IT企業に務めるOL・ののか。
天然でかわいい外見でありながら、ご飯は五合をぺろりと平らげる大食らい。
そんなののかの胃袋を満たしてくれるのが、ののかと同棲中の駆け出し小説家・あや。
短髪で細身、スタイリッシュで男っぽさもある外見ですが、料理が大得意。
色々と対照的な二人の、食を中心にした日常が描かれて行きます。
兎に角、あやさんの作る料理が純粋に美味しそう。
そして、ただ料理上手なだけでなく、お米は手間を掛けて土鍋で炊いてくれるし、焼き肉の後にはさっぱりとした柚子シャーベットを用意していてくれるし、あまりにも気の利く良妻ぶりはののかでなくても惚れるというもの。

特別に凄いものでなくとも、南蛮漬けだとか豚肉の生姜焼きだとか、白米にひたすら合う良いオカズが上手に作れるって素敵ですよね。
これらにより、完全にののかの胃袋を掴んでいるあやさん。
しかし、ののかが一方的に好きな訳でなく、一見クールなあやさんが実はのどかを溺愛している事実。
その一連の描写がニヤリティ高いです。
そんな二人の「デザートはののかで♡」的な同棲生活が、練乳やシロップをたっぷりかけたホットケーキのように甘~く描かれる……
のも確かではあるんですが。
それだけでは終わらないのがこの『満腹百合』。
苦悩……!
この百合マンガはゆるふわなだけでなく、薔薇の棘が刺さるような痛みや悩みもしっかり描かれて行きます。
合コンに誘われて行くというののかにざわつくあやさんの気持ち。
子どもを可愛がり、欲しいというののかに感じるあやさんの無力感。
女同士では成し得ないことへの絶望と、それでもという想いの鬩ぎ合い。
身を引くべきなのか。
どちらが相手の為になるのか。
この葛藤こそ、百合マンガの醍醐味。
前半が明るい分、後半の展開がより際立ちます。
思わず頭の中の冬月とケンドウが、
「いい百合だな」
「ああ……」
と会話していました。
絵柄は若干粗さが目立ち、好みが別れる部分かもしれません。
個人的に好きなのは、手書きの小さい文字によるセリフのセンス。
冒頭に引用した物や、
「どれも…ごはんが進むっ……!」
の後の
「稲穂が実る…!」
などは良い表現ですね。
カバー裏にもオマケがありますので、お見逃しなく。
グルメマンガが好きな方にも、百合マンガが好きな方にもオススメです。
両方好きなら倍率ドン!
70点。