には、みなもと太郎さんのようになっていたいです。
 
みなもと太郎さん、本当にありがとうございました。

『鬼滅の刃』で最も哀しき鬼の魅力

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(※『鬼滅の刃』20巻のネタバレがあります。未読の方はご注意ください)


















「モノローグ」は、マンガ界におけるひとつの大きな発明でした。単なる心内のセリフとしてだけではなく、人称を超えて詩的な表現や言葉選びで作品を多層化し深みを与える役割を果たすように発達していきました。その表現手法は1967年に連載が開始した石ノ森章太郎の『ジュン』などに萌芽を見ることができます。その後、1970年代には萩尾望都、竹宮惠子、大島弓子、山岸涼子ら「24年組」と呼ばれる女性マンガ家たちを中心として、美しさに酔いながら胸を焦がされるようなモノローグが数多く綴られるようになります。


少年マンガがカメラワークや必殺技表現、プロットやガジェットのような物理的な側面での発達が著しかった一方で、少女マンガは人間の内面に焦点を当てその深部まで探究していく精神的な側面での進化が強く見られました。


『鬼滅の刃』の大きな魅力のひとつも、正に筆者の優れた言語感覚によって綴られる各キャラクターの印象的なセリフ、そして繊細で叙情的なモノローグにあります。その美点がとりわけ顕著に表れているのが、単行本20巻で描かれる「十二鬼月」最強の鬼である「上弦の壱・黒死牟」との闘いの終盤でしょう。個人的に『鬼滅の刃』全体を通して最も好きなエピソードでもあります。


20巻全体のサブタイトルともなっている第173話「匪石之心が開く道」までは、主に鬼殺隊たちの視点で黒死牟の討伐が描かれます。しかし、第174話「赤い月夜に見た悪夢」からは黒死牟がまだ継国巌勝という名前の人間であった頃の回想へと入っていき、その後は彼のモノローグが主体となって語られていきます。


巌勝は、誰あろう始まりの呼吸の剣士である継国縁壱の双子の兄でした。戦国時代である当時、双子は忌むべき存在。縁壱も父親から殺されそうになりますが、母親に守られ10歳で出家するということで手打ちとなっていました。衣食住や教育など育成環境においては兄と大きく差をつけられ、巌勝は縁壱を憐れみながら過ごします。縁壱は母親以外の家の者たちからも冷遇されていたことが想像に難くありません。そんな中で、自分を想って笛を作ったり凧揚げや双六で一緒に遊んでくれたりする無二の存在である兄への純粋な敬慕と憧れが幼少期に生涯消えぬものとして生じていたであろうことも、切なく胸を打つ要素となっています。


しかし、ある日縁壱が自分よりも剣士としての優れた才を持っていることを知ってしまった巌勝は、狂いそうなまでの激情に駆られることとなります。その第177話「弟」はモノローグが特に秀逸な回です。


“全てを焼き尽くす程強烈で鮮烈な太陽の如き者”


と巌勝が弟を形容するページから始まり、


“私は嫉妬で全身が灼けつく音を聞いた”


という巌勝の心情で締められます。ジャンプ+で読めるフルカラー版では巌勝の手の血豆や血が染み付いた木剣の様子がよりよく判り、7歳にして文字通り血の滲むような努力をしていた巌勝の狂おしさがより込み上げます。


続く第178話でも、一時は縁壱と離れ妻とふたりの子供を持ち平和な時を過ごしながらも、縁壱と再会したことで


“私の平穏が破壊された 私は再び妬みと憎しみで胃の腑を灼いた”


と巌勝の激越した感情が綴られます。また


“お前の声を聞くだけで腹が立ち顳顬が軋む”


といったモノローグも極めて秀逸です。


眩いまでに輝きを放つ縁壱という存在を前にして、巌勝は嫉妬の炎に焦がされ続けます。太陽は人間に暖を与える一方で、近付くすべてを焼き尽くす強大な力を有しています。「日の呼吸」を我がものとする太陽のような弟に生涯勝つことができず、それでも己のなしうる限りを尽くして派生の「月の呼吸」を編み出した巌勝。月は、太陽がないと輝くこともできない存在です。自ら「月の呼吸」と名付けた巌勝の気持ちはいかばかりだったでしょうか。


