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Channel: マンガソムリエ兎来栄寿のブログ 先刻の箚記(さっきのさっき)
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君と彼女と彼女の恋。 感想

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※前半はネタバレ無し、後半の注意書きより下はネタバレ有りです




ニトロプラスの最新作となるAVG。
メインライターが「シュタインズゲート」構成協力や「アザナエル」の下倉バイオさんという事だけでも期待感の高かった今作。

錚々たる方々が先行プレイによるインプレッションを発表なさっていました。

「君と彼女と彼女の恋。」先行プレイレビューまとめ
http://togetter.com/li/507203

「428」のイシイジロウさんが。
「シュタインズゲート」「ブレイブリーデフォルト」の林直孝さんが。
星海社の太田克史さんが。
コンシューマで最も面白いAVGだと思った「Ever17」の中澤工さんが。

そして、個人的に最も衝撃的で美しいと思ったAVG「最果てのイマ」の田中ロミオさんに至っては特別インタビューにてこの意欲的な作品への称賛を独特の笑える文章で。

これ程までの方々に悉く絶賛されていた事が、私にプレイせねばならないという使命感を抱かせました。


大阪・吉野に行く直前の修羅場から、未開封のまま少し放置してしまっていましたが……
プレイ時間も15時間程度というお話だったので、頑張れば2日で終えられそうだな、と満を持してプレイ。


……ああ、私はこういう感情を味わったからこそこの世界に惹きつけられ、今なおAVGをプレイし続けるのだなあ、と。
求めていた衝撃が、確かにそこにありました。

「EVER17」「CROSS†CHANNEL」「リアライズ」「リトルバスターズ」「ダンガンロンパ2」……
AVG史に名を残す傑作をプレイした時に味わえる、極上の旨味。
とりわけ、このAVGという形式であるからこそ表現可能であり、他の媒体では味わえない絶佳。
それが「ととの」にも期待通りに備わっていました。

AVGの一つの極点に達した作品と言うのに、全く憚りがありません。

この作品の凄さをネタバレ無しで説明するのは非常に難しいです。
しかし、この一撃は確かに途轍もなく重く、深いです。
やってくれましたね、下倉バイオさん……

美少女AVGはもっともっと先に行ける筈なんだ、という想いで作られたという「ととの」。

個人的にはこの挑戦への礼賛を惜しみません。
やって良かったと心から思います。

序盤の起伏の乏しさや、とある不足感、エラーによる強制終了など欠点もそれなりにあります。
しかし、色んな意味でそれらすらも許容できてしまう凄い作品です。

全ての人にお薦め、とは行きません。
様々なAVGをやって来た人にこそ届く、中~上級者向けの作品でしょう。

しかし、逆に言えばAVG経験がそこそこある人であれば、やらない手はないかと思います。

こんな物を創ってしまって、この次はどうするのだろうという部分が心配になってしまう作品です。

点数を付けるのが難しいですが、80点より下はまず付けない秀作です。






これより下は、核心に触れるネタバレ全開の雑感となります。
未プレイ・未クリアの方はくれぐれもご注意下さい。






















ふぅ、ネタバレ無しで「ととの」の魅力を伝えるのは難しいですね!


タイトルが「君と彼女と彼女の恋。」で、メインビジュアルが二人の女の子。
そして、発売前にTwitterでどちらのヒロインが良いか尋ねて来る公式。

黒髪ロングストレート原理主義の私としては、美雪を選ばない理がない訳ですが……
それが後々、あんな事になるなんて全く思っていませんでしたよ!
さらりとえげつない事をやってくれますね、ニトロさん。
それがいい。



まず、パッケージの異形。

photo:01

初のUSBメモリによる成人向けゲーム。
新時代を感じながら箱を開けると、そのデザインは良いとして、謎のタイルに笑いました。
重みの90%はこれか! と。
純粋にUSBだけだったらもっと小さい箱で販売出来るのでしょうね。
しかし、タイルに差し挟まれた謎の数字を書いた紙との意味不明さが、作品への期待感を高まらせてくれました。

このゲーム、どこからどこまでも普通じゃない、と。


リストの愛の夢と共に始まった「ととの」。
愛の夢という曲名自体も作品的に様々な暗喩になっていますし、又、愛の夢が流れるAVGといえば、「メモリーズオフ2」、「アメサラサ」、「魔法使いの夜」、「WHITE ALBUM2」……
こうして列挙すると、それぞれ作品内容的にも「ととの」に通じる部分があるような気もします。

