『空が灰色だから』(1巻75点 2巻75点 3巻75点 4巻75点)の阿部共実先生が、新作を二冊同時発売!
他にも、ビッグコミックスピリッツに読み切りが掲載されたり、チャンピオンタップでも『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』が連載中(本日更新!)と、阿部先生の作品を読める機会が豊富で嬉しい事です。
今回同時発売の二冊も、阿部共実節全開!
ただ、どちらかというと黒い装丁の『ブラックギャラクシー』の方が全体的に明るいノリで、白い装丁の『ちーちゃんはちょっと足りない』の方がブラックな感じです。
両方読む場合は、どちらの読後感に陥りたいかで順番を決めると良いかもしれません。
ブラックギャラクシー6
阿部共実
少年チャンピオンコミックスエクストラ
めんどうくさいからって
この部の人間を放置してると
非常に非常識なことが起こる
別冊少年チャンピオン及びチャンピオン本誌で連載された、一話数ページの連作掌編集。
中学生時代にはどこのグループにも属せず、灰色の日々を送っていた女子高生が、自分でサークル「ブラックギャラクシー」を立ち上げ、憧れの青春を手にしようとするコメディ。
「ギドラ」という仇名を付けられた、あまり賢くなく面倒くさい残念な性格の眼鏡女子主人公。
SLG大好きな、面倒くさがり屋で変な仇名を人に付ける美少女・枯木流那。
「っす」が口癖で、見た目も性格も小動物キャラな渋谷千夜乃。
楽しいことが大好きで、スイッチのオンオフが激しい破天荒な2年生・針本月花。
「ギドラ」という仇名を付けられた、あまり賢くなく面倒くさい残念な性格の眼鏡女子主人公。
SLG大好きな、面倒くさがり屋で変な仇名を人に付ける美少女・枯木流那。
「っす」が口癖で、見た目も性格も小動物キャラな渋谷千夜乃。
楽しいことが大好きで、スイッチのオンオフが激しい破天荒な2年生・針本月花。
そして、阿部先生といえば女性キャラがメインの作品が多いですが、今作では男性にもそこそこ出番があります。
枯木さんを好きなものの当人からは本名を略して「ザッキン」と呼ばれる座間欽一。
その友達のシロスギは、お子様ランチを頼み小動物が好きで少女マンガも読むイケメンということで、とても私好み。
そんな6人のメンバーによって、『空が灰色だから』の明るめのパートのような寸劇が様々に行われていきます。
突然発狂しだす独特のテンションも顕在。
個性を出そうとタナトフォビアやカニバリストを気取ろうとしたり、自作リリックを披露して自爆したりするギドラの痛々しさが中二病患者の胸を突き刺します。
サラブレッド育成やコンビニ経営に励みたい枯木さんにも同調しつつ、ハリセンの体を張ったモノマネに笑いつつ。
幕間描き下ろしの、
誰も傷つけないようにと思って考えた結果
みんなを傷つけることになるなんて
そんなことってあるかよ
…けっこうある
というモノローグに、うんうんあるある、と思わず深く頷いてしまいました。
又、描き下ろしには最終話の後のお話もあり、それまた趣がありつつカレルナさんが可愛いので雑誌派のファンも必見です。
阿部共実先生を知らない方には、まず『空が灰色だから』から入ってみて欲しいですね。
それが気に入ったらこちらもどうぞ、という感じです。
70点。

ちーちゃんはちょっと足りない
阿部共実
秋田書店少年チャンピオンコミックスエクストラもっと!
私は何もしないただのクズだ
未来がせまいよ
エレガンスイブ増刊の「もっと!」にて連載された、阿部共実先生初の長編(一巻完結です)。
『ブラックギャラクシー6』は何だかんだでコメディ色が強いお話でしたが、こちらはかなり心にズシリと来ました。
阿部先生のこの尖り方が、私は大好きです。
公式サイトで試し読み可能です……が、この試し読みの範囲で判断されては困る! という難しさがあります。
主人公の元気少女、ちーちゃんこと千恵。
穏やかな性格のナツ。
ツッコミの鋭いメガネっ子・旭。
この三人の女子中学生を主軸とした、日常系……的な雰囲気を序盤は纏っています。
しかし、今作は既存の日常系作品の枠組みを使いながら、異質な領域へとどんどん踏み込んでいきます。
阿部共実先生は、言うなれば「負の清少納言」です。
人間が抱える様々な暗黒面を的確に捉え、普段具象化されない面をも実に端的に解りやすく漫画という形に料理して呈示してきます。
それは、あたかも世界の様々な事象を見つめる鋭い観察眼によって『枕草子』を生み出したかの如く。
食べるのにも窮するほど物凄く貧しい訳ではない。
けれども確実に平均よりは下回っている。
他の子供より僅かに買い与えられる物や金銭的自由が少ない。
究極的には精神的な豊かささえ持てれば物質的な豊かさはなくても幸せになれるという言説の一方で、「衣食足りて礼節を知る」という言葉もあるように現実的には多くの人にとってある程度の物質的・金銭的豊かさは心の豊かさに直結するものです。
ちょっとくらい
ちょっとくらい
恵まれたっていいでしょ私たち
という彼女の言い分に胸を締め付けられます。
彼女たちの「足りなさ」と父性の不在は、ある意味でKey作品に通じる所があります。
何かが足りないのは、後天的なものでなく、先天的であったり生まれついてのものであったり。
自分ではどうしようもない運命と向き合った時、自然と発露する、せざるを得ない感情や言動。
それを表すモノローグや描写の巧みさに心酔しつつも、突き刺されるような感覚を覚えます。
それでも、彼女たちには少なくとも家族がいる訳で。
ただ、思春期の少年少女にとってはそれでは不十分なこともあります。
酷く突飛でありながらも、驚くほどのリアルさを呈してくる阿部共実先生の中でも、今作は個人的にトップクラスでした。
最初こそ、「同じ登場人物が出て来るお話は『空灰』にもあったなぁ」などと甘っちょろいことを想っていましたが、ノンです。
まさしくこれは長編だからこそ描けた作品。
短編でも文学的な領域でしたが、更に深く穿って「人間」を描写しています。
今後も阿部先生には長編も描いてみて欲しいです。
女の子同士のふれあいの中で心を突き刺して来る物語が読みたい方にお薦めです。
昨晩の今月の個人的NO.1を早速塗り替え、今作が1位です。
80点。
以下、若干ネタバレになる雑感を。

この作品が実に秀逸だと思うのは、一度は自らのありようをこうして肯定する所。
他の人の持っている何がなくても、世界が美しく見える瞬間をナツは噛み締めます。
そこをしっかりと描きながら、その後の事件に繋げて行く構成。
「今ある手持ちで満足だよね」「自分が気付いていないだけで幸せは身近にあるよね」といった命題を呑み込み、まるごと溶解させ、その上で不当に得た利得による幸せを享受する。
それによって結局幸せになることはできず、圧倒的な自己嫌悪を繰り返した末に何も解決することなく共依存のような形で結末を迎える。
これは実に現実的な帰結であり、何かが切っ掛けになって問題が綺麗に解決したり、心が吹っ切れたりすることは珍しいケース。
実際このような解決になっていないしその後で更に思い悩むことになるであろうけれど、相手も自分すらもごまかしてその場はそれで一先ず収めておく、といった態度はよくあります。
余りにも歪んだこの構造、美少女の心の奥底の誰もが持ち得るリアルな醜さが、このポップな絵柄で描かれていることが素晴らしいです。
その、普遍的な「足りなさ」に、愛しみと嘆きを覚えずにはいられません。