また、縁壱は後世の人間の育成、継承においても巌勝より遥かに大局的で達観した視点を持っていました。巌勝は縁壱が人格者であることも認めており、剣の資質でも人間としての器でも完敗していることを痛感させられる機会が幾度となくあったことでしょう。


「強く、いつも勝ち続けられるように」という願いを込めて父親から名付けられた巌勝ですが、皮肉にも生涯で一度たりとも縁壱には勝てませんでした。鬼となり数十年が経って対峙した時ですら、縁壱の前では死を覚悟するほどでした。


巌勝は最強を求めた末に鬼として不老不死の肉体を得ながらも、400年間人間としての苦しみも持ち続けてきたことでしょう。その間に技を磨き完成させんと鍛錬していたことは、実に「拾陸ノ型」まである「月の呼吸」に表れています。


神に愛された弟と、弟を今際の際まで憎み呪う兄。しかし、そこには決して憎しみや妬みだけではない、深く重く大きな想いが堆積しています。


自らの不死の主をも圧倒した老いた弟が、嗄れた声で涙を流しながら「兄上」と呼びかけてきた時に込み上げた憤怒ではない感情。最後に巌勝が縁壱を両断した時、在りし日に兄から弟へと贈った手作りの笛を縁壱が生涯大事に持ち続けていたことが解り、その瞬間に鬼の目に浮かんだ涙。最も心を揺さぶるのは、黒死牟となり討ち果たされ塵となり消えていくその瞬間に、彼がその自ら斬った笛の残骸を400年もの長い間ずっと抱き続けていたことです。


忌み児として生まれながらも「人と人との繋がりを何より大切に」という願いを込めて母から名付けられた縁壱は、妻子を殺され、鬼殺隊を追放された後も兄との繋がりだけは数十年大切に抱き続けていました。そして、兄もまた弟との繋がりを断つことなく400年以上大切に持ち続けていました。ふたつに折られた笛が、時を越えて兄弟を繋いでいました。


縁壱が長い時の流れの中で両親や妻子の顔すら忘れても、唯一覚えている弟の顔。好きの反対は嫌いではなく無関心であり、愛と憎悪は表裏一体。本当に言葉通り縁壱がただ憎いだけであれば、決してその遺品を持ち続けていることなどしなかったでしょう。


黒死牟は縁壱を斬った後、どんな気持ちで自らが作った笛を回収したのでしょうか。そして、縁壱の遺体をどうしたのでしょうか。老いた体とはいえ縁壱ほどの実力者を食べたなら鬼は相当の力を得られそうです。しかし、もしかしたら黒死牟に残っていた巌勝の部分がそうはさせず、遺体を安らかに土に還したかもしれません。その時に思い浮かべたのは、20巻のカバー下にあるように、屈託のない笑顔を浮かべて遊んだ在りし日の姿だったかもしれません。


最終的に巌勝は強く美しい侍からはあまりにも程遠い醜悪な姿となり、自分が想像もしていなかった後世の継承者たちによって無様を晒した挙げ句、縁壱と同じ赤い刃で貫かれ負けを喫しました。その果てで最後の最後に「縁壱になりたかった」と自らの根本にある素朴な願いを認める彼は、実に愚かです。妻子や寿命や矜持、果ては倫理と引き換えに強さを得てもまだ足りず、最強と謳われながら自身はただの一度も心からそう思えたことはなく、常に劣等感と嫉妬心に苛まれ、何者にもなれず、誰にも何も残せず、死んで悼んでくれる者もいない。ただ、音の鳴らない笛を後生大事に抱えたまま死んでいった、あまりに人間的で哀しく愚かな鬼が、私は愛(かな)しくて堪りません。

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