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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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死んで生き返りましたれぽ

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死んで生き返りましたれぽ
村上竹尾

大丈夫だよ

どんな人にも
生きる道はあるんだから

pixivにて読めます。

このブログでも何度か記事にしたり言及したりした、pixiv発のWeb漫画が書籍化されました。
帯によれば、累計閲覧数550万、総RT数2万五千超だとか。

私が今年読んだすべての漫画の中でも屈指の作品で、是非多くの方に読んで欲しいです。
特に過酷な仕事に喘ぐ人、生きるのに疲れてしまっている人に届いて欲しいと心から思う作品です。


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イラストレーターとして激務の日々を過ごしている内に自宅で倒れてしまい、心肺停止、糖尿病性ケトアシドーシス、敗血症、横紋筋融解症、急性腎不全、脳浮腫など死に至る重篤な疾患を大量に併発してしまった筆者の実録レポート漫画。



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脳が壊れ、失明、記憶喪失、精神崩壊に陥った時の状態が、震える描線により克明に描かれます。

人に何本もの線が浮かんで見えたり、四角い物が大小問わず区別できなかったり、6以外の数字が出て来なかったり、臭いが視覚に色として反映されたり……
そういった物がダイレクトに、衝撃的に伝わって来ます。

真面目に描けば上手いのですが、今作の大部分は(エヴァの心象スケッチを想起させる)小学生でも描けるようなたどたどしい描線で構成されています。
しかし、それがこんなにも読ませる物に仕上がっているという事実。
これは漫画表現の可能性の扉を叩いてすらいると感じます。


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pixivでは上手なサイコパスなどのイラストを掲載している筆者が、アンパンマンの顔すらも碌に描けない……

絵を描くことだけで社会と繋がって来た筆者が絵を描くこともできなくなるということは、鳥がその翼を喪うようにどうしようもない絶望であると思います。
しかし、この竹尾先生はそんな状態から見事にこの作品を描けるようになるまでに回復して見せました。

かつて、赤木しげるは「自分で自分を保てなくなったら死のう」と言い、それを実行しました。
しかし、生きている限り人にはあらゆる可能性が残されているのだと、今作は如実に力強く語り掛けて来ます。
もしかしたら、竹尾先生であれば赤木の自殺を止めることが出来たかもしれません。



今作の中には好きな言葉やシーンが沢山ありますが、特に私が心動かされたのは、リハビリのシーンです。

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自分が立てただけで涙を流してくれる人。
そんな人がもしいるのなら、その人の存在に感謝して、大事にしないといけませんね。
孝行したい時に何とやら、とよく言われます。
人はいつどこでどうなるか判りません。
後になって後悔しないように、できる内にできることをしておかねばならず、しておくべきなのだと思います。



今作は書籍化されるにあたって、pixiv版から全編が改稿されています。

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pixiv版の二話1頁目


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書籍版の二話1頁目

文字や線がブラッシュアップされている他、かなり大幅に変わっている部分も。
又、竹尾先生の主治医からこコメントや、自身による後書きも加わっています。

その中でも、「生きることがつらいときや、自分の意思とは関係なく立ち止まってしまったときに、自分の心を前に向けるには、善い言葉を使い、人に感謝をすふ、それだけでいいのかもしれません」という言葉に心底賛同しました。

私自身も心が塞ぐ時は、まず部屋の掃除をして、汚い言葉や思考を意識的に封じて、良い言葉や想いで自分を満たして、奇跡のような偶然の上で人に支えられて今の自分が在ることに感謝を捧げる。
そんな風にしています。
生きているのが辛苦で満たされていた時もありましたが、今は辛く苦しくてもそれと同時に嬉しさや幸せや感謝がそれ以上に溢れています。
有り体ですけど、自分の心の持ち方一つで世界も変わるのですね。


pixiv版で読んだ方も、是非書籍版でもう一度読んでみては如何でしょうか。

人生に躓いている誰かにプレゼントするにも、最高の一冊だと思います。


85点。


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