僕は問題ありません
宮崎夏次系
この先は知らない道
不安で後ろめたくて
少し気持ちいい
鮮烈な異才を見せ付けてくれた、『変身のニュース』(75点)に次ぐ、宮崎夏次系先生の2冊目の短篇集です。
喪失からの新生や発見。
それを象徴する涙と泣き顔が印象的で、根底には優しさが溢れる作品群です。
帯の「生きていく淋しさを抱えた全ての人の心に虹をかける短編」というのは名文句であり、その通りだと思います。
又、「俺マン2012」で9位だった事も記されています。
『変身のニュース』の記事でも書いた通り、私も俺マンが切っ掛けで触れた作家さんなので、ちょっぴりニヤリ。
『変身のニュース』を読んだ時も、漫画読みとしての喜びを大いに堪能しました。
そして、今回の『僕は問題ありません』でも、最初からとても心地良い読感に嬉しくなりました。
一番最初の「線路と家」(公式サイトでカラー版が読めます)から、またぶっ飛んだ作品です。
祖父により外界との関わりを断つように監禁された女の子。
そんな彼女を、クラスメイトの命令で仕方なく虐めていた少年が彼女と触れ合う物語。
人物や背景、ガジェットのディティールから立ち上る独特の異様な雰囲気。
同じプロットは実写で出来たとしても、この読み味は漫画ならではでしょう。
その中で輝く、繊細な感情表現。
16ページの台詞のないコマからの流れなどは、そこに込められ駆け巡る想いが雄弁に伝わって来て堪らないですね。
「愛している」という想いを表現するのに、「月が綺麗ですね」と言うような美学を感じました。
二話目の表題作「僕は問題ありません」もまた非常に豊かな感情に彩られた作品で、とても好きです。
家族に内緒で大切にし日々対話していた人形を、妻に見付かって全て燃やされてしまう事に端を発するお話。
仕事や家事を真面目に行い、家族サービスもし、ただ趣味だけが多少常軌を逸していた男性。
妻にSLコレクションを全て勝手に処分され、廃人になってしまった夫の俗話を思い出しました。
傍から見たら異端であったとしても、人がそれぞれの大切にする物に対しては寛容でありたいものです。仕事や家事を真面目に行い、家族サービスもし、ただ趣味だけが多少常軌を逸していた男性。
妻にSLコレクションを全て勝手に処分され、廃人になってしまった夫の俗話を思い出しました。
しかし、もし大切なものを失ってしまったとしても、それまでの自分が培ってきた中に輝く物があるかもしれないという希望が眩いです。
「地図から」は、藤子F不二雄先生の短編を思い出しましたが、その帰着が宮崎夏次系先生らしさが溢れていてやはり好きです。
絵はとても癖が強く、好き嫌いもあると思いますが、漫画表現に特化しているという点でとても魅力的な絵だと思います。
内容としては、かなりエッジが利いていた『変身のニュース』に比べると、今作は割と普遍性が増している印象です。
「訳の分からなさ」はかなり減衰し、プリミティブな感情に共感しやすい作りの話が多くを占めるので、普通の人にも是非お薦めしたい作品です。
80点。
ところで、UFOにミカンを入れた味がなかなか想像できません。
いつか試してみたいです。