そして、冒頭で「とぅるるるるるるるる」と登場するアオイ。
ジョジョラーなら誰しもがドッピオか、とツッコミたくなったであろう彼女。
屋上で電波のやり取りをし、「デンパ届いた?」という姿は、VNの始祖たる往年の名作「雫」の瑠璃子さんを思い出させずにはいられません。
美少女AVGを様々な面でメタ化して捉えた今作は、一方で様々な名作へのオマージュも詰まっているなぁと感じました。


最初は普通の美少女恋愛AVGでしたよね。
ツンデレ幼馴染がいて、変なヒロインがいて、悪友がいて。
選択肢の度にセーブしながら進めて。
最初は美雪ルートに行こうと、アオイを遠ざけつつ美雪に近付く選択を繰り返して、めでたくスタッフロール。
しかし、別段何ということはありませんでした。

もしかしたら、ここでプレイを止めてしまう人もいるかもしれませんね。
多くの人々が絶賛する「ととの」がこんな物の訳ないでしょう、と二周目へ。

二周目は常道として、アオイルートへ。

ゲームのヒロインを自称するアオイのセリフには「セーブしてロードすればいい」や「CGを集める」など、メタ的なものが頻出します。
成る程、あらゆる美少女ゲームのヒロインのアバターですか。
プレイヤーは何人ものキャラクターを攻略するのが当たり前なのに対し、ヒロインの化身が一人で無数のキャラと関係を持つ事に抵抗を覚えるというのは、考えてみれば傲慢な話です。

そして、そこで遂に真の「ととの」が始まる訳ですね。

それまでは極力控えられていた画面演出をふんだんに使って。

特典の複製色紙の絵からして、ハイライトの無い所謂レイプ目だったアオイの目に光が宿ったのと対照的に、光が消えた瞳の美雪が「ひぐらし」ばりの変貌の恐怖を以て。
永遠の愛を誓った筈の我々に対して。

「君に言ってるのよ」
と。

所々、美雪に不穏な気配を感じてはいましたが……
まさかそんな展開にして来るとは。

アオイと龍太郎と心一の交合をベッドの下で聞いていたというだけでもアレですけど、そこからのあの展開は本当に震えて奮えました。

それは、今までに存在した殆どの美少女AVGへの強烈なアンチテーゼ。

一人のキャラに永遠の愛を誓いながら、一方で同じ体で別の選択肢を選び他の子にも同様の愛を捧ぐ。
それは、ゲームという形式で為される物語に於いては必然的で不可避な物です。
ただ、一歩引いて考えてみれば、倫理的にそれはどうなのかという発想も勿論あるでしょう(中には、一人のヒロインに入れ込み、その子以外のシナリオをやらないというピュアな戦士もいると思いますし、そういう人は平穏無事な完結を見るのですけれど)。

「ととの」は、そこを徹底的に抉って来ます。
しかし、そういう発想がたとえあったとしても、それをこういう形で(しかもニトロ程の大御所で)一本の作品にしてくるというのは、なかなかの大冒険でしょう。

そこから、美雪のプログラムによって世界が改変される件は圧巻ですね。
かなりオールドな、ノイズ混じりのインターフェイスがもたらす不安定感。

選択肢を選ぶことを許してくれないですし、セーブして止めようとメニューを開いても「セーブなんてできないわよ」と言われるという(笑)
美雪の用意したセーブデータは狂気的ですし、ゲームを終わらせると、謎の声とノイズ画面がまた不気味ですし。
と思っていたら、何回か終了させている内にアオイの呼ぶ声だと段々明瞭になって来て解るという。
この辺の演出の凝り方は素晴らしいですね。
素直に凄いな~このゲームと思いました。

美雪の無限ループの中では結構頻繁に強制終了するエラーが起きてしまっていたのですが、何となくその時選んだ選択肢の適時性から、最初はそれすら仕様・演出の内なのかと思っていました。
セーブはオートで行われていたので安心ですけれども。
タイミングが絶妙過ぎて、それすらも物語の範疇に組み込まれていたとしてもおかしくないという認識に至らせてくれた時点で勝ちです。

