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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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モーテ -水葬の少女-

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モーテ ―水葬の少女―
縹けいか
MF文庫J

人間は矛盾ばかりの存在だ。

公式サイトで立ち読みできます。


2012年……いえ、ここ数年を代表すると言って差し支えないであろう同人AVG「ファタモルガーナの館」(感想記事
)。
最近、コミカライズ、ノベライズ、そしてドラマCDと様々なメディアミックス展開が為され、その世界が広まっております。
どこからでも入り易い所から、是非一度触れてみることをお薦めしたい傑作です。

そのメインライターである縹けいかさんの、初のオリジナル小説単行本となるのがこの『モーテ -水葬の少女-』です。

書店で隣近所に積まれている他のMF文庫J作品とは、およそ纏う雰囲気が異なり、レーベル詐欺に近いのではないかと勝手に心配してしまう位ですが……

イラストを担当するのは、薄桜鬼のカズキヨネさん。
そして、既にドラマCD化が決定と、売れ感溢れる陣容です。


数万人に一人が発症する謎の遺伝子異常、それに罹患した者は必ず十代の内に自殺してしまうという奇病「モーテ」が跋扈する世界。
主人公の少年サーシャは、孤児院ドケオーで美少女マノンに出会う。マノンに惹かれるサーシャだったが、彼女は相談役の男・ドゥドゥに命を脅かされている様子で――

時代こそ現代ですが、舞台となっている場所。
古典的ギリシャ悲劇の文法を踏襲するかのような、実に堂々たる悲劇性。
ヒロインや主人公の行動と言葉遣い。
とあるシチュエーション。
とある展開。

様々な面でファタモル的というか、セブンスコート的というか、ともあれ縹さんのシナリオに通底する物を強く感じられる内容でした。
寧ろ、ここから後のファタモルになっていくのだと考えると感慨深いです。
ファタモルファンには文句無くお薦めです。

外部から隔絶された、訳ありの孤児施設という閉鎖環境。
確率的には微小でありながらも、社会の一部を確実に深く蝕んでいる奇病。
全体を通してダークな雰囲気が色濃くいです。

入り乱れる時系列の中で、次第に明かされて行く真相。
そこに迫る過程も情緒たっぷりに描かれ、堪能できます。
それぞれの思惑が重なり合いながら、綿密に紡がれて行く世界は蠱惑的なまでのテイスト。
読後感を述べてしまうとネタバレになってしまいそうなので避けますが、物語の充実度から来る満足感のレベルは高いです。

カズキヨネさんのイラストは勿論素敵なのですが(表紙も特典ポストカードも本当に美麗)、無意識に靄太郎さんのイラストで思い浮かべてしまう位に、縹さんの文章と一体となったファタモルのヴィジュアルイメージが強く残っていました。
サーシャの立ち絵とかをついあの画風で想像してしまうのですよ。

あとがきによれば、極私的なピュアッピュアな情念によって生み出された作品とのことですが、その恩讐が巻き起こす感情の嵐がこうして形になっているのはとても素敵なことだと思います。
この一冊でほぼ過不足無くまとまってはいるのですが、「シリーズ」という表記になっていた辺りまた別のお話があるのでしょうか。
あるとすれば、この世界の根幹に関わる部分を繙いて下さることでしょう。
楽しみにしていたいと思います。

ライトじゃないライトノベル、ダークめなお話が好きな方、タイトルや設定に何かを感じる方は躊躇わずどうぞ。


75点。

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