
アクトンベイビー 1巻
高田桂
人前できっちり恥をかけるってことは
役者の資質で一番大事なことだ
『フ・ラ・グ』や『ミックスドジュース』の高田桂先生最新作。
「アクトン・ベイビー? 透明の赤ちゃん?」と思った方はお友達になりましょう。
今作は演劇マンガ!
演劇マンガといえば、永遠の金字塔『ガラスの仮面』の存在があるので、まず挑戦しようとすること自体が大変な題材であると思いますが……
今作はしっかりと演劇の醍醐味を、熱く描いています!

主人公・早乙女ひろみは、高校に入学して早々、中学時代にパシリにされていた同級生と再び同じクラスに。
輝く自分の姿があるのは、妄想の世界ばかり。
そんな自分を変えたい、とひろみは願っていた。
そんなひろみが出逢ったのは、隣の席の美少女・武上あきら。
演技経験を感じさせる美少女に惹かれて行った先に待っていたのは、全く未知の演劇の世界だった――
少年マンガの王道とも言える筋書き、そしてボーイ・ミーツ・ガール。
実に構成はシンプルです。
しかし、それをしっかり演劇というスパイスを用いて盛り立てています。
演じている時だけは、自分ではない別の人間の人生を歩む。
その瞬間の他では味わえない感覚や、熱さといったものを丁寧に演出していき、物語に引き込んでくれます。
冒頭の主人公が初めて見る演劇の凄さや、駅前で漫画の朗読をするシーンなどは滾ります。
漫画の朗読って面白そうですよね。
井の頭公園で『ジョジョ』を一人で朗読している人がいた、とは聞きますけど。
『花もて語れ』で言っていた通り大正時代までは音読することが普通だったこと、朗読という読み方は物語を最高に楽しむ方法なのだということを思い出しつつ、主人公が少しずつ役と同化して行く様を眺めます。
ただ、早乙女ひろみ君は北島マヤに比べて演技巧者であるに足る理由がまだ見えて来ません。
妄想力が演技力に繋がるのだとは思いますが……
あるいは、1巻から表紙をヒロインに乗っ取られて自分は裏表紙という扱いからも判る通り、ひろみはずっとこんな扱いなのか……!(笑)
というのは冗談ですが、今の時代が求めているのは天才の卓越した物語ではなく、凡人の地道なサクセスストーリーであるのかもしれません。
等身大のちょっとイケてない男の子、感情移入するには申し分ありませんからね。
それでも、そんな彼が予想だにしない活躍を見せてくれればやっぱりそこはグッと来る訳で。
今後の女の子みたいな名前の早乙女ひろみくんと、男の子みたいな名前の武上あきらさんがどんな熱い演技を見せてくれるのか、とても楽しみな作品です。
演劇に興味がある人は勿論、学園青春モノが好きな方は押さえておいて損はないですよ。
70点。