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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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廃墟少女

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少々、スマホもPCも私自身も死んでおりました。
なるべく毎日更新したいと思いつつ今年も3日目で夢破れつつ……
4日も更新できなかったのは初めてでしょうか。

新調したPCからだとアメブロとの相性が悪く、リンクが死んでる部分もありますが……
またぼちぼち再開して行きますので、どうぞ宜しくお願いします。





廃墟少女

尚月地

きっと上手くいかない事があるのは
自分だけではない
色々な人たちが他人の思いもかけない事で
悩み苦しみながらも
必死に生きている



「艶漢」(
1巻70点)6巻と同時発売となる、尚月地先生の幻想的短篇集。

4つの物話が収録されており、その全てに多寡はあれど廃墟が描かれています。

個人的には廃墟が大好きなので、タイトルからしてとても惹かれていました。
そして、この表紙、更に表紙を捲った時に現れる中表紙の美麗さ!





photo:01

廃墟、そして少女というフェチ全開のモチーフが素敵で、掻き立てられます。

ただ、後書きによれば担当編集者さんは廃墟の魅力が解らず、熱弁する尚先生に対して引き気味だったらしいですが……

もし私が担当だったら、嬉々として喜び勇んで賛同し、その日の内に取材と称して軍艦島でもクラーコでも飛んで行く勢いです。

所々崩れ落ちて機能を損なった建造物。
錆付き、苔生した無器物の残骸。
曾て人の営みがあった場所で感じられる時流と静謐。
そんな滅びの象徴たる人工物とは対照的に広がる大いなる蒼穹や自然。
デストルドーを喚起され、ある種の厳かさ・聖性すらも感じられる空間。
それが廃墟です。
様々な本能や感覚に訴えかける魅力を持った存在だと個人的には思っております。

「滅びこそ 我が喜び。 死にゆく者こそ 美しい」
と大魔王ゾーマも云っていましたが、この感覚は日本人的には部分的には理解できなくもないのではと思います。
諸行無常、栄枯盛衰の理を解し、桜を愛する民族なのですから。

そして、廃墟同様、少女という存在も刹那に煌めく魅力を湛えたものです。
セーラー服という記号も、それを強調する存在であるように思えます。
そういう意味では、この二つのモチーフの組み合わせはとてもしっくりきました(「廃墟美少年」でも勿論OKだと思います)。



とまあ、そんな廃墟語りはそこそこにしておき、本編の解説に移りましょう。




先ずは上記の中表紙でも描かれる表題作「廃墟少女」。

photo:02

3年前に工場廃墟に監禁された女学生・峠風子。
幼馴染の同級生の百花によって、再び同じ場所に囚われてしまう――

少女が少女を廃墟に拘束する、というシチュエーションでご飯が食べられます。
風子の失われた記憶や、百花の動機を巡る物語展開も、練ってあって面白く読めました。
ラストの流れも綺麗です。
そして、背景の廃墟描写が素敵ですね。
描いていて楽しかったそうですが、眺めていても楽しかったです。



次に「音楽が見える男」。

photo:03

ある事件で音楽が映像化されて見えるようになり、その結果上手く演奏ができなくなってしまい解雇を言い渡された音楽学校の老教諭のお話。

尚先生の画力で描かれる音楽の視覚化表現が、美しいものもおぞましいものも圧巻です。
漫画のコマもアーティスティックに描かれていて、目を愉しませられます。
そして、画力だけでなく心理描写の巧さも感じました。
エピソードの重ね方や、普遍的な感情の捉え方が良いです。
「艶漢」はシリアスもありつつ、割とハチャメチャなギャグテイストが強い作品ですが、改めてこういったタイプの純粋なシリアスストーリーもとても気持ち良く読めるなぁ、と。
少女漫画でありながら老人が主人公というのがネックだったようですが、そんな些事は全く気にならない良作です。



そして、三作目の「箪笥少女」。
photo:04

同じ顔と声を持っていた兄が死んで一週間。
主人公の前には、自分を兄だと勘違いした少女が現れた。
その少女は兄の患者で、箪笥の中でしか安心できない疾患を抱えていた――

「とにかく箪笥の引き出しに入った女の子が描きたかった」という願望から立脚したこのお話。
先生は本当に酷いフェチをお持ちですね(褒め言葉)。
もう、画面の端々から「好きだから描きましたオーラ」が迸っていて、その潔さに心地良さを覚えました。
兄の死を巡るサスペンス、そして黒髪ロングストレートの私得ヒロイン巣守こづえさんの恋を巡るラブストーリーの両輪で楽しめる物語。
こちらもとても良かったです。
廃墟描写は勿論、小物や人形、服装にもツボにハマる点があり、昂揚しながら読んでいました。
こづえさんが、時々ハッとするようなセリフを言うのも良いです。



「帽子の上の丘」
photo:05

一度入ったが最後、二度と抜け出せない「無限廃墟」に迷い込んでしまった帽子職人のお話。

四篇中で唯一、ギャグテイストが強く盛り込まれた物語で「艶漢」っぽさを感じます。
とはいえメインの筋はシリアスで、こちらもまたいい話です。
クライマックスシーンの大ゴマの美麗さは素晴らしいの一言。
無限廃墟の精緻な描写にも恍惚感を覚えます。
しかし、貴族のために作るド派手な帽子の数々は、現代の「ペガサス昇天MIX盛り」やレディ・ガガ様のファッションなどを彷彿とさせますね。


そんな四篇+後書き漫画に、作者自身の作品解説も入ったこの本。

廃墟好きの方には勿論、ファンタジー物語が好きな方にもお薦めです。
絵に惹かれる、という理由で買ってもきっと損はしないでしょう。


80点。

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