そして、一度は永遠の愛を誓ったヒロインの無限ループの元から脱出するサバイバルゲーム。
「君が望む永遠」のマナマナシナリオ辺りを思い出しました。
そこで、それでも美雪に愛を誓い続けて永遠を過ごすも良し。
更なる裏切りによって脱出を図るも良し。
この作品では、それぞれの物語の在り方が許容されます。

話に聞くところによると、10問連続正解クイズ時の3の30乗という数字は本当で、実際に美雪の好みはそれぞれのプレイ内容で異なっているとか。
ちなみに、私の美雪は、りんご飴とアップルの香が好きで、チョコバーが好きで、アンダースローで、決め球はカーブで、子供の頃は魔法少女を夢見て、手品の本を買い漁り、舞台公演のチケットが欲しく、猫の癒し系DVDを買っていた子でした。
「ととの」が何万本売れているか解りませんが、「その人にとってだけの美雪」がその中にいる訳です。
恐らく膨大な隠しイベントもあるでしょうし、固有の形で唯一性を研ぎ澄まされたヒロイン。
圧巻過ぎます。

まさかの7/7限定であろう、七夕イベントも搭載(笑)
これ、きっとクリスマスやバレンタインなんかに起動しても専用イベントがありそうですね。
プレイするのがちょっと遅くなったからこそ見られたのだと思うと、何とも。

ある意味で美少女ゲームの未来、一つの理想をここにも提示しています。
無限の分岐と反応があり、意思すらも宿ったヒロインがもし存在したならば、それは――

ともあれ、私は美雪を推していますが、脱出に血眼になりました。
この脱出に至る為に、スマフォを覗かせるという行為も罪悪感を喚起させる素敵な仕組みですね。
美雪が狂乱してしまった原因も、そもそもプレイヤーの軽佻浮薄さにある訳です。
業の深さがそのまま面白さに繋がる構造が秀逸過ぎます。

写真フォルダの日付がプレイ日と重なっているのも、イベントが起きる度に逐一記述が更新されていくのも感心します。

最後のアオイを呼び出すナンバーの謎解きも面白いですね。
こちらからの入力が可能なゲームという媒体ならではの面白さが詰まっていました。
中出しの回数が鍵になるというのもこの業界の作品ならでは。
ちなみに私は6回でした。

そして、最後に待ち受ける究極の選択。
これは、「DQ5」のビアンカとフローラを超えましたね。
何せ、本当の意味でやり直しが利かない一回性の選択。
再プレイしてもう片方を選び直すということを、構造的にもシステム的にも物語的にも倫理的にも拒否するという、かつてない形です。

もう、この最後の二択だけでも称賛して止みません。
私は、初志貫徹で(貫徹できてない負い目があるんですけど)美雪を選びました。

すると、最後も強制終了してしまったので(苦笑)ちゃんとイベントを見られたのか心配ですが……

その状態でゲームを起動すると、一番最初の愛の夢から始まるシーン。

美雪が着信メロディに設定しているこの曲のタイトルは、文字通りの愛情に満ち溢れた夢のような時空であると共に、世界を隔てた愛という虚構、夢想も表すのではないかと。
改めて聴くと、穏やかなメロディの背後にある激情の渦巻きを感じるようです。

そのたまゲームを進めると完全にアオイが排された世界。
そこで心一と美雪は改めて恋人としての関係を始めて行きました。
そして、送られて来る三人が笑えた時の写真。
選び取れない、第三の未来がそこに。

それから真のEDロール。
ここで流れる曲は良かったですね。
サントラ欲しいです。

タイトル画面に戻ると、ロゴが「君と彼女の恋。」に。
ああ……
CGやシーン回想も、見事なまでに美雪だけに。

ビューティフル。

私は、物語自体が面白いのは勿論、演出やその構造自体に感銘を受けられるようなゲームが大好きです。
その意味で、「ととの」改めて「との」は素晴らしく私好みな作品でした。

気付けていない仕掛けや要素、意図もまだまだたっぷりありそうですけれど……

最終的に、タイムトラベラーズのおまけモード「TTフォン」のような物で、選んだヒロインとずっと共にいれたら良かったかもしれないですね。

様々なタブーや覇道に清々しく斬り込んで行ってくれたこの偉大なる野心作に、心から拍手を送りたい気持ちです。

しかしながら、こんな作品を作ってしまったら次は普通に「スマガ」みたいな物を、とは行かないですよね?(笑)
どうするんでしょう。
その辺も含め、次回作が楽しみです。


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