全てに意味を付けたがるのは
人間の愚かな性です
強欲で 傲慢で 脆弱な
人間の愛しい性です
『式の前日』(75点)や『さよならソルシエ』(1巻75点、2巻75点)の穂積先生の最新作。
新人でありながらたった3冊で、この出版不況と云われる時代に100万部を突破したそうで!
そういった方が出て道を切り拓いて下さることは、漫画業界にとって明るい話題であり素晴らしいお話だと思います。
さて、そんな期待度の高い今作。
個人的には、前二作には及ばないかなぁ……という第一印象でした。
しかし、旅館で働き始めてから読み直すと違った感慨もあり、かつお話自体も良いなあと思い直しました。
ずぼらな性格の、外見は子供の女将がいるその旅館。
そこでは、客人に不思議なことが起こる――
『天間荘の三姉妹 スカイハイ』なども髣髴とさせる、一~ニ話完結型で舞台を同じくしてゲストが変わるタイプの物語です。
訪れる老若男女それぞれのお話が綴られていきます。
その一つ一つが、穂積先生らしい渋みと鮮烈さを伴って感情に響きを与えて来ます。
やはり、穂積先生といえば絵の魅力。
100万部売れた理由の一つは、確実にこの画力にあるでしょう。
男性含め受けの広い画風であるのは勿論ですが、何と言っても表情の描き方が秀逸です。
一人のキャラが実に多様な顔を見せてくれます。
それが、ドラマを盛り上げる装置として十全に働いています。
上記のコマは勿論ですが、その次のコマの表情も実に巧いなあと思わせられるものでした。
そして、もう一つ。
「手は口ほどにモノを言う」とでも言いたくなる、手の演技。
特に、男性の手つきに漂う色気が堪りません。
穂積先生は絶対手フェチだと思います。
『式の前日』のような唸らされる構成や、『さよならソルシエ』にあるような激情こそ、『うせもの宿』にはありません。
しかし、派手な魅力はなくとも、じっくり噛み締めることでまさしく伝統ある老舗旅館のような玄妙な味わいを感じられる作品です。
時折、刺してくるセリフのセンスも流石だと思います。
そして、この先の展開次第で更なる名作になる余地が十分あります。
人情物が好きな方、しっとりした物語をゆっくりじっくり味わいたい方にお薦めです。
75点。