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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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はじまりのはる1巻

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はじまりのはる1巻
端野洋子

自分のどん底を知ることは必要だぞ

公式
で試し読みができます。


3篇の短編からなる、この単行本。

最初にアフタヌーンに掲載された読み切り「ミルクボーイ」は、思春期で様々な悩みを持つ少年目黒純が、本郷玄太のいる牧場でバイトを始めるお話でした。
これだけでも、家庭環境に悩まされつつも、将来への道を見付け、また『銀の匙』的な要素もある良質の短編でした。

しかし、そこから福島県在住の作者によって、東日本大震災と原発事故を経て、主人公の居住地を栃木から福島に、そしてテーマも大きく変えた続編の表題作短編「はじまりのはる」が描かれます。

photo:01

そこで痛切さを以って描かれるのは、福島県の酪農業者の現実。
大事に育てて来た牛達を天の采配で殺処分せねばならないかもしれない状況に陥り、更に愛する土地でこれから先の未来においても牛を飼うことを許されないかもしれない……
30年間風邪を引いたことすらなかった母親も倒れ、いっそ牛も全部殺したら自分も楽になれるのでは、と考えてしまう玄太の悲哀は察するに余りあります。


photo:02

そして、状況を悪化させる風評被害を誘発するネット上の記事。
記事を書いている側も、100%悪意で書いている訳ではないのでしょうけれど、それがまた逆に恐ろしい所ですね。

解らないっていうのは戦えないって事だし
簡単に恐怖に飲まれるよ

という作中の台詞が刺さります。
何を恐れるべきで、何を恐れなくても良いのか。
正しい知識は、全ての人が身に付けるべきものでしょう。


photo:03
逃げてもいいし間違えてもいい
弱音は吐け!!
その代わり生き残ってくれ


この台詞は、「ミルクボーイ」とも共通する訴えです。
目に生の輝きを宿して未来を志向する純の姿に、感動を覚えます。


そして、開催ふくしま駅伝を目指す少女のお話「故郷」。
こちらでも、

差別っていうのは
理論がおかしくたって関係ないんだ


という節が痛烈です。
広島長崎の件も言及されますが、人間というものが如何に進歩しているようでいて成長できていないかと思わされます。

日本人ならば、この作品に描かれた絶望感・悲壮感と未来への眼差しを忘れてはいけないでしょう。
この漫画は多くの人に読まれるべき価値ある作品です。


80点。

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