『金の靴銀の魚』の市川ラク先生の、デビュー作含む8篇を収録した短編集。
全てのお話に市川先生による解説が付いています。
中村うさぎさんから『ワンダの巨像』まで、影響を与えたものが綴られていて納得します。
個人的には「オーブリー・ビアズリーになりたかった」という、「漠々たる世界でのスキップ」が好きです。

見開きでのビジュアルイメージ、そして最後のセリフが良いですね。
この作品や、「草原のゴーレム」、そして作者曰く業を背負ったデビュー作の、「ひつじの涙」は、概念の映像化を上手く果たしている物語です。

作者自身も好きであると語る「女児国」は中国系ファンタジー、「小人のルンペルシシュテルツヒェン」はグリム童話から。
この二篇からは、″おそれ″を感じます。
非常にリアリスティックで、懊悩に満ちた表題作の「わたり鳥の話」と「ああ、美人。」は、昔から描かれ続けているテーマを扱った現代文学的なお話。

同級生に対する憧憬とライバル心を持ちながら、画家の愛人をやっている美大生の物語。
現状を打破したいともがき苦しみ、そしてやがて茫漠たる世界へと弱々しい翼で羽ばたいていく正にわたり鳥たちのお話。
どうでも良いですが、仏像をハーフパイプにする発想はすごいですね。
そして、震災のボランティアを描いた「鉈屋9丁目36番地」。
実在のNPO団体SAVE IWATEの活動を備忘的な意味も込めて描かれてます。
多種多様な作品が一同に介している本著。
それぞれのお話にテーゼやペーソスが鏤められており、全体的に決して明るくはありません。
物語を単純な娯楽としてでなく、何かを考え感じ入りたいと願う人向けの短編集です。
現代文学好きな方にお薦めです。
70点。