私を連れて逃げて、お願い。1巻
松田洋子
エンターブレイン ビームコミックス
どうかそのまま逃げ切って
安らかに野たれ死んでくれますように
松田洋子先生の新作というだけで完全にマストです。
松田洋子先生の新作というだけで完全にマストです。
そして松田先生は常にその期待に応えて下さいます。
忌憚無く言わせて貰えば、今年発売の恋愛マンガの中でも最高峰に位置する傑作であろう、と。
過保護な祖父母に育てられた福田日芽。
厳しい門限、テレビ禁止、洋服の選択自由なし、女は太っていた方が良いと肥えさせられる……
窒息しそうな環境で日常に生き苦しさを覚えている日芽。
そんな日芽は、夢見ていた「王子」にある日街中で出会います。
王子様の格好をしてた加藤央治は、劇†団モリオのメンバー。
優しくミステリアスな央治を王子として、日芽は自分の生活への変化を兆しを見る――
が、しかしその央治には不穏な影が……
一筋縄ではいかない、姫と王子の逃避行物語。
何しろ松田洋子先生ですから、兎に角人間ドラマが濃密です。
読み進めるにつれて明らかになっていく、王子の強烈な過去。
今作においても、人がそこに至る過程や思考の規範となるエピソードが通常の物語の何倍も色濃く描かれることによって、登場人物達の存在感が圧倒的です。
怠惰さや屈折加減すらも、境遇から生じた悲劇の産物として胸を締め付けます。
そして、訪れる展開も普通の物語とは全く異質。
普通であれば美しさを以って描かれるであろうシーンが退廃的で絶望的であったりします。
過酷な世界の中で必死に虚飾を纏って生きる二人の姿に、人間的な、あまりにも人間的なものを感じずにはいられません。
あらすじだけ書きだすと酷く滑稽にも思える物語ですが、荒々しく生々しい絵と鮮烈なセリフが独自の迫力を生み出し、ガッシリとこの松田ワールドに引き摺り込んでくれます。
松田洋子先生ファンでない方にも、アクは強いですがオススメしたい一冊。
80点。