耽美な絵柄とネジが50個くらい飛んだネタのマリアージュが素敵な『ふうらい姉妹』。
その作者である長崎ライチ先生が、この度2冊同時発売を行いました。
ふうらい姉妹3巻
危険な場所に咲く花ほど
美しい輝きを放つのですよ
お嬢さん
既巻紹介 1巻75点 2巻75点
巷で大人気の、残念な美人姉妹を描いた4コマ漫画最新巻。
小さな書店でも平積みされていて、ビームコミックスというレーベルの割には(テルマエ・ロマエでブレイクした感はありますが)かなりの有名作かのように思ってしまいます。
黙っていれば美人にも関わらず、いつもいつも言動が突飛すぎて残念すぎる姉、今回も全力全開です。
その、イノセントな発想には時に大笑いし、時に驚かされます。
妹のしおりは、普段は姉の優しいツッコミ役ですが、大好きな高橋くんの前ではちょっと残念なことに。
それもまた可愛いのですけれど。

今巻は二人の小さい頃を描いたおまけマンガも収録。
相も変わらぬエキセントリックさはそのままに、しかし謎のハートフルさも持ち合わせていて、読むと幸せな気持ちになれました。
書店で実際に単行本を手に取り、表紙・裏表紙・帯を見るとほぼどんな作品かは掌握できると思いますので、それが感性にフィットするようであれば、迷わずGO! です。
75点。

阿呆にも歴史がありますの
長崎ライチ
先輩は人間と結婚して幸せですか?
長崎ライチ先生の未公開短篇集。
『ふうらい姉妹』以外の作品を知りませんが、作風は違えど「ああ、長崎ライチ先生だ」と満面の笑みになるような作品ばかりでした。
極普通の少年である青木すなおの初の転校先を描いた「おもちゃの学校」。
緊張の転校初日、教室のドアをくぐると

そこには異世界が待っていた――
唐草模様のトーンを背景に使う高等技術を、いとも容易くやってのける!
そこにシビれる憧れるゥ!
そんな中で、後ろの席のかわいい女の子、静音さんだけが唯一まともなのだが……
静音さんの朗読しているこの『海老の呪い』を読んで、あまりの文才に嫉妬すら覚えつつ抱腹絶倒でした。
私は体丸ごと一体捧げているのだ
隣のあいつはたった一片の切り身ではないか
切り身ごときに
切り身ごときに――――
最後の反復が最高に効いていますね。
やはり長崎ライチ先生は天才だと思いました。
他にも、アパートの片隅で餓死寸前のダメ男が意を決して就職の面接に挑むお話「面接コワイ!!」。
ストンと落ちて来るお話ではあり面白いのですが、ただでさえ濃いお話が濃い男性キャラクターが出て来ると更に密度を増す感じですね。
『ふうらい姉妹』は、その点で美女と美少女による中和というか塩梅が絶妙で心地よいのだと再確認しました。
森の女神は、お姉ちゃん的な残念さであり、お姉さんの転生した姿というか、この女神さんが人間として生まれ落ちたのがお姉ちゃんなのではないかとすら。
また、「神様とお子」や「宇宙人の店」などは、「なるほど、こういうのもあるのか!」と、引き出しの多さというよりは、長崎ライチ先生の鋭敏な感性を尖らせる矛先を変えたお話の一形態を見た思いでした。
『ふうらい姉妹』で押し殺していた様々なパッションが、この短篇集に噴き出しているかのようです。
されど、根本的に長崎ライチ節全開。
奇矯でありながらも、どこか優しい風が奥底から流れて来ているような、そんなこの作風が愛しいです。
表紙の少女が抱きとめた「阿呆の歴史」は、しかし掛け替えの無い煌めきであり、そしてまたこの世にはその煌めきを楽しめる人もきっと多くいることと思います。
そういった方に今作が行き渡る事を祈ります。
カラーやイラストギャラリーもあり、長崎ライチ先生ファンは必見にして必携です。
75点。