『ももきや』『フライングガール』の笠辺哲先生の、IKKI・ジャンプSQ、SQ19に掲載された作品を編纂した短編集。
この雑誌遍歴だけでも、一筋縄ではいかない曲者感が溢れておりますね。
ギャグ漫画という訳でもないのですが、うすた京介先生による
「シュールレアリスムほのぼの漫画界の雄」
という帯コメントからも、その雰囲気が伝わると思います。
今作は舞台やテーマも様々な、七つの短編が収録されています。

「宇宙戦争」では、戦争が娯楽と化した近未来が描かれます。
戦場の兵士のメンタルがツイッターに支えられており、戦場で皆が通勤電車の中のようにこぞってスマホを眺めている歪んだ様態がシニカルで面白いです。
ヒトモドキアゲハなどのガジェットも楽しいですね。

「ごうつくばりの街とコンニャク岩」
高さ300mのコンニャク岩にひっついて、落ちたら命を落とす危険の中でコンニャクイワクラゲを集めてお金を稼ぐお話。
ヘンテコな世界観に、しかし説得力があります。
個人的に好きなお話。
そして、何と言っても表題作である「ラタキアの魔女」。
素敵な表紙・裏表紙になっていて、表紙買いする人もそれなりにいるのではないでしょうか。
お話としてはありがちといえばそうですけど、しっかりと構成を練ってある面白さがあります。
あとがきマンガの、漫画家は描くよりも消す量が多いから何よりも優れた消しゴムを求めるという件には、成る程と思いました。
読み味は様々で、最上ではなくとも雑誌に載っていたら嬉しく、楽しみに読む。
そんな作品群です。
又、とよ田みのる先生や西村ツチカ先生が意外な形で絡んで来るのも見所です。
全体的に可愛らしいテイストの絵で温かみもありながら、時に猥雑で暗い側面もある独特の雰囲気。
『注文の多い料理店』や、多少の警句を含んだSF的小話が好きな方にオススメです。
70点。