
トランスノイド 1巻
テルミン
「人間てそういうギミック好きですよね」
「無駄こそが人生さ」
人が宇宙に進出し、それなりの年月が経った未来。

ヤクザの追われ身となっていた剣菱時郎は、道端のバイクを盗んで逃走しようとする。
が、その持ち主は自律型(スタンドアローン)の人型戦闘機(マルチファイタ)であり、あっさりと捕まってしまう。
Yと呼ばれるその戦闘機は、純躯(ネイキッド)である剣菱に体の交換を持ちかける――

そして、奇妙な二人組の宇宙を駆ける旅が始まる――
あらすじだけでも解る通り、固有名詞がバンバン登場する、独自の設定・世界観を密に構築されたSF作品です。

個人的には大好きなタイプの作品で、最初のカラー見開きから心惹かれました。
この宇宙空間に敷かれた道や、投影型の標識が良いですね。
様々なガジェットとその意匠・デザイン、流通する貨幣とシステムなどにワクワクします。

面長めの絵はクセが強いですが、精緻かつ華美に世界観を彩っており、作風には合っていると感じます。
演出面も含めて、良く言えば細かく悪く言えば五月蝿いので、好みは分かれる所でしょう。
消えた娘を捜し求める剣菱。
一方、生身の肉体になろうとするアンドロイドのY。
全体的に雑然とし、テンションの高い作品ですが、人造生命に関する件はかなりシリアスで哲学味が備わっています。
Yの目的、そしてその意義という根幹部分に物想う所があります。
心と電気信号の差異は何なのか。
肉体を手に入れれば人間になったと言えるのか――

宇宙空間での派手なバトルシーンもあります。
作者が自分で言っている通り、何がメインなのか解らないごった煮感に溢れています。
しかし、そんなカオスな読み味は割と病み付きになります。
所々、セリフにセンスも感じます。
未来世界の人々の生活がしっかり描写されていて、説得力もあります。
幕間のコラムや作品の設定解説はとても興味深い内容。
元々、テルミン先生は会社勤めをしながらの同人活動を行っていたそうで、今作に関してはほとんど同人と変わらないレベルで自由に作っているとか。
カバー裏にもオマケが満載です。
総じて面白く、個人的には点数以上にお気に入りの作品。
未来形SF作品が好きな方、細かい設定などを読み解くのが好きな方、男同士のバディ系作品が好きな方は手を出してみる価値があるかもしれません。
70点。

マジカルシェフ少女しずる2巻
水あさと
ここに大弁当時代は終わりを告げ
新たに大カード時代が到来した
既巻紹介 1巻75点
もうダメだこの漫画、早く何とかしないと……(褒め言葉)。
魔法少女×弁当マンガ、待望の第二巻。
前巻で恐ろしいまでの破天荒さを見せ付け、流星のように一瞬の眩い輝きを放ってグランドフィナーレを迎えた『しずる』。
二巻が出るということで、果たしてあのエンドの後に何がやって来るのかと思ったら……
カードゲームバトル!?!?
魔界との決戦@合体巨大ロボ!?!?!?
並の作品にカオスなんて言葉を使っては行けませんね……
カオスという言葉は、『しずる』を形容する為にある。
と、その位言いたくなるような、凄まじいぶっ飛び具合の内容でした。
様々なパロディやネタも相変わらず特盛り。
色々な作品を楽しんでいる人ならば、随所でニヤニヤできる事でしょう。
無駄に壮大なスケール、無駄にローアングルになって来たカメラ、無駄に今回も巻末にあるサービス回……
遺憾なく「これは酷い」と言える内容ではありますが、その一方で作劇に無駄に捻りが利いていたり、科学的な裏付けがしっかりしていたりと、作り込みは丁寧で細かいです。
まるで三ツ星フレンチレストランのシェフが三日三晩かけて作った日の丸弁当のような、無駄な豪華さ。
素直にフレンチを作っていれば良いのに、何故その輝かしい技術を最高の笑顔でここに注ぎ込んでしまったのか……
だが、それがいいのですね。
上記の『トランスノイド』でも言っている通り、無駄こそが人生だから……!
カバー裏には作中に登場するTCGのカードが。
弁撃力という単位だけで噴飯ものですが、私はこの「カニクリームコロッケ」の
場にある「カニカマ」を全て破壊する。
という記述に、大いに腹筋を鍛えさせて貰いました。
現代バカマンガの金字塔と言えるでしょう。
キワモノ作品が好きな方、パロディ系ギャグが好きな方、「一つ 弁当は人殺しの道具じゃない 二つ 弁当とはフタを閉めるもの」という台詞の衝撃の三つ目を見たい方はどうぞ。
